第34話


「そういえば、最近あったごたごたって聞いて良い?町が襲われたやつとは別に何かあったんでしょ?」

「うん」


 イルちゃんはどこからともなく情報を仕入れて来ることがあるけど、流石に私の畑に関することは知りようがないだろうしね。

 かくかくしかじかと簡単に説明する。


 そういえば森で暴れてたらしいモンスターは、ユフィが調べたところ問題なく元の住処へ戻ったみたい。もともとかなり距離があるところの話だったみたいで、ここまで逃げてきたのはやり過ぎって言ってた。おふざけ半分で駆けっこになってたんだって。だからこそ、そのせいで畑を荒らされたことに怒ってた。


 北西のミルスがなんたらって言ってたから、そう考えるとミルス住処よりも北側ってことだもんね。かなり森の奥深くの話になりそうだ。


「へー……。その冒険者って誰か聞いて良い?」

「前言ってたクグロバレットってっとこの人たち」


 隠してたりする雰囲気なかったし言っても構わないよね。


「なるほどなるほど。ちょっと話聞いてこようかな」


 何か興味があるみたいで、イルちゃんは足早に行っちゃった。


「さて」

 

 尻尾についてはどうにもならないと結論が出てスッキリしたので、農作業を頑張ろう。




 イルちゃんとは畑の話ばっかりだったけど、今一番気になってるのは田んぼだったりする。

 今私用の田んぼは二メートル四方のやつを二つ用意してある。それぞれの真ん中にポツンと種を植えて、今はそこそこ育っていて片方には小さな実も付き始めてる。


 多分この形式が一番良い。私にはミルスほど細かい調整ができないから、別種を同じ田んぼに入れておくと水質がどこにも焦点が合わなくなっちゃう。あとは広くスペースをとっておくことで、変化に気付きやすくなる。

 同じ種類でも沢山植えておくと変化が強くなっちゃうから、私じゃ対応し切れないとも感じる。ミルスの魔法って持続的に効果を発揮してるのかな。その場その場で調節してるだけの私だと目を離している間にダメになっちゃってるっぽいんだよね。


 効率はかなり悪いと思うけど、育たないよりはよっぽどマシ。あとは私がどれだけ精度良く魔法が使えるようになるのか、変化を読み取れるようになるのかってだけだと思う。


「がんばれー」


 水中で小さく実ってるトマトみたいなやつに声を掛ける。これが成功したら、田んぼでの収穫第一号だ。炭みたいな苦さで正直美味しくもなんともないけど、それはそれ。大きく実って欲しいと願いを込める。



 数日経って、田んぼの様子を見る。今日はミルスの方で作ってた畑で良い作物がいくつか採れたので、今のところすごく良い日。


 実は前畑を荒らされたときに怒ってた子が、すごく張り切っていてその収穫物が良かったのだ。大きなカブみたいな根菜で、味は少しもっさりと芋っぽい。私でも色んな料理に使えそうな作物で、一度に採れる量もそこそこあるから育てられたらかなり良い感じになるはず。

 同じ子がもう一種類、白いごぼうみたいなやつも育てていてそっちも当たりだった。少し甘いコーヒーみたいな感じで、スライスして乾かしたりでお茶みたいにすると、コーヒーにできるんじゃないかって思う。そのままお菓子にも使えると思う


 あとは他の子がぷるんぷるんのゼリーみたいな半透明のナスみたいな作物を作ってて美味しかった。表面はちょっとだけモチっとしてて、ちょっと砂糖をまぶすだけで完成されてる和菓子みたいになる。

 これは渡しの方じゃ作るのは中々難しそうだけど……。今の私なら可能性はあるかもしれないので、チャレンジしてみたい一品。美味しい上に面白いから、みんな欲しがると思う。


「やったっ」


 私の大切な炭トマトちゃんも、見事にまん丸く実った。青白くて不健康そうな色だけど、これで熟した色。逸る気持ちを抑えて、慎重に田んぼに入って収穫する。うん、綺麗な形、綺麗な色。


 思わずそのまま一齧り。


「うぇ、ごほっ、ぐあ」


 まっず。いや、もともとこんな味だったんだけどさ。

 この味を何かに生かせるかというと……なんも思いつかない。苦みを加えるって場合もあったりするけど、こういう苦みじゃないよね。それこそ今日の白ゴボウの方が良さそう。


 んー、なんか悔しい。せっかくだから、とっておいてイルちゃんにあげよう。苦いのってなんか薬とかになりそうなイメージあるし。いらないって言われたら、どうしようもないし諦めよう。


 でもでも栽培としては成功だ。ちょっとずつ難易度が高そうなやつに変えて行こう。早く水中カボチャにチャレンジしたいな。


 それにしてもの味だな……。口の中から苦さが消えない。大切に育てたのに、なんだか申し訳ない気分。


「ナナン?」

「ううん、栽培は上手く行ったよ」


 えずいてたから、失敗したと思われちゃった。ミルスの方の田んぼから見えてたから、心配して来てくれたみたい。


 もうノクルもすっかりここの常連さんだ。うちに上がることもあるし、普通の常連さん以上かもしれない。


 ラナと森でのトレーニングが始まってから私たちとの距離も随分近くなったと思うけど、肝心のラナとの関係が最近どうなってるのかよく分からない。

 トレーニングの方はまだ続いていると言えば続いてるんだけど、時間は以前より短いしタイミングもまちまち。ラナもすっかり一人前のミルスという感じになっているし、もう終わっても良い気がする。


 ラナの幼さ、というか無邪気さ?みたいなのは相変わらずだけどね。最初出会ったときは子供のミルスだと思ったけど、もうそんなことはない。ミルスの子供の範囲ってよくわからないけどね。



「最近ラナとはどう?」


 ということで聞いてみた。


「ナナ、ナー……」


 ノクルもよく分かってないみたい。あんまりにも、ラナが気にしてないせいだよね。ユフィ共ども気にしなさ過ぎだから難しいところなんだろうな。こういうところは本当の親子か兄弟みたいに似てる。

 未だに自分で植物の種なり苗なりを持って来ないのも、育ててないのもおかしい。ユフィがせっついてないあたり、そこは急かすような事でもないんだろうけど。


「でも流石にそろそろアクション起こして良いんじゃない?このままじゃキリない気がする。他の子に興味持たれる前に、何かしらはしておいた方がって思う」

「ナ……」


 多分、ノクルって本来モテるんだよね。向こうから寄ってくる場合は慣れてる。そのせいで逆に自分からのアプローチの仕方が分からないというか。

 でもだからといって私が何か詳しいわけじゃないから、具体的なアドバイスはできない。とにかく「頑張って!やったれ!」みたいに応援することしかできない。他に相談しようにも、私の周りはここら辺疎い人しかいない。


 ミサキさんは独身だし、イルちゃんはこっちに来てから出会ったわけでもない上に、言い方からして元から許嫁に近いように思える。

 ミルスの常連さんに聞こうにも、最初の頃にトロピの奥さんがとっくに亡くなっていることを知って以来、切り出しづらい話題だ。そもそも一人でここに来ている以上、家族がいたとしても放ったらかして来ているわけで……。常連さんに聞くのは少し間違っている気がしなくもない。


 かといって常連さん以外にプライベートな話をするのも気が引ける。他にノクルやラナのことを好きってミルスが表れでもしたら、私はどうしたら良いか分かんなくなっちゃうし。


 むむむ。

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