副社長の執愛 〜人間国宝から届いた壺を割ったら愛され妻になりました〜

またたびやま銀猫

第1話

 がちゃん!


 落ちた壺が大きな音を立てて割れた。


 どうしよう、と私はその破片を見た。


 顔を上げると、難しい顔をした副社長の桐坂碧斗とうさかあおとさん。


「これは人間国宝の……」

 彼のつぶやきは途中で消えた。


 私の顔からは血の気がひいていた。


***



 その日、私はいつも通りに出社した。


 この会社で働き始めて四年、二十七歳になる。


 仕事内容は副社長秘書。


 子供の頃は、大人になった自分がまさか秘書になるなんて思いもしなかった。


 テレビで見る秘書はいつもびしっとスーツを着て、

「社長、次のご予定は」

 なんて言っていて楽そうだな、と思っていた。


 実際はサポート役として忙しい。優雅に「次のご予定は」なんて言ってられない。


 入社したときはどの課に行くかなんて予想もできなかった。事務だといいな、となんとなく思った程度だった。


 研修を終えて辞令をもらったとき、度肝を抜かれた。


 支倉睦美はせくらむつみ殿

 辞令 七月一日をもって勤務を命じる。


 私は驚いてなんども確認してしまった。


 秘書課勤務だけでも驚いたのに、その後は副社長の専属になるなんて、思いもしなかった。


 だけど給料が大幅アップしたし、がんばって仕事をこなしてきた。

 仕事内容には不満はない。


 唯一の不満は、三十歳になるイケメン副社長が口説いてくることだった。

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