第2話 地球が異世界化

 警察署に着いたら洸介が警察官と話を始めた。


 そして五分後……


 留置所から出てきた徹真も一緒に事情聴取を受ける事になった。そのお相手は国のお偉いさんらしい。


「それでは皆さんこちらの会議室にお入り下さい。現内閣総理大臣の内藤とweb会議を通して話をして頂きますので」


 警察署の署長だと名乗った男性に案内された会議室には大きめのテレビが置かれていて、そこには内藤という今の内閣総理大臣が映っていた。


 優香に確認をしたから間違いではない。


「君たちが異世界に行っていたという方たちですか。初めまして、私は内閣総理大臣を天皇陛下より拝命した内藤と言います。皆さんのお話をうかがう前に先ずは今の日本の事をお話したいと思います」


 という訳で、努力つとむたちは自分たちが異世界に召喚されてからの日本と世界について教えて貰う事となった。


 その話の内容は努力つとむたちが居なくなって半年後に伊勢神宮に神託と高野山に声聞しょうもんがあった事から始まったらしい。


「もうね、大変だったんだよ。世界各国から何で日本だけ二つもお知らせがあるんだって非難が殺到しちゃってね。そんなの知るかって話だよね、ホントに。世界各国にはローマ法皇には神託があってそれが発表されたんだけど、日本はその一日前にあったものだから余計に非難が集中してねぇ……」

  

 とざっくばらんな話し方になっている内藤大臣。


 神託と声聞しょうもんの内容はと言うと、


【天照大御神】

『人々よ、備えなさい 大いなる試練が貴方たちを襲います それに向けて備えるのです』


【空海】

『世界に魔物が溢れ帰る世となる 悟りをひらきし者たちが現れる その者たちは魔物に対抗せねばならぬ これまでの常識は通用せぬ 凡夫を守り生活を守る為に悟りを開け』


 という物だったらしく、何の事を言ってるのかちんぷんかんぷんであったのだが、神託と声聞しょうもんの二ヶ月後に日本で魔物と呼ぶに相応しい者たちが出現したそうだ。

 そこで国として自衛隊を派遣したのだが、現在ゴブリンと命名した魔物すら銃火器が通用せずに撤退を繰り返す事になったらしい。


 そして、遂に能力に目覚める者たちが現れて、その者たちがゴブリンを倒し始めると国は大急ぎで法整備を行った。


「ホントに平和な時だった国会もあの時ぐらい迅速に決まれば国民に信頼されてたんだろうけどねぇ」


 愚痴も聞きながら話の続きを聞く。


 魔物たちは今はダンジョンと命名された場所より湧いて出てきていたらしく、能力に目覚めた者たちがそのダンジョンに入り、魔物たちを倒して行くとダンジョンの外に出てくる事は無くなった。そこで有識者を早急に集めて会議を繰り返し、状況を確認しながら新たな法律を次々に作っていったそうだ。それは日本以外の国々でも同様にそうしたとの話である。


「でもね、何故か分からないけど日本が一番能力に目覚める人が多くてね。それでアメリカなんかからは能力者を派遣しろってせっつかれてねぇ…… でもうちとしても先ずは国民優先をしなくちゃダメでしょ? だから丁重にお断りしてたんだけどね、そしたら当時の大統領のおつむが大噴火しちゃってね。あっ、知らない? 怪物◯んっていうアニメを参考にしてその表現を取ったんだけど。まあ、それはどうでも良いんだけどね、核ミサイルを発射なんてしやがったんだよ。もうあの時は生きた心地がしなかったね、ホントに。何で無事なのかって? それは良く分からないんだけど、何だか世界中の銃火器や重火器は使用してもその効果を発揮しなくなったんだよ。それによって戦争も無くなったのはいい事だよね」


 そこまで聞いた時に洸介と彩夏がポツリと同じ言葉を呟いた。


「「神域結界だな(ね)……」」


「えっ、何それ? 何か知ってるのかな? それなら教えてくれないかな? もうオジサン、毎日毎日国民から責められててね。今の状況を確実に説明出来るなら少しは責められる事も無くなると思うんだよ」


 聞けば集められた有識者というのが、主にラノベ作家がメインらしくて、そこに生物学者も加わって毎日、喧喧囂囂けんけんごうごうとやり合っているそうだ。努力つとむは心の中で内藤大臣に向けて『お疲れ様です』と労っておいた。 


 彩夏が内藤大臣に神域結界について説明をしていた。


「それは能力に目覚めた人が作る結界とは別物なんだね?」


「そうです。異世界では神の御業みわざとなっていて、その結界内では強力な魔法は使用不可能でした。でも地球では恐らく重火器などの使用不可になっているのだと考えられます」


「そうなんだ、有難う。これは明日にでも発表しても良いよね?」


「私たちの名を出さないのであれば構いませんよ」


「あっうん。それはそうするよ。それで、今の日本や他の国々はこんな感じなんだけど、君たちが過ごした異世界についての話を聞かせてくれるかな?」


 という事になり代表して洸介が話をする事になった。


「先ずは俺たちが召喚されたのはその世界を救う為でした。俺は勇者、彩夏は聖女、徹真は侍、梨華は魔導師としてのジョブを今でも得ています。そして、俺たちの召喚に巻き込まれてしまった努力つとむは料理人でした」


 そこから召喚されてから邪神を討伐するまでの話が続き、最後に洸介が内藤大臣に言った。


「俺たち、六年も邪神討伐の為に戦ってきて正直に言って戻ってこれたら暫くはゆっくりと過ごしたいと思ってたんです。ですから出来れば俺たちをそっとしておいて欲しいんですけど……」


 その言葉に内藤大臣は苦悩している。


「う〜ん…… 勿論だけど私としては君たちをそっとしておいて上げたい気持ちはあるんだけどね…… えっと多分だけど無理かなぁ…… 特に君たち四人はまだ地球では現れてないジョブだからねぇ…… うん、いや、でも雲隠れなんてしないでね。ちゃんと調整はするから! その日本は今も民主主義国家だから、その点は安心して欲しいんだ。それに私の個人的なアドバイザーとして動いて貰う事になるから。あ、でも努力つとむくんに関してはそんな拘束もしないから安心して欲しい。料理人というジョブは何人も居るからね。だけど異世界から戻ってきたというのは発表だけはさせてね。じゃないと何でアドバイザーなんて出来るんだって言う人が出てくるから」


 その後も言い訳のように強制依頼なんかは出したりしないからとか、国民からの非難は全部私が受けるからなどと言われて努力つとむ以外の四人はため息と共に内藤大臣のアドバイザーとなる事を了承したのだった。


「あ、それと大事な事を言い忘れてたよ。今の日本の成人年齢は男女問わずに十六歳となったからね。何故かって言うと若者の多くが十歳で能力に目覚めて、そこから基礎訓練を二年、ベテランに連れられて実践訓練を三年して晴れて探索者となるんだ。でも、十五歳は見習いとして活動して一年後に見習い卒業と同時に成人とするって法律になったから。結婚も可能だよ。ラノベ作家たちに押し切られちゃってねぇ……」


 その後、その警察署で洸介たち五人は身分証明書の発行を受けた。時刻は午後一時である。

 とりあえず徹真は梨華の家に転がり込む事となった。引っ越しした徹真の家族には警察から連絡がいったのたが、今はスペインに居るらしく正月まで帰らないとの事。なので住む場所なんかも自分で何とかしろという話らしい。


「アハハ、テッシンのご両親は変わってないね〜」


 梨華がそう言って笑っていた。 


 そして努力つとむは徹真に着いていき、貴金属買取り屋と銀行に向かった。


 貴金属買取り屋はこの町で一番大きな店を選んで、徹真も努力つとむも金塊を一本(十キロ)出し買い取って貰った。


 買取り価格は一グラム五千円となっていた。

 

 そして銀行に行き口座を作り半分を預ける徹真と努力つとむ。洸介、彩夏、梨華の三人は家族が居るので買取りはまだせずに取っておくらしい。

 そしてそのまま不動産屋に行く徹真と努力つとむ。徹真は今日は梨華の家に居候いそうろうするが、なるべく早く住む場所を確保したいと考えているようだ。


「それなら私も転がり込めるような部屋をえらんでね〜」


 梨華が徹真にそう言っているのを見て優香が努力つとむに、


努力つとむ、私も一緒に住むから」


 と同じような事を言ってきた。


「えっと…… うん、優香が良いなら一緒に住もう」


 ここまでの間に優香の話もちゃんと聞いていた努力つとむ。優香の両親は初めの魔物侵略によって優香を守って命を落としていた。

 なので優香は努力つとむの実家で暮らしていたらしい。

 だが最近になって努力つとむの父からセクハラを受けるようになり母からはその所為で嫌がらせを受けていたそうだ。


「そりゃあ努力つとむが責任を持って守ってやらないとな」


 なんて洸介に言われたが、努力つとむの頭の中には父と母への怒りが満ちていた。けれども離れて暮らすならば問題ないだろうと思い、徹真にもう少し実家から離れた場所で部屋を借りますと伝えて駅へと向かう。


 何故かそれに着いてくる洸介と彩夏。不思議に思い努力つとむが二人を見ると


「いくら国の法律が変わって成人してるってことでも、努力つとむも優香ちゃんもまだ十六歳だ」


「私と洸介じゃ頼りないかも知れないけど、二人がちゃんと住める場所を選ぶまでは確認させて欲しいの」


 そう言ってくれたのだ。内心で『僕がシッカリしないと』と気負っていた努力つとむだったが本心では不安を感じていたので


「有難うございます。よろしくお願いします」


 と二人に頭を下げて感謝した。優香も努力つとむの隣で同じように二人に頭を下げている。


「ハハハ、よせよ努力つとむ。一緒に異世界を旅した仲だろ?」


「そうよ。それに私は努力つとむくんの料理をコッチでも食べたいから場所を知っておきたいだけだから」


 照れてそう言ってくれる二人に努力つとむは必ず美味しい料理を作りますねと笑顔で言って四人で電車に乗り込むのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る