第五十三話 姉妹の関係

 目が覚めると、アラームが鳴っていた。

 枕元に置いていたスマホを手に取り、閉じようとするまぶたを擦りながら画面を見ると、七時と表示されていた。

 もちろん、何の予定もないのに、こんなに早く起きるわけがない。

 今日は土曜日。一胡と一緒に、朝から出かける約束をしていた。

 ただ、どこに行くかは分からない。とにかく、朝から出かけたいらしいから、どこに行くかも分からないまま、俺は平日と同様に早く起きる羽目になった。


「おはよう、琳太郎!」

「・・・・・・元気だな」

「だって、すっごく楽しみにしてたんだもん!」


 無邪気すぎて、俺の目もだんだんと覚めてきた。

 よく見ると、一胡の方も、まだ身支度は整っていないようだった。いつもの、ピンク色で可愛いパジャマを着ている。


「そう言ってるわりには、まだ準備終わってねえじゃん」

「だって、琳太郎が寝坊でもしたらショックだから、先に起こしに来たんだよ」

「俺はガキか」


 普段、仕事のためにちゃんと起きているのを知っているはずなのに、何故こんな子どものような心配をされているのか。

 全く分からないまま、ベッドから身を起こした。


「ほら、起きるから一胡も準備してきたら?」

「うん、そうする!」


 張り切った返事の後で一胡はすぐに踵を返し廊下を走って、少しするとドアを開ける音がしてすぐに閉まる音もした。

 朝から騒々しい奴だ。

 だが、その騒々しい奴のおかげで、俺の毎日が以前より少しだけ彩られているのは確かだ。こうなっては、年下だと見くびって文句なんて言えないな。


 着替えて下に降りると、既に皆起きているようだった。波夢まで起きているのは珍しいな。いつもだらけて、だいたい昼まで寝ているのに。


「おはよう」


 皆と挨拶を交わしてから、いつも通り用意されていた朝ご飯に手をつけた。


「今日は一胡とデートなんだよね?」


 貴奈子がスッと整った背筋を伸ばしながら、真っすぐな瞳で聞いてくる。ナチュラルに出てきた「デート」という言葉に口に含んだ米を吹き飛ばしそうになるのを堪え、落ち着いて答えた。


「まあ、そうだな」


 皆が俺と出かけることをデートと言うため、もう否定することは辞めることにした。否定してもデートと言うから、もうどうにでもなれ、というやけくそ精神だ。


「えーいいなあ! あたしも琳太郎とデートしたい」

「はいはい、また今度な」


 こんなアピールに対応するのにも慣れてきてしまっている。別に駄目ということもないだろうが、何だろう。慣れすぎるのも、何だか気持ち的に嫌な感じがするな。


 朝ご飯を食べ終わってきた頃、上からドタドタと下りてくる足音が聞こえてきた。


「あ! 琳太郎もう食べ終わりそうじゃん!」


 明らかに慌てている一胡は、用意されていた朝食を、立ったまま勢いよく口の中に放りこんでいく。


「ちょっと一胡、ちゃんと座って落ち着いて食べなさい。お行儀が悪いよ」

「だって、琳太郎と早く出かけたいんだもん」

「それは理由になってない。早く出かけたいなら、早く準備をすること」

「でも――」


 一胡が何かを言おうとした時、貴奈子の鋭い視線が彼女を射抜く。その瞬間、空気が凍り付くのを感じた。

 これは、姉妹喧嘩ってやつか!? どうする、こんな場面の対処法なんて、考えたことねぇぞ。

 内心おどおどしていたが、俺が考える暇もなく一胡が椅子に座って言った。


「ご、ごめんなさい」

「うん、偉いね一胡」


 以前から感じていたかもしれないが、やはり長女というのは強い。だからと言って全てを任せるわけではないが、やはり自分がしっかりしなくてはという気持ちが、長女である貴奈子にはあるのだろうか。


 そんなこんなでひと悶着あったが、一胡も朝食を食べ終わり、俺たちは早々に出かけることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る