第22話




「あ、眞夏。おかえり」



弁当箱を返すために寄るだけだったが、蛍がそう言って笑うからつい「……ただいま」と返してしまった。俺みたいにふざけて言うのではない。本当に「おかえり」と思ってる蛍の声に心の奥がむず痒くなったような。



「なにしてんの」



そして、いつもと違ったのは蛍がアパートの前に停めてあった車に乗り込んだことだった。



「買い物行こうかと思って。眞夏も行こう」


「は?」



なんでわざわざ車で?ぽかんとすると、蛍はいつもみたいに穏やかに笑った。その笑い方に一瞬見惚れる。蛍は時々、俺にこうやって笑いかける。まるで子供を見るような、慈しむような、その笑い方は蛍にしか出来ないんじゃないかと思うくらい、綺麗だ。そう思った自分に舌打ちする。なに絆されてんだよ。



「……つか、車持ってたんだ」


「いやさっきレンタカー屋さんいって借りたの」


「は?なんで?」


「眞夏とドライブでもしようかなーって」



おいで、と視線で中に入るよう言われて、流されるように自然に助手席に乗り込んでしまった。



蛍は手慣れたようにエンジンをかけて道路に乗り込む。



「なんか聴く?」

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