若くして死にし者
@ideutihayamasa
始まり
2022年12月25日T市のアパートで首吊り死体が見つかった。高橋結子、25歳、職業:声優。なぜ彼女が死んでしまったのか、死ななければいけなかったのか。これを暴くことこそが今回の私の目的である。
私は、電車でT県に向かっていた。
特に何もすることなく一人でボーっとしていた時に突然電話がかかってきたのだ。「暇か、磯野。――なら話が早い。至急T市の〇〇アパートに向かってくれ。俺も今から向かう。スクープだ。」それだけ言うと彼は電話を切ってしまい、プープーという機械音が流れた。全く失礼な奴ではないか。クリスマスにも仕事、仕事。彼一応結婚しているはずでは?と思ったが、私が暇だったのは事実なので仕方がない。そして今に至るのである。電車には、イチャイチャしている男女や包装されたプレゼントを大切そうに抱えた女のこがいて、より私の孤独は強くなった。私は未だに彼氏というものがいたことがなく、そういったイベントが大の苦手なのだ。いつの間にか二人の恋人や女の子は電車を降りていき私は一人になっていた。
電車を降りると、すでに九時は超えていた。まだ家の明かりはついていて一種のイルミネーションのような美しさを持っていた。雪もほのかに降っている。見蕩れいると発車ベルではっとなった。アパートに向かわなければ。私は駅を出て明かりの中を進んでいった。
アパートに着くとパトカー、車が立ち並んでおり、ただならぬことが起きたことを感じさせる。「おう、着いたのか。」どこからか見慣れた声が聞こえてくる。私がその方向に振り返ると、上司が寒そうに立っていた。「高橋結子が死んだんだ。あの有名な」私は?という顔をすると上司は「あれだよ、メ夕クエの誠の声優。」と言った。驚いた。まさかあのメタクエ――メタバースクエストの主人公の声優が死んだなんて。メタバースクエストとはゲームの中に閉じ込められてしまった主人公が脱出するためにいろいろ画策していく――そんな話だと上司から聞いている。アニメは見たことがないのだが、アニメ化の影響で発行部数がラノベ、漫画、共に1000万部も売れたという。「全く驚きだ。ましてやアニメの最終話放送の後に死んだなんて。」
「そうなんですか。」
「ああ。高橋さんが今日の夕方4時公式ラジオ放送としてほかの声優の人たちと一緒にアニメの最終回について語り合っているのを見た。見つかったのは午後7時。ラジオ放送の後すぐ死んだこととなる。」
「それは...ショックじゃないんですか?」
「ショックだよ。俺はあの..あの元気で力強いはっきりした声が好きだった。あんな元気だったのに...」
そういうと上司は黙りうつむいてしまった。ここでもやることがなくなってしまったのでしばらく現場で様子を聞いていると大体の状況が分かってきた。彼女は最近出たばかりの若い声優で、出演する回数は少ないけど実力は確かで、若く力強い演技や正直な姿からみんなに推されていて、未来、勢いのある声優だった。そしてクリスマス兼アニメ終結記念のサプライズとしてメタクエの声優、スタッフ陣が食事やプレゼントを持って彼女の住むアパートに行ったらそこに首吊り死体があって…。展開がだいぶホラーではないか。もし遊びに行った友達の部屋に死体があったかと思うとぞっとする。分かったこと、感じたことについてメモにまとめていると上司が低い声で
「もう遅いからお前はもう帰れ。俺は家が近いからもう少しいる。」
時計を見ると10時を回っており終電ギリギリだった。私は仕方がないので帰ることにした。
「すいません。では失礼します。」
そう言った後後ろを向き通った道を引き返した。5歩10歩歩くと冬らしい冷たく乾いた風が強く吹き下ろした。私はビュービューと吹く風の中にありがとうと言う枯れた声が聞こえた気がした。
若くして死にし者 @ideutihayamasa
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