背景 見える僕と消えかかる君に

時雨白黒

期限=命

 俺は何かを率先してやるタイプではない。電車の席を譲るのもクラスで発言するのもそうだ。誰かが何かをしてくれるのを待っている。ましてや人助けなんて俺の柄じゃない。けど、目の前で車に轢かれそうになっている女の子を見て見ぬふりなんて出来なかった。俺は気づいたらその子の背中を押していた。車が目の前に迫った時、俺は死ぬんだと思ったが怖くはなかった。轢かれた瞬間、衝撃と共に体が走った。体が地面に叩きつけられた俺は初めて後悔した。


(どうせならなんでもっと行動しなかったんだろう。後悔しても遅いのに...全身が痛い。ああ..そうか轢かれたんだ。これは..俺の血。どんどん溢れてくる。もう体の感覚がない。あれ?幻覚が見えてきた...これは走馬灯か?走馬灯が食べ損ねたバナナなんて俺はつくづくついていないな..もう何も見えないし、聞こえない)

(良かった..無事なら...それで...)


掠れ行く意識の中で最後に見えたのは助けた少女だった。少女の姿を見た俺は意識を失った。



 「永遠...永遠...」


誰かが名前を呼び声がする。誰だ、俺の名前を呼んでいる人は...俺は死んだはずじゃ...


 「あれ...生きて...る」


目を開けると白い天井と共に心配そうにこちらを見る家族の姿だった。俺は助かったようで一週間入院することになった。俺は安堵し、母親は優しく抱きしめてくれた。俺が抱きしめ返し、ふと顔を見ると頭に数字が見えた。


 「母さん...これ?何?」

 「どうしたの?」

 「頭に見える数字何?増えたり減ったりしているけど?」


俺がそう言うと変な顔をして余計に心配された。


 「何言ってるのよ~数字なんてないでしょ?やっぱり頭を強く打ちすぎたのかしら?」

 「え?」


母親に言われてしまい何も言えなくなった。後日他の人にも試したが頭の上にある数字が見えないようで俺は話しをするのを止めた。



 無事に退院した俺は友達の日下部と進藤に退院祝いとしてカラオケボックスに来ていた時の事だった。


 「次、何歌う?日下部、深瀬」

 「これ何てどうよ!ほらほらー本日の主役歌えよ~」

 「考えてるから先歌えよ」

 「そうだな...俺、失恋したから恋愛ソング歌う!」

 「そこは失恋ソングだろ...日下部」

 「相変わらずだな...」

 「彼女は出来ていないけど告白してフラれる30連敗してるし...」

 「うるせえ!リア充が!非リアに人権あってもいいだろ!」

 「彼女さん元気?」

 「ああ、元気だし昨日デートしてきたわ~」

 「リア充が...爆発しろ!」

 「しねーよ!」

 「なあ...歌始まってるけど」

 「え?えええええええ!もっと早く言えよ!」

 「うるせえ!マイク持って叫ぶな馬鹿!」


三人でたわいもない話しをした後何曲か歌って盛り上がった。歌い終わった深瀬は次の曲を入れようと選曲している時に日下部がSNSを見せてきた。


 「うん?なんかこれ、流れてきたんだけど」

 「何だこれ?巨大なビルだな...ってコメント邪魔!」

 「これ、ライブ映像なのか?」

 「そうらしい...けどやらせだろ」


そこに映っていたのは巨大なビルに立っている人だった。動画はその人発信らしく止まる様子はない。様子が可笑しくその人は屋上の手すりに手をかけた。


 「これ...やばくないか?」

 「なあ...この人...死ぬ気じゃ...」

 「そんなわけ...あれ?数字が...」

 「数字?深瀬、何言ってるんだ?」


俺は画面に映る人を見て気が付いた。この人の数字はあり得ない速さで減っている。俺はずっと疑問に思うことがあった。


(この数字が0になった場合その人は一体どうなるのか。考えたことは無かった。いや違う。俺は考えたくなくてあえて触れてこなかった。もしかして...この数字が0になった時...その人は..)


 「数字がどんどん減ってる!」

 「お前何言って...おい、深瀬大丈夫か?お前顔色悪いぞ」

 「数が...後一桁しかない...」

 「「??」」

 「やばい!この人、落ちるぞ!」

 「3...2...1...0...0になった...」

 「0って何?」

 「そんなことより...この人飛び降りた...」


俺は焦っていた。この人は死ぬ...数が0になった時その人は死ぬ。俺が0と呟いた瞬間その人は飛び降りて死んだ。コメントが溢れてくる。映像はコメントで見えなくなり、俺たちはその人の動画を最後まで見えることが出来なかった。その後直ぐに映像で映った人が自殺したニュースが流れたが見ることが出来ずそのまま帰ることになった。


 「なんか...悪い俺が興味本位で見せるものじゃなかった」

 「いいよ。俺も見たし...それよりも深瀬大丈夫か」

 「ああ..大丈夫だ」

 「退院したばかりだし、ゆっくり休めよ」

 「ああ..じゃあな」


俺は二人と別れて帰っていた。脳内にあの映像がこびりつき離れなかった。


(考えたくなかった...この数字が無限ではなく有限であること。寿命=期限つまり命だなんて...俺には重すぎる。事故に合ってから数字が見えるようになったけどどうすればいいのだろう。誰にも言えないし...もし目の前で誰かの死が迫っていたら俺は...どうしたらいいんだろう)


考えている時誰かに話しかけられて振り向くと見知った少女が立っていた。


 『あの...深瀬永遠さんですか?』

 「えっ?そうですけど...」

 『やっと会えた。あの...私のこと覚えていますか?』

 「君は...!」

 「あの事故の女の子だったよね?」

 『はい!そうです。あの時は...助けてくれいただきありがとうございました』

 「君が無事で良かった......よ」


俺に話しかけてきたのは事故で庇った女の子だった。思い出し彼女が無事で安堵しかけたが数字を見て背筋が凍った。この子の数字は今も減り続けている。この子の数字は減りもう後がなかった。この子は72時間後...あと3日後に死ぬ。これが彼女、五十嵐梢子との出会いだった。


 これは見える僕と消えかかる彼女と過ごした三日間の物語。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

背景 見える僕と消えかかる君に 時雨白黒 @siguresiguro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ