第16話 メルファス教。

 

 メルファスは目をまん丸にした。


 「ええーっっっ!! 保全システムが顕現するなんて聞いたことないんだけど……」


 シスたんは答えた。


 「昨日、龍俊にポー……カーで負け……たからな……。だが、わた…しが、この姿の間は、龍俊は生命維持に必要な第七階梯スキルの超回復以外を使え……えない。きをつけるベキ」


 龍俊はシスたんの手を握って、宿屋の方に引っ張った。


 龍俊はニコリとした。


 「シスたん。拙者のスキルは、どれも元々、戦闘の役にはたたないものっす。なので、どれもこれもあってもなくても変わらないっす。それより、シスたんと話せる方がハッピーっす」


 シスも微笑む。


 「龍俊……、悪くない」


 メルファスは頭が混乱している。


 (なにこれ。イレギュラーすぎる。しかも、あのシステム、龍俊にデレってない?)


 3人は宿屋についた。

 ドアを開けると、女主人が顔を上げた。


 「3人なら、9000ピリアだよ」


 龍俊は戸惑っている。

 そして、女主人に訴えた。


 「あひょー。シスたんは、たまたま今は目に見えているだけの幻影っす。だから、実質、2人っす」


 女主人は眉間に皺を寄せた。


 「はぁ? 何、意味の分かんないことをいってるんだい」


 「ち、ちょっと、違うっすー。シスたん、元に戻るっす!!」


 すると、シスは答えた。


 「……いまは、魔力がないから戻れない」


 龍俊は諦めない。


 「女将さん!! ここは子供料金はないっすか? このシスたんは、生後0日の新生児っす!! 新生児が有料とか、聞いたことないっす!!」


 女主人は目を吊り上げた。


 「は? その子、どうみても16,7だろ。なんてケチなんだい。その子が可哀想だろ。きっちり9000ピリア払ってもらうからね」


 その様子を見ていたメルファスは思った。


 (ケチっていうか、無一文なのよ……)


 龍俊は言った。


 「とんだぼったくり宿屋っす!! 生後0日にお金とるなんてっ!! く、クチコミに書いてやるっすー!! ……ところで、宿泊費はチェックアウト時でもいいっすか?」


 女主人は肩をすくめた。


 「アンタみたいに不審なヤツの後払いとかありえないね!! ……っと言いたいところだけど」


 女主人は、首からかけていたペンダントを眺めた。それは、慈愛に満ちた笑顔の女神がモチーフだった。そして、話を続けた。


 「そこの銀髪の女の子。慈愛の女神メルファス様にソックリだね。 特別に今回だけオマケしてあげるよ。でも、無銭宿泊は許さないからね!!」


 女主人の温情で、龍俊達はチェックインができた。客室は一番安い部屋で、ベッドが一つと簡単なテーブルと椅子があるくらいだった。


 一息つくと、龍俊は言った。


 「メルたんのおかげで助かったっす!!」


 メルファスは胸を張った。


 「ふんっ。当然よ。信者だっていっぱいいるんだからねっ」


 龍俊はニヤけた。

 腰を捻り、ボーリングの投球フォームのように右人差しを天に向けている。


 「信者に教えてあげたいっす。あなた達の信じる女神はオナニスト……ぶほっ。あべしっ」


 メルファスに蹴られて、龍俊は吹っ飛んだ。


 「はぁ……、わたし、いつ天界に戻れるんだろ……ほんと、わたし可哀想」


 メルファスは、転がる龍俊を眺めながら言った。だが、その口角は上がっていた。





 



 


 

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