第8話 鬼
そう昔でもないけどまあちょっと懐かしいくらいの時代のお話。
桃太郎はお爺さんとお婆さんに自分の半生を語り、そしてお願いをしたそうな、
「お爺さん、お婆さん、どうか俺の入ってる桃を割ってください」
お爺さんとお婆さんは、桃太郎の話が長すぎたせいで抜けてた腰も治り、夕食も食べ、寝る準備を終えて布団で横になって耳をほじりながら「いつになったらスタッフさんが出てくるのか」と待っていました。
「(婆さんや、これちと違うんではないか)」
「(爺さんや、最近のオブザビングはバレないように趣向をいろいろと変えてきておるでの、一概には違うと決められんのじゃ。芸能人デビューが掛かっとるかもしれん、ここは慎重に行くべきじゃ)」
「(ばあさんが言うならそうなんじゃうが…わしはこの子供、ちと変じゃないかとな)」
「(そこがミソなんじゃ。変な子供への対応でいかに感動と笑いに持っていくかが腕の見せ所なんじゃ)」
「(じゃあ、どうするんじゃ? こんなデカい子供が入っとる桃なんぞ、水に浮かばんじゃろ。川底を転がってくるってことかの?)」
「(最近の技術で浮いているように見せるんじゃろ。TV局の撮影技術は日進月歩じゃで)」
「(婆さんや、じゃあ、ここはオッケーするかの)」
「(爺さんや、それがいいの)」
お爺さんとお婆さんは寝転がるのを止めて二人で正座になりました。
「おお、そんなに桃から生まれたかったとは」
「そなたがそこまで桃から生まれたいというならわしらは止めはせん、思う存分に桃から生れるがよい」
「お爺さん、お婆さん… ありがとう」
桃太郎は深々とお爺さんお婆さんに頭を下げました。
翌日、桃太郎はお爺さんお婆さんが川で見守る中、川上へと走って行き、二人の目に触れない場所で桃太郎の力を発揮し、だいぶ大きめの桃の中に裸で入りました。
そしてドンブラゴッゴ、ドンブラゴッゴと川底を転がりながらお爺さんとお婆さんの待つ場所に向かいます。
もう桃の香りもヌルヒヤ感も激しい揺れも気になりません。
そして、お爺さんとお婆さんの前にやってきて
…そのまま転がり過ぎていきました。
「(婆さん、本当にこれで笑いが取れるのかの?)」
「(爺さん、笑いわかっとらんのう。笑いはかぶせてなんぼじゃ)」
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