幼なじみは気づいてない! 恋に疎すぎるふたり、ずっと無意識ラブコメ……のはずが?
そらいろきいろ
港とミナモ
その1 「変わらない距離」
1. 幼なじみは気付いてほしい
「――――あ゙ーーっづ!」
おでこにじゅっと痛みが走り、
……でもなんとか踏みとどまった。
「――――なんてこと……私としたことが」
ほのかに温かいクルミ色の前髪をさっと上げて、じぃっと鏡を覗き込む。
自分でも密かにお気に入りの、すべすべなおでこ。その真ん中がわずかに赤くなっていた。
このひりひり具合、火傷になるな……。
べたぺたとクリームを塗りつつ、軽くため息をつく。
しかもこの位置、前髪が当たるからいらん存在感を主張してくるし。
気になって触っちゃいそうだけど、それで友達に――アメやシズにバレて、からかわれるのも恥ずかしい。
「…………しかたない。カモフラージュ!」
コバルトブルーのヘアピンを取り出してぱちんと着けた。
童顔だし着けると余計に子供っぽくなるからと、最近はほとんどしていなかったコレ。
アメとシズなら真っ先に気付いてツッコんでくるだろうけど、その下にまで意識は向かないはずだ。
そんなことを考えながら、プラスチックの表面をつるつる撫でて――――。
「――そうだ、どうせ着けていくならアレにしよ」
するりと外した。
さっと髪を払い、小走りで自分の部屋に戻る。
机の上、箱の中に大事にしまってあったものを取り出して、再び洗面所へ戻ってきた。
それを前髪に差し込んで、パチンと着ける。
「……ふふ。あいつ、気付くかな」
スカイブルーのヘアピンをくいくいと弄りつつ、ミナモは鏡の前でにまっと笑った。
そのうちの一つ、オレンジ色が目立つ支柱の根元に男子生徒が一人。
しゃがみ込んで、熱心にタンポポを見つめていた。
「…………あれ、なに?」
「さぁ…………フラれたとかじゃない?」
通り過ぎる生徒たちに奇特な目で見られ――――。
「ほら、LGBT? とかそういうのだよ。つまり植物に恋する人なんだよ……」
――――あらぬ誤解を囁かれても、彼は全く動じない。
……というより、気付いてすらいなかった。
彼の意識はタンポポと、右手に持った本に向いている。ぽつりと呟く。
「食べるとしたら天ぷらかな。花を揚げたり――」
「…………
その背中へハスキーな声がかかる。
呼ばれた男子――
そこには制服姿の女子が一人。
肩まで伸びた、クルミ色の髪。
人懐っこそうな下がり眉。
跳ねたまつ毛の下、飴玉のようにころんとした茶色の瞳が、じぃーっと港を見つめていた。
毎朝おなじみ、幼なじみの天王洲ミナモ。
「――――おはよう、ミナモ」
「おはよ。……で、どうして突然タンポポなんて食べようとしているんだ。お財布落としてお昼代なくした?」
あいさつを返して、ミナモは港の隣にしゃがみ込む。
港の手を持ち上げて、持っていた本の表紙を見た。
「『ポケット図鑑 食べられる山菜•木の実』……?」
「そう、昨日父さんの机の裏から出てきてさ。読んでみたら意外とそこら辺の雑草も載ってて、しかも調理法まで書いてあって! ちょっと食べたくなるじゃん?」
「…………確かに。食べてみたくなるっ!」
うんうんと頷くミナモ。幼なじみはノリがいい。
そういうわけで、手始めにタンポポから試してみようと思ってさ――――なんて言いながら港は図鑑を閉じ、立ち上がった。
しゃがんだまま、ミナモはそれを見上げる。
「……だけど港くらいだろ。高校生でタンポポ食べようとするやつは」
「そうかな? それにミナモも乗り気っぽかったけど」
「――――ふふ」
小さく笑って、ミナモは手を伸ばす。
港にぐいっと引っ張られて立ち上がり、片手でスカートのシワをぱんぱんと伸ばした。
「行こうゼ。あまり遅れたくないし」
「そうだね」
並んで二人は歩き出す。
身長差はあまりなくて、ときどき肩と肩がさっと擦れるが、港もミナモも気にしていない。
――――ヘアピン、やっぱり気付かないか。
心の中で、そんなことを思うミナモ。
まぁ港は男子だしなー。
男子は鈍いって言うしなー。
それに火傷のカモフラージュだし、気付かないならその方がいいのかもしれない……。
「――そう言えば、ミナモ」
「どうした」
「いやヘアピンしてるの久々に見たなって……それ前に誕プレであげたやつ?」
「――――まあなー。気分だよ気分っ!」
にまぁ、とミナモは笑う。
なんだよ気付いてたのか、なんてツッコミを心の中でして、ぴょいと段差を飛び越えた。
風がふわり、前髪を揺らす。
「ほら、急ご。一限は体育だから着替えの時間がなくなる!」
「そうだね――――あれ」
「ん?」
「おでこのここ、火傷?」
ミナモはぎちち……、と振り返った。
固まった港の頭を、すぱん! とチョップ。
「いたっ」
「……そこは気付かなくていいんだよ。走るぞ」
港の手を無理やり引っ張り、走り出す。
いつものように、幼なじみの朝が始まった。
――――――――【あとがき】
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