亡霊事件 名も無き相棒

時雨白黒

episodeⅠ 名の無き相棒

 人は幽霊信じるだろうか。私は...信じない。幽霊なんて非科学的なもの、そんなことあるわけないと思っていた...この日までは...


 『お願いします!僕はあなたの相棒にしてください!』

 「え?ゆ、幽霊...」


忘れもしない。11月5日深夜2時。私コト来栖は幽霊に土下座をされたのである。目の間光景に目を疑いそうになった。なぜこうなったのか...全ては今朝に遡る。


時刻は8時過ぎ。いつのもように出勤した来栖は上司に呼び出された。呼び出された原因を察した来栖はため息を吐いながら上司の元へ向かった。


 「またか...ちょっと行ってくる」

 「いってらっしゃい。また呼び出されてますね。来栖先輩」

 「仕方がない...部下が辞めるんだ」


その光景は日常茶飯事で後輩の美澄は先輩の界人に話しかけた。界人は状況を理解しているため気にせず書類を整理していた。


 「もう、今月で10回目ですよ!10回!噂じゃ、新人潰しだって言われてますけど...」

 「来栖がそんなことするわけないってお前も分かっているだろう」

 「そうですけど...」

 「まあ...来栖の場合は仕事人間過ぎるからな。仕事以外は興味ないからな...部下がついてこれないんじゃないか」

 「そう言う問題っすか?俺も界人先輩でよかったです~」

 「俺は出来の悪いやつで困るけどな...」

 「ええっと...」


界人は美澄のことをジト目で見つめると視線を誤魔化すように美澄は顔を反らした。


 「はあ...俺は来栖と組んだ方がいい...」

 「そう言えば先輩は来栖先輩の相棒だったんですよね?」

 「そうだが?」

 「じゃあなんでコンビ解消したんですか?」


美澄は不思議そうに言うが界人は嫌味そうに書類を美澄の机に置くと言った。


 「出来の悪い部下たちのせいで教育しないといけないからだよ...」

 「...す、すみません」

 「まあ...俺には分かる。俺はあいつと組んだことがあるからだ。あれはあいつが原因じゃない...」

 「ならなんで辞めるんですか!」

 「それはな...」


界人が原因について話そうとしたその時所長室怒鳴り声が聞こえてきた。


 「馬鹿者おおおおおおおおおおおお!」

 「怒ってるな...」

 「っすね!」


所長の怒鳴り声が響き渡りここまで内容が聞こえてきたのだ。


 「なんで呼ばれたのかわかるか?」

 「部下が辞めるからですよね」

 「そうだ!何故だと思う?」

 「覚悟が足りない?」

 「違う!いいか、部下がお前と組むぐらいなら止めてやるって言い辞めていくんだぞ!お前...新人潰してないだろうな?」

 「なんでそんなことしなきゃいけないんですか?そんなことするぐらいなら仕事しますよ」

 「いいか?昨日お前と組んだ笠井から連絡が入った。"お前といると悪寒が走る"から辞めたんだ!」

 「それが理由ですか?」

 「そうだ!どんなやつもそれが理由で辞めていくんだよ!お前、後輩をビビらせるな!」

 「そんなこと言われても覚えがないし...」

 「とにかく!お前はやめない部下が出来るまで仕事禁止だ!自宅禁止処分とする!」

 「そ、そんな...」


仕事人間の来栖にとって仕事をするな=死ぬと同じくらい重傷であった。


(辞めない部下なんて一体どうすればいいんだ?だいたい悪寒がするなら言ってくれればいいし、病院に行けばいい。悪寒がするから辞めるなんて言われたら何も言えない...)


 「はあ...どうするか...」

 「せ、先輩...自宅謹慎処分がよっぽどショックみたいですね。この世の終わりみたいな顔して...」

 「あいつは仕事人間だからな。まあ...そういう所があいつのいい所だけどな」

 「先輩、それって来栖先輩のこと好きなんすって痛い!なんでファイルで殴るんですか!」

 「変な事言わずにさっさと仕事しろ」

 「は、はい...」

 「まったく...」


呆れた界人は頭を摩りながら書類仕事をする美澄に指示を出すと帰宅の準備をする来栖に声をかけた。


 「自宅謹慎とは仕事人間のお前にとっては重い処分だな」

 「他人事みたいに...」

 「まあ、仕事人間のお前には丁度いいんじゃないか?これを気にゆっくり休めよ」

 「休まるものも休まない...仕事が...」

 「子供じゃないんだ...大人しく家に帰るんだ。辞めない部下については俺も探してみる」

 「ありがとう界人。流石は頼りになる同期だね」

 「もう俺とお前しかいないしな...長い付き合いだしそれぐらいは分かる。まあ、所長もああ言っていたがおまえの優秀さは知ってる。辞めない部下で自宅謹慎なんてすぐに終わるだろう」

 「それもそうだ...」

 「なあ...来栖。お前がよければ...俺がお前の相棒に...」

 「うん?来栖は...」

 「来栖先輩なら、もう帰りましたよ」

 「...そうか」

 「先輩...あの、どんま「現場に向かうぞ美澄」はい...」


界人は来栖に言いかけた時来栖はおらず既に窓の外に歩く来栖の姿が見えた。来栖の後姿を切なそうに界人は見つめた。いつもなら頼りになる背中が寂しそうに見えた美澄は界人の好みの珈琲をおごったのだった。




 「やっぱり辞めない部下を探すのは難しいか...」


 『もしもし、木瀬です!』

 「もしもし、私は来栖だ。辞めない部下を探しているんだがよかったら」

 『すみません!』


 「もしもし、私は来『すみません、山崎無理です!』...」


 「もしもし、『ブチっ』え?」


 帰宅した来栖はその後も辞めない部下を探すも見つからない。途方に暮れた来栖は深く考えることをやめた。


 「見つからない...明日からどうするか。まあ、明日決めればいい...寝よう」


深くは考えないことにした来栖は夕食を食べ風呂に入るとベットに横になった。いつの間にか眠くなり来栖は眠りについた。深夜二時になり、目が覚めると体が動かなくなっていた。


(体が動かない...なんだこれ...うん?誰かいる...透けてる...幽霊?)


目を開けると目の前に幽霊が居た。幽霊はこちらに気づくと軽く会釈した。


 『ど、どうも~』

 「幽霊?う、嘘...見ちゃった...」

 『見ちゃったってことは...俺が見えるんですか!』

 「見えてるけど...」

 『本当ですか!僕、あなたに言いたいことがありまして...』

 「あの...死ねとかそういう怨念みたいなものは困る...」

 『ええ!違います!その...えっと...』

 「幽霊でも...ハキハキしてくれる?眠いし...重い...」

 『ああ、ごめんなさい!分かりました、言います!』


 『お願いします!僕をあなたの相棒にしてください!』

 「え?相棒...」


幽霊が何を言うのだろうと見上げながら考えていると拍子抜けな回答を言われて驚いた。


(今なんて...相棒って言ったか?)


相棒にしてほしいと言った幽霊を信じられない表情で来栖は見た。


 『僕...ずっとあなたに憧れていたんです!それであなたに取りついて...いたんです。あなたの相棒になりたいから他の人にならないように妨害...阻止していたんです。それで...』

 「なるほど...悪寒が走るのは君が原因だったのか...」

 『すみません!それに...僕のせいで仕事が出来なくなって自宅謹慎処分になって...謝りたくて...ごめんなさい!』

 「別にいいけど...相棒は......無理。辞めない部下と言っても幽霊じゃ所長も信用してくれないし...私も信用してない」

 『そこをなんとか!辞めない部下ができますから!お願いします!お願いします!』


 そして冒頭に戻る。その後も何度も相棒になりたいと言う幽霊に折れ来栖は相棒にすることを決めた。


 「分かった...部下にしてあげる...けど他の人に取りついたり迷惑をかけないこと。一人の時は話せるけどそれ以外の時は外では話しかけないで...」

 『いいんですか!ありがとうございます!』

 「でも...所長に何て言おう...」

 『それなら任せてください!』


幽霊が指を鳴らすと所長から電話がかかってきた。電話に出ると辞めない部下が見つかったため明日から仕事に復帰して良いと言われた。


 「え?仕事に復帰できるようになった。君...一体何をしたの?」

 『幽霊の力で解決しました。所長には僕が探偵の為警察の人ではない単独で調べる相棒ってことになってます』

 「幽霊って何でもできるだな...」

 『元々あなたに迷惑をかけてしまったんです。なんでも協力しますよ。これからもよろしくお願いします。来栖さん!』

 「よろしく...幽霊...」


幽霊のため手は握ることは出来ないが互いに手を合わせて来栖は眠りについた。翌日、目を覚ました来栖は着替えてリビングに向かった。


 「不思議な夢を見たな...相棒が幽霊なんてそんなこと...な...」

 『おはようございます、来栖さん。これからよろしくお願いしますね!』

 「幽霊...ってことは夢じゃない...」


(ああ..夢じゃなかった)


リビングにいる幽霊を見て昨夜の出来事が現実であると理解し深いため息をした。


 忘れもしない11月5日深夜2時、私は幽霊と相棒になった。私の辞めない部下は名の無き相棒だった。これから私は名も無き相棒と共に数々の事件を解決することになるのだった。


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