催眠術師
その男と出会ったのは、BARだった。
サキカは一人で飲んでいた。
その日ついた客が自分に向けて放った言葉にどうしても納得がいかず。まっすぐ家に帰るのが嫌だったからだ。
すると、隣の席に座る男が声をかけて来た。
見た目はまあまあイケメンだったが、イケメンにはクズが多い。
だから無視を決め込んでいたのだけど、男が言ったある言葉にサキカの耳は奪われた。
「お姉さん、僕ね、催眠術の勉強中なんですよ。まだプロと言えるほど上手くはないんだけど。良かったら、その、練習に付き合ってもらえないかなと思って」
催眠術?
サキカは現実主義者で、催眠術は詐欺と同じと思っていたが、「こいつ、本気で言ってる?」と逆に興味を持ってしまった。
そこで詳しい話を聞き、どうやらこの人は本当に催眠術の修行の身らしいことを確信し、「場所を移して、試してみない?」と言う彼の後に付いて行った。
向かった先は近場のラブホだった。
まあ、そうなるよね。
と、サキカは思ったが、知らない男と寝ることに抵抗は無かったし、その催眠術が本物かどうか知れるなら、その価値はあると思った。
部屋に入って、再び酒を飲み始めた。
男は言った。
「こういうのは、もともと信頼関係が大切だから。少しはお互いのことを知ってからの方が成功しやすいと思って」
と自分のことについて語り始めた。
男は重度の不眠症だった。
16歳の頃まで自宅で虐待を受け続け、家を飛び出し。
一人暮らしを始めたが、いつ自分の母親の彼氏が自分のことを殴りに来るか分からない。
そう思ってから、毎晩睡眠は二時間とれればいい方で。
その手の医者に行って、薬を処方してもらったが、最初のうちは効くものの、次第に効果は薄れていき。
薬の種類を変えてはみるものの、やはりどの薬も効果は薄れてゆき。
次第に薬頼りのままでは、自分の不眠は治らないと思い、飲むことを止めた。
そして、男がたどり着いた結論が「自分で自分に催眠術をかける」ことだった、という話だった。
ここまで話してもらって、サキカもまた自分の話をした。
男は黙ってそれを聞いていた。
「なるほど」
「話を聞く限り、サキカさんは好奇心が旺盛なんですね」
「ええ、まあ。そうなるのかな?」
「じゃあ、そろそろ試してみますか?」
「え?」
「いや、催眠術を、ですよ」
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