第28話

なんでそんなやさしいことを平気な顔をして言うのか理解できなかった。中学生だけど働いて金を得るということがどれだけ大変なことかは身にしみてわかっているつもりだった。きっとおれが高校生になってバイトを始めても、自分のことにいっぱいいっぱいで、他人のためにそれを使うことはないだろう。


蛍は車の免許の資金も、学費も生活費も、奨学金を借りたりバイトをして、すべて自分で賄っている。あの狭いワンルームにひとりで暮らしながら。



オトウトという肩書きそれだけでここまで優しくされる謂れはないはずなのに、蛍は当然のように俺のために飯のレパートリーを増やしたり、こうやって買い物に出かけたりする。



正直理解できない。

偽善者。という言葉が脳裏にじわりと浮かんで、しかしそれを伝えるのには、絆されすぎていた。




「…………ありがとう」




聞こえるか聞こえないかくらいの、

かすれた声でそう言えば、笑うと思った蛍は、なぜかひどく困ったような申し訳なさそうな顔をして首を横に振った。



「今日ごはん食べてく?」


「……うん」


「こないだの挽肉まだ冷凍してあるから、ハンバーグにしよっか。あと野菜いっぱい入れたスープとかどうでしょうか」




中学生には栄養取らせないとねと言いながらレジに進んだ蛍の背中を見ながら、うれしいはずなのに憎しみに近い感情を抱いている自分に気付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る