§5. 恋愛奨励法の闇は深い
「ね、昔って卒業式のあとどうしてたのかな? 恋愛奨励法ができる前」
「友達同士で遊びに行ったりしたんじゃね? それか親と帰ったりとか?」
けれど今は、恋人同士でどこかで昼食というのが定番になっている。
「親と帰るとかあり得る? 成人してるのに」
「いや、俺も知らないけどさ」
少なくとも、今は親と帰るヤツなんていない。
大多数の生徒は恋人と食事に行くから、親は気を利かせて先に帰るのが常識だ。
養護教諭の先生曰く、昔は学生の恋愛に反対する親が多かったらしい。
わざわざ自分の子供が結婚できなくなるリスクを増やすなんて、正直、意味不明だ。
今の親は、子供の
「友達同士ってのも想像できないな~」
「それは今でもいるけどな」
友達同士で帰るといっても、いくつかのケースがある。
ひとつは男女混成の友達グループのケース。
これは恋人を作る過程において、男女同数のグループ交際から始め、そこからそれぞれのペアが決まっても、グループとして良好な関係を維持している場合。
概ねかなりの陽キャ集団で楽しそうに見えるが、最後にくっついた二人は余り者同士だったりするので、卒業してすぐに別れてしまうことも多いとか。
それならまだいいほうで、グループ内で何度か相手が入れ替わったり取り合いになったりして険悪になり、グループが崩壊することも多々あるらしい。
そういった様々な事情で、交際届は出していても実際の仲は最悪というカップルも多く、相手の顔など見たくもないという男女は、そうした立場にいる男同士、あるいは女同士で帰ったりする。これが第二のケースだ。
そんな様々な人間模様の中では、当然ながら問題も起きている。
痴情のもつれによる殺人事件も報道されているし、報道されていないが傷害、暴行、自殺なども発生していると聞く。恋愛奨励法の闇である。
とはいえ、それらはあくまで個人の問題というのが世間のコンセンサス。
恋愛奨励法の問題ということにしてしまうと、効果の出始めた少子化対策が止まってしまう。だからその闇は、決して認めるわけにはいかないのだ。
まあ、実際に婚姻件数のほうが増えているわけだから、社会全体としてはプラスになっているのかもしれないけれど。
「……ホント、あのとき声をかけてもらえて助かったよ」
俺は改めて冴島に感謝した。
書類上の仲ではあっても、険悪にならず並んで校門を出ることができたのは、きっと幸せなことなんだろうな……。
「んふっ。妙に素直じゃん」
冴島は一歩前に出るようにして俺の顔を覗き込んだ。
「もしかして、本気になった?」
「ば、ばか言え……」
ニヤニヤする彼女から、俺は目をそらす。
冴島は時々、こうやって俺をからかう。
俺は少し頬が熱くなるのを感じながら、彼女との最初のデートを思い出していた。
*
「§6. からかわれていたのかどうかは分からない」(約1600文字)
2025.01.17.07:05公開予定!
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