第27話

「やほやほー、大丈夫だった?」


 さらに一週間ほど経ってから、イルちゃんがやって来た。

 既に農園はすっかり様々な植物が生い茂っていて、町の方も瓦礫の片付けなどは終わりユフィが手伝うようなことは終わっている。町に関しては、新たに生えている大きな樹木をどう活用するかで悩んでいるそうだ。


「やほー。おかげさまで私はなんともないよー」


 ユフィが言うには一応家の端の方に魔法の流れ弾が当たったらしいんだけど、中にいた私が全く気付かなかったくらいになんともなかったわけだ。リフォームの件が効いているんだと思う。元からかなり頑丈なのに、追加で全体を強化する能動的な防御を発動していたんだって。

 最後にあった、防御を解除してから絡みついていた植物をどかす際の振動が一番大きかったくらいだし。


「それは何より。何か変わったこととか気になることある?ユフィも」

「ミーャ」

「私も別にないかなー。あ、クグロバレット?って人たちが町にいたよ。今は多分森の中」

「ほえー、わざわざこっちに来るんだ」

「ん?何かあるの?」

「なんとなく、エルフとかと相性悪そうだなって思ってたからここら辺避けそうかなと」


 確かに、自然を大切にしそうなエルフと銃器を使うグループは相容れない気もする。


「あれ、そしたらイルちゃんの羽根ってエルフさんたちからしたらどうなの?」


 機械翼はとても受け入れ難そうに思える。


「大問題だよ?」

「あらまー」


 そうだったんだ。


「どっちにしろ森には入れてくれないし、あんまり関係ないけどね」

「じゃあクグロバレットさんたちも、同じ感じなんじゃないの?」

「お、確かに!」


 納得なんだね……。あんまり自分のこと考えないのかな。それか灯台下暗しってやつだ。


「逆にイルちゃんはあの人たちと仲良かったりするの?」

「んー、普通だね。ぱっと見では両方機械っぽいってなるかもだけど、全然違うものだからね。町の人の方が仲良い人いそう」


 イルちゃんの言う町の人は、多分錬金術師の町のことだ。イルちゃんはそこでちょっと偉かったりするみたい。




 イルちゃんがユグロコの町へ用事があるということで、私も用事があったから一緒に行くことにした。珍しくラナだけ付いて来る。イルちゃんがいるからかな。


「雰囲気全然違うねー」

「そうだねー」


 前はガラス細工がメインって感じだったのに、今はエルフさんたちが残していった巨木がメインの町になってる。


 街を彩っていた大き目のガラス細工はほとんど壊れちゃったから、まだ町中に配置するには数がないみたい。工房自体を直した後じゃないと作れないしね。


「あ、イルさんこんにちは」

「どうもー、こんにちはー」


 知らないおじさんが挨拶だけしながら通り過ぎて行った。この町の人じゃないけど、イルちゃんのことは知ってるみたいだ。流石イルちゃんだ。


「今のは?」

「砂漠の町のひとー。色んな場所の様子を見てくる仕事だったはずだから、この町の様子を見に来たんだと思う」


 冒険者さんというより、仕事で旅する人かな?


「色んな人がいるんだね」

「こっちではリコちゃんの仕事の方が珍しいけどね」


「あ、どうも」

「どうもー」


 もちろん町の人たちもイルちゃんを知っている。大抵一言挨拶したり、会釈したりする。一緒にいる私も人気者になった感じがする。

 私も知られてはいるはずだけど、見た目が地味だし、知られてるのと人気なのはちょっと違うよね。


「思ったより復興進んでないのかな?」


 まだ建設途中の家も目立ってるから、確かにそう見える。


「この木を活用したり、折角だから雰囲気合わせようとしたりで時間かかってるみたい。資材や人手不足ではないってミサキさんが言ってたから、大丈夫だと思う」


 魔法を使えば建築もあっという間だけど、ぐにゃぐにゃした木の上や下に家を建てようとしたらもちろん大変だ。手間をかけて家を建ててもまた壊されるかもしれなくて勿体無い気もするんだけど、やっぱり気に入ってるかどうかは大切だよね。


「復興が遅れてる人の方が元気あるんだ。ちょっと不思議な感じだね」

「確かにそうだねー」


 今も悩みながら家を建ててる人は、すごく楽しそうにしてる。


「これ、良いんじゃないか!?」

「イカスっす!そこにステンドグラスとかどうっすか!」

「それだ!お前天才だな!これで俺の家が芸術作品に……!」


 ……ちょっと、極端に楽しみ過ぎている人な気もするけど。


 中途半端な街並みはこれはこれで楽しいみたいで、イルちゃんに引っ張られグルっと回っていく。


「人口も減ってなさそうかな」

「避難が間に合ったみたいだし、何か怖いものを見ることもなく済んだんだと思う」


 一度町が襲われると、怖くなってそのまま引っ越しちゃう人もいる。でも今回はすぐ逃げられたみたいだし、怖い思いをした人はいなさそうだ。


「あ」

「あ」


 というのも、噴水が降ってきたからだ。私は魔法の傘を広げる。横を見ると、イルちゃんは何もしてなさそうだったので、入れてあげる。


「ありがとー」

「いいえー」


 町の人たちも各々対策したり、雨宿りに走る。流石に建築を中止する人もいて、ちょっと大変そうだ。道の整備も不十分だから、水たまりもすぐに増えそう。こういう面では良くない土地なのかも。


「防水魔法なんだっけ」

「今はちょっと違うけど、そんな感じ」


 つまり放っておいてもイルちゃんは問題なかったんだけど、私だけ傘をさしてる図は申し訳ないよね。


「あら、ここは結構違うね」

「違うというか、放置状態だね」


 最後に着いたのは、ミルスの公園だ。


 公園というか、もはや雑木林でしかない。町を飲み込んだような巨木こそないものの、自然の浸食が激しい。改めて見ると、エルフではなくミルスがや自分でやった気がする。


 片付けること自体は町よりもよっぽど簡単なはずだけど、ここが放置されているのには理由がある。


「ああ、ミルスがいるんだ」

「それで対処に迷ってみるみたい」


 公園の外から眺めているだけだけど、こちらが気になったのか木の上でミルスが姿を覗かせた。


 ミルスと人間の交流の場所なのだから、ミルスが登っている木を切り倒して良いのかという問題が浮上している。

 ミルスは森に住んでいるわけで、木登りも得意だ。簡単に登れるし、木の上で寝たりもする。


 実際に聞いてみても、「えー、倒しちゃうの?」みたいに渋るミルスが結構いる。

 私も前入ったし、公園内で交流が出来ないほど木が密というわけではないんだけど、邪魔なのは間違いない。もともと林になっているゾーンもあったわけで、全体がこの状態というのは困りものだと思う。


「そういうことかー」


 これだけ木があると見通しも悪くて、モンスターの侵入に気付き辛いという欠点もある。もともと町と森の境界にある公園なので、あんまり良くない。スミレさんたちが頑張っているみたいだ。

 今こうして見ていても、中の様子なんて全然分かんないもんね。


「じゃあ私はちょっと見てくるから、この辺で」


 とイルちゃんが別れを切り出し公園内へ向かったので、素直に頷く。


「はーい。じゃあまたねー」


 私は市場の方に用があるのでそっちだ。少しラナが心配そうにしていたのもあるし、公園には入らない方が良いと思った。人見知りなんだろうなー。

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