第49話

俺がやさしいなんて。


世界がひっくり返っても有り得ない。


しかし能天気な顔を見ていたらそう言う気も萎えて、わざわざ朝から作ってくれたみそ汁を無言で飲んだ。


……めっちゃうめえ。




「これ、」


「うん」


「なんかめっちゃうまい。なんで」


「あ」



蛍はびっくりした顔をしてから、はにかんだ。



「出汁ちゃんと取ったの。粉じゃなく」


「だし?」


「……見たことない? 出汁取るとこ」


「ない」



だしって何。料理に使うのか。味噌汁って味噌だけじゃねえの?

俺の疑問が顔に出ていたのか、「そっかー」と神妙な顔をして頷いて、「じゃあ今日の夜お出汁もう一回取るから、眞夏も一緒にやる?」と首を傾けた。



蛍のやることなすことが新鮮だけど、中でも毎日魔法のようにその手から作り出される料理の数々は未だ知らぬ世界だ。姉貴が家にいたころも、コンビニ弁当だったり、インスタントだったり、冷凍食品だったりが多かった。姉貴は合理主義で無駄を嫌う。料理が好きなタイプではなかった。

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