夢より夢の現実

蒼河颯人

夢より夢の現実

 背筋にぞくりと寒気を感じて、僕はふと目が覚めた。

 見上げると、真っ暗の中で時計の針は午前二時を指していた。


 チッチッチッチッチッチッ……。


 何だ。まだ真夜中ではないか。明日は日曜日だし、もう一度寝直すかとふと傍らに視線をやると、静かに寝息をたてている君の姿が目に入った。無防備なその寝顔を見た僕は、極わずかな不安感と同時に安らぎを覚えた。胸に詰まりかけていた何かが、ぽろりと落ちた感じだ。


 夢ではない。これは夢ではない。現実だ。僕はこうして君と一緒に生きているのだから。妙に心臓が早く動いている気がするのだが、何故だか良く分からない。

 

「人生って夢より夢な時がある」と、先日会った友人が言っていたことを思い出したのだが、僕も同意見だ。


 君が僕の傍にいてくれるという、この現実が、いつも夢のように感じられて仕方がないからだ。君という人に出会って、こうして一緒に時を過ごせて、共に歩んでいる。僕達は生まれた場所も育った環境も、全てが異なる赤の他人同士。一分でも一秒でもずれていたら、この「現実」は存在しなかった。今や君は僕のもので、僕は君のものだ。僕の帰る場所は君で、君の帰る場所は僕だ。ああ、何て、贅沢なことなのだろう。これだけは、自信をもって言える。今が幸せかと問われれば、幸せだと即答出来る。しかし、それと同時に不安感がよぎるのも正直否めないのだ。幸せ過ぎて怖いと言うのは、こういうことを言うのだろう、きっと。


 だって、〝夢〟はいつかは覚めてしまうだろう? 今を生きていても、日が昇った後、どちらかが冷たくなっていることだって、充分あり得るはなしだ。この現実も、夢より夢なんじゃないかって、いつも思っている。僕は考え過ぎだと言われるだろうか?

 

 贅沢だと頭で分かっていても僕は絶対に君を手放せないし、今が「夢の中かも」と考えたら、尚更離れることが出来ない。今こうして同じ家で、同じ部屋で一緒に時を過ごしていること自体が、〝夢〟のような気がする。そう思うと、どうしても不安で仕方がなくなる。

 

 僕は君のいない世界に生きていたくない。

 僕がいない世界に君を一人残したくない。

 僕をこんな気持にさせるのは、君だけだ。

 今これが本当に夢であるのなら、永遠に覚めないで欲しいものだ。

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夢より夢の現実 蒼河颯人 @hayato_sm

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