神さまが見えない彼処
秋津 涼
第1話
チャイムが鳴った。
「何気なくて、変哲もない毎日、そして、移り変わってゆく毎日。みんなはこの毎日に意味を無理矢理つけたあげく、かえってその意味を失いつつある。」
戻る気もなく、ウロウロしてる連中がまた広場で行き交う。
なんだかんだの哲学者の名言か分からぬ言葉を、意味ありげに口ずさんでコーヒーを買いに行った。
今夜、雪降るそうだ。
冬がとっくに訪れたとはいえ、雪がなかなか降らないような地域で、ロマンチック化されてもしょうがない話だ。こう考えると逆に喉返すほど気持ち悪く思うのでどうか真剣に取らないでくれ。
雪なんて、ロマンチックじゃない。残酷なものなんだ。
真っ白に覆われた土から掘り出したのは、老朽した心の居場所、そして、正体しれぬ屍。罪悪まみれの地に種を蒔きまくり、そして雪ですべてを隠して、犯人までも匿われて、誰も知らないままですんだ。残りのは雪景色、驚嘆や賛美に浴びる最も皮肉なシーン。こんな罪深き仕業は、今ここで、たしかに起こってる。
でも、僕はそんなことにこだわるほど馬鹿なやつじゃない。人はどうせやらなきゃいけないことがあるから、詳しくない限り言わぬが花。
だから、今日はまた罪を見ないふりをしている一日の終わりだ。
元気あったらもうちょっと歩きたいと思ったが、足がどうしても痛くて帰ろうと思った。
学生寮も近くないから。
「違反者 吊るす」
ラッカースプレーかなんだかで塗りつぶされた警告には裏小路が一層反逆や恐怖の雰囲気を漂わせてちょうどいい感じになってきた。相応しいかどうかは知らないけど、反軍やらどうやらのギャングラーは結構このあたりに集るから多分気に入ってるだろう、こういう飾り。
違反者というのはつまり僕みたいなやつーーいいものしなくて毎日のびのびしてて、周りの人の遭遇を全く気にせずにわがままなやつ、そいつらの呼び方にしたら、エゴイストたち。
「お前、まったく人のために考えてないじゃないっすか!質悪い!」
「こんなとこでよく一人ぼっちになれるよなー、まさかお前ってビッグブラザーらと?」
一応解説させていただきます、「ビッグブラザー」というのはつまり学校側の管理層。
度々会うとなる会話、僕はもう飽き飽きだけど、ギャングラーたちはこういうの、興味深そう。
質悪いのは一体誰かよ。
まぁ、いいけど、ここに来るのも僕自身の意志だったし、文句なんて言わん。
今日運がよかったーー裏小路、空っぽ。
息を潜めてくぐり抜けて、たどり着いたのは第二広場。
勝手につけた名前だけど、いつかからみんなに認められているから使わせていただきます。
ご覧の通り広場です。イチョウ一本を中心として、かなり整った石タイルの地面が周りへ広がっている。もはや深夜だから人気もなくて、静まり返ったところだ。
広場の一隅に、生徒一人が倒れている。腹から湧き出した赤はタイルの灰色と混ぜて、まるで呑み込まれているようだった。縁起悪い匂いを放つ体に近寄って、知らない人だった。
ちらりと周りに気配って、誰もいないのを確認して、コートのポケットに手を入れて、硬いカードみたいなものを手に取った。
「小室、小室あまね」
「ご冥福を」
手を合わせて二回叩いて、学生証を勝手に地面に捨てて、その場を立ち去る。
六年 1月12日
一年G組 小室あまね 失血死
神さまが見えない彼処 秋津 涼 @zanshu
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