五十幕 ある歴史家の記録


 初代魔王が魔の国を建国してから約700年。

 五代目魔王と十三代目勇者の行方不明になって以降、統一帝国と魔の国は休戦状態となる。

 

 勇者が聖剣と共に姿を消した事で帝国側の一方的な不利が予想されたが、魔の国側は不気味な程の静寂を保っていた。

 数百年後、魔の国との国交で明かされた当時の記録に寄ると、五代目魔王の喪失から一年と経たない内に、死んだものと思われていた初代魔王が国王に復帰していたと思われる。

 


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「いい加減にしろって、怒られちゃったよ」

「毎日"、説ドㇰに来てタ、アいつの粘り"勝ぢだナ」

「"お守り"も無くなっちゃったみたいだしね。……なんにせよ、そろそろ私も責任を取る必要があるとは思っていたんだ」


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 魔の国との戦争が途絶えて数年、帝国は戦力の低下が深刻な問題となった。同時に、魔の国という共通の敵がいなくなったことにより、各都市で独立の気運が高まる。ギルドが機能不全を起こしかけ、民は魔物の危険に怯える事となった。

 

 ギルド崩壊の流れに歯止めを掛けたのが、その少し前から試運転されていた〈世界縫製システム〉だ。星の軌道から未来を予知し、依頼の優先度を決めるというシステムは画期的だったが、当時は〈星環の理〉も認知されておらず精度を疑問視する声も多かった。幾度かの災害の阻止や被害の極小化などの実績が評価され、現在での〈ギルド指定依頼〉の仕組みへと繋がる。

 

 

 

 史上初になるそのシステムを考案したのは当時無名の冒険者で、後に〈近代魔法の父〉と呼ばれることになった魔塔の黒、ユート・アマギだ。

 

 しかしこのシステムを考案するに当たり、根幹を担うはずの学者はシステムの発表から長らく謎に包まれていた。後年になり、それが古代の星の賢者を継ぐ者だと明かされると、それまで軽視されていた天体に関する学問が急速に注目を集め、発展することになる。

 

 遠く北の果てから世界のすべてを見通すその学者は、預言者と呼ばれ世界中の畏怖を集めた。

 


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「おいユート、お前一体なんて説明したんだ! 何か最近変な手紙まで来るぞ!?」

「え、『星からのお告げです』って伝えただけだよ。分かりやすいでしょ?」

「胡散くさっ! お告げじゃねえって言っただろ!」

「じゃあ早くジャズ以外でも読み取れるようにしてよ」

「っく……!」


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 歴史上唐突に姿を表したこの二人の偉人は、過去の経歴が一切を謎に包まれている。一部では行方不明の魔王と勇者のどちらかではないかという憶測も飛び交ったらしいが、そのあまりの荒唐無稽さに信じる者は誰も居なかった。

 

 この偉大な二人がいつ、どのようにして縁を結んだのか、記録は何も残されていない。

 

 

 

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最後までお読みいただきありがとうございました。

本編はこれにて完結ですが、数話番外編が続きますので良ければ引き続きお楽しみください。

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