K駅でのしょうがない出来事

ちっひー

1話完結

「K駅。それは、とある電車に乗り続けてしまうと、終点にたどり着けず、あの世へとつながる駅へ到着してしまうという、この地域の恐ろしい都市伝説だ。」


「へえー。とある電車ってこの近くを走ってる電車?」

「あ、うん。そう。」

「そっか。行ってみようかな。」

「え?」

「おばあちゃんが疾走しちゃったんだ。多分その駅に行っちゃったんだと思う。」

「ええ...?」

 僕と彼女は、休み時間などでよく話す仲だ。今日もいつも通り、僕のオカルト趣味の話に彼女が付き合ってくれていたのだが、たった今衝撃の事実が判明した。

 彼女の祖母が、K駅に行ってしまい、行方不明になってしまったそうだ。

「そんな…でもどうしてK駅に行ってしまったと…?」

「…おばあちゃんは、買い物帰りに終電間際の電車に乗って、その後行方不明になったんだ。警察が必死に調べてくれているけど、足取り一つ掴めない。」

「そっか、それでK駅に行ったんじゃないかと思ったんだね。」

彼女はうなずいた。

「私、K駅におばあちゃんを探しにいこうと思う。」

「え…やめなよ。」

反射的に言ってしまった。

「どうして?」

「えーっと。そんな危ない場所に行ったら…深夜だし危険だ。」

「心配してくれてるの?」

「あ、ああ…心配だよ。」

「ありがとうね。」

 彼女は笑みを浮かべた。その後覚悟を決めたような表情になり言った。

「でも私、おばあちゃんを助けにいくよ。だってこの世でもうおばあちゃんを助けられるのは私だけかもしれないし。」

「…そうか。」

 そうだ。僕は彼女の、普段はぼうっとしているけど、ときおり見せる気丈な性格に惚れたのだ。

「分かった。そこまで言うなら止めはしないよ。でももし君が戻ってこなければ、僕はすぐに警察やマスコミに駆け込んで、最大限大騒ぎして調べてもらうから。」

「ふふ…やめてよ。大げさだなあ。」

 彼女は笑った。

「ありがとう。じゃあ今日の深夜に行こうかな。それでどの線に乗ればいいの?」

「ああ…それは…」

 僕は彼女に都市伝説の詳細を伝えた。

 学校が終わり、僕は通学路で彼女と帰っていた。そして、別れ道にさしかかる。

「じゃあ私はこっちだから。またね。」

「また会えることを祈っているよ。」

「ふふ…そうだね。」

 僕は彼女と別れた。

 正直心配だ。家に帰り、僕はとあることを調べ始めた。それは、K駅につながる沿線付近での行方不明事件だ。ニュースを調べていると明らかにおかしいことに気づいた。

 行方不明事件が多すぎる。軽く目を通しただけで4件。それもかなり直近のものだ。まさか噂は本当に…いや噂は嘘だったとしても、この沿線が危ないのは事実だ。

 僕は、彼女の様子を見に行くことにした。終電の電車に乗るだろうから、今からでも全然間に合う。

 数時間後、僕は駅に行った。彼女が先に来ていた。なにやら高級そうなキャリーケースを下げている。駅には他に数人しか人がいない。バレるのもなんだか気まずかったので、僕は彼女のあとをばれないように付けることにした。

 電車が来た。僕は彼女から一両離した電車にこっそり乗った。彼女の方をみると、彼女の車両には他に1人も座っていなかった。彼女はキャリーケースを横に置いた後、車窓を眺めていた。ぼうっとした表情だった。

 ここから終点まで1時間強。あの様子だと終点まで降りそうにないので、僕はバレないように、席を少し離した。

 そして、彼女が降りないか1駅ごとに確認しつつ本を読み始めた。題名は「骨と肉」。サスペンスミステリー作品だ。内容は詳しく知らないのだが、彼女にオススメされたので購入した。


 気づいたら眠ってしまっていた。気をつけていたはずなのに、どういうことだ。すぐに彼女の方を確認すると彼女も今起きたといったような困惑した雰囲気だった。

 時計を確認すると、終点に到着しているはずの時刻をとっくに過ぎていた。冷や汗が垂れてきた。さすがに彼女に声をかけようとすると、電車のアナウンスがなった。

『つぎ、止まります。ドアが開きます。ご注意ください。』

 ドアが開いた。寂れた駅が広がっている。駅の周囲には不気味な森が広がっている。そうだ、ここで降りてしまうと、駅に取り残されてしまう。彼女にもそれは伝えてあるが、降りるつもりなのだろうか。

 彼女は席を立ちあがり、キャリーケースを引いて扉のほうに向かっていた。

「降りちゃだめだ!」

思わず叫んでしまった。彼女が気づいてこっちを向いた。

「え…なんでここに…?」

「あ、あとをつけて来た。心配になって…」

「そっか…」

「まさか噂が本当だとは思わなかった。とにかく降りちゃだめだ。駅に取り残されてしまう。」

「う、うん。でもおばあちゃんが。」

「後で警察に報告しよう。危険すぎる。」

彼女もそう思ったのか、押し黙った。沈黙が流れる。

「ところで、その立派なキャリーケースには何が入っているんだ。」

「あ、うん。食べ物と飲み物、お金と服、あとは武器とか…」

「武器?」

「そう、木製バット。」

「おおー。」

「これでイチコロ。私バッティング得意だし。」

「頼もしいな。」

「あ、それ私が勧めた本じゃん。読んだの?」

「いや…まだ全部は。でもこれ面白いね。とても怖いよ。こういうリアル路線のホラー、僕はあまり好みじゃないんだけど、なぜか引き込まれる。」

「でしょう。私、その作品、大好きなの。」

 少し外の様子が気になり、電車の外へ軽く乗りだして、周囲を確認してみた。もし電車のドアが閉まれば、顔を引っ込めてすぐ戻れるように乗り出す感じで。

 駅は思ったより狭かった。改札は見当たらない。周囲にお店や自動販売機の光は皆無だ。まさにあの噂通りの駅。

「ごめんね。」

 背後から彼女の謝る声が聞こえた。僕を巻き込んでしまったことに罪悪感を覚えてしまっているのだろうか。

 良いんだ。僕が原因みたいなものだから。そう伝えよう――

バキッ

 突如、頭に強い衝撃を受け、視界が暗転した。


 背後からバットで思い切り殴りつけたら彼は倒れた。気絶したのか、それとも死んでしまったのか。でもしょうがない。ついてきちゃったんだから。

 「しょうがない。しょうがない。」

 私はキャリーケースから、黒いごみ袋を取り出し、駅へ放り投げた。ドサっと重みを感じる音がする。

 当たり前だ。解体されているとはいえ、1人の人間が入っているのだから。ここまで来るのに、ばれないか心配で仕方なかった。

 知らべたやり方で、血抜きと消臭の努力はしたけど、正直魚が腐ったようなにおいは取れていない。嗅ぎなれた私ですら気づくのだ。おそらく長時間他人と近くにいたら、ばれてしまうだろう。

 私は今まで、おばあちゃんの介護をしてきた。認知症が進んでしまっており、正直介護はつらかったが、お母さん1人で働きに出ており、お金もないので私しかおばあちゃんの面倒はみれない。

 私に任された仕事だ。しっかりやり遂げないと。でもある日から、おばあちゃんが私に暴言や暴力をふるってくるようになった。

 認知症が進むと、そういう症状が出ることもあるらしい。私は必死に耐えていた。お母さんにも相談した。

 けど、「しょうがない。あなたしかいないの。ごめんね。」と言われてしまった。

 そうだ。しょうがないんだよ。誰にも相談できなかった。先生や友達にこんなことを言っても、きっと面倒くさがれるだけだし、どうしようもない。

 私は、それからもおばあちゃんの介護を頑張って、頑張って、頑張って、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて

 ある日気が付いたら、私はおばあちゃんを撲殺していた。もうおしまいだと思った。お母さんは、3日後に帰ってくる。それまでに死体を隠蔽しないと。なんとかしないと。

 とりあえず、怪しまれないように学校には行った。あの家に1人でいるのも怖かった。そこで彼から、この駅の話を聞いた。私は、藁にも縋る想いでその駅へ向かった。そして、たどり着いた。


 私は、次に彼とバットを駅の外に放り出した。あとはこの電車が噂通り出発してくれれば、全ての証拠はこの駅に置き去りにできる。

 私は、その場に座り込み、彼と、バットと、ゴミ袋をぼうっと見つめていた。しょうがない。しょうがないんだ。許してくれよ。

 『ドアが閉まります。ご注意ください。』

 アナウンスが流れ、ドアが閉まった。私は立ち上がり、駅のほうを見つめた。電車がゆっくりと走り出す。

 これから私はどこへいくのだろうか。家に帰れるだろうか。この駅はあの世につながる駅だという。

 ゴミ袋の近くで倒れている彼を見た。目を覚ます気配はない。

 私は彼を大切な友達だと思っていた。もし、私が彼に相談していたら、なにか変わっただろうか。私に思いつかない解決方法を思いついてくれただろうか。いや私なんかにそこまでしてくれる理由はないか。

 やがて、車窓を見つめていると駅が見えなくなった。私はドッと疲労感を感じ、思わず席に座り込んだ。しばらく座っていると、強烈な眠気に襲われ、ゆっくりと目を閉じた。電車の走る音だけが鳴り響いていた。

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K駅でのしょうがない出来事 ちっひー @chihhy1008

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