帰る

ritsuca

第1話

 今日の依頼もあまり後味はよくなかった。いずこの探偵事務所もそうなのかは知らないが、うちの事務所に来る依頼は、後味のよろしくないものが多い。そのうえ、あまり嬉しくないことだが、報酬をきちんともらえないことも珍しくない。家賃の心配がないからいまの仕事を選んだが、それでやっと自分ひとり、養うことができるかどうか、といった程度の稼ぎでやりくりしているのが現状だ。

 そんなわけで、今日も福島は徒歩15分ほど先の診療所へ向かう。徒歩15分といえど、経路の選択肢は複数ある。今日は商店街を通って少し遠回りすることにした。

 後味が悪くとも、きちんと報酬を受け取ることができたときにはなるべく食材、もとい、手土産を持っていくようにしている。


「おかえり……また妙な依頼を受けてきたんじゃないだろうね」

「ただいま。違うって。一人で鍋つついてもつまらないだろう、ほら」

「……美味そう。ちょっと待ってて、片づけるから」

 荷物を抱えたまま自席に向かう宮城へ、おう、と返して福島は鍋に向き直った。こうして福島が台所に立つと「おかえり」と迎えてくれるようになったのは、いつからだったろう。

 広めのダイニングキッチンを転用した事務所に、食欲をそそる出汁の香りが漂い始める。面倒な依頼を持ち込んでしまった時よりもはるかに穏やかな時間が流れていた。

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