第9話

「眞夏くん」


「なんだよ」


「今日どうする?泊まる?泊まるなら、一応連絡はする。そうじゃないと、無理だよ。ごめんね」



そう言うと、眞夏は少し黙ってから視線を下げた。考え込むような表情は、ただ目を伏せているだけなのにうつくしい。


お茶碗の中を綺麗に食べきると、音もなくテーブルの上に置く。ゆっくりと手を合わせてから、



「うまかった」



ひとり言みたいに呟いてから、私の方を見やるようにふっと顔を上げた。諦めに似た色が、その目の中にあるのを見つける。




「帰るわ。迷惑かけてごめんねオネエチャン」




そんな私を一瞥してから、不意に立ち上がり、部屋の隅に置いてあったスポーツバッグを肩にかけると、私を見下ろして「じゃ、」と踵を返した。


貸したスウェットからのぞく手首は本当に細い。首も折れそうなほど細くて、薄っぺらい体をしていた。ああ、もしかしたら、あまり食べれていないのかもしれない。

靴を履いている姿を見ながら、思わず「まなつくん」と声をかけるも、無視された。



そうじゃないよ、そうじゃなくて。

ああ、なんでせっかく来たのにそんな簡単に諦められるの。


玄関で靴をはこうとしている眞夏に「こっち見て」と再度言えば、うざったそうな目を向けられる。




「いつでも来ていいから。泊まるときは連絡して来てね」


「…………はあ?」


「今日来てくれてありがとう。一緒にご飯食べれて嬉しかった」




それを聞いた瞬間、義弟は絶句してから、つまらなそうに舌打ちをした。



「……ばかじゃねえの」



そしていつの間にか雨が止んでいる外にそのまま出ていってしまった。



…………かと思ったけど、ドアが閉まる直前、一瞬だけ振り向いた義弟は、その夜そのものの色をした目を真っ直ぐこちらに向けてから、

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