異世界帰りがみんな強い訳ないでしょ? 僕みたいな非戦闘職(?)も居るのは当然です!

しょうわな人

第1話 帰ってきました

 

『皆様、この六年間ほんとうにお世話になりました。皆様のお陰で私たちは邪神に滅ぼされる事なく生きていけるようになりました。これより皆様を元の世界にお戻し致します。過ぎ去った時は戻す事は出来ませんが、私たちの世界で得た物は全てそのままお持ちになって戻っていただけます。戻られてからもどうか皆様が元気で過ごせるように、勇者様にお聞きしたので皆様お一人お一人に我が国と周辺国の国庫より金塊(一本十キロ)を百本ずつご用意致しました。どうかご自分の世界に戻られましたらその金塊を売って生活が落ち着くまでの資金と無さって下さいませ。それでは皆様…… もうお会いする事は叶いませんが、いつかまた、何処かで…… やっぱり嫌っ!! ツトムさん! どうか貴方あなただけはこの国に残って下さいっ!! 貴方の料理が食べられなくなるなんてワタクシには耐えられませんっ!!』


 突然そう叫ぶ異世界の王女様。しかしツトムはそれに笑顔で答えた。


『レリーナ姫、大丈夫だよ。この王宮だけじゃなくて、周辺国にも僕の弟子たちが居る。僕が居なくなっても僕の弟子たちが僕以上に美味しい料理を作ってくれるよ。だから、そんなに泣く事はないよ』


『いいえ! ワタクシは貴方の料理だけじゃなく貴方自身も……』


『ゴメンね、レリーナ姫。僕も元の世界に好きな人がいるんだ……』


『そう、そうですわよね…… ツトムのような素敵な男性ならば勿論…… では最後にワタクシからの餞別という名の祝福を受けて取って貰えますか、ツトム?』


『? 餞別なら金塊を僕も貰ったよ』


『勇者の皆様には申し訳ございませんが、これは我が国の王女として一人だけに与えられる祝福の力なのです。ワタクシはツトムに受け取って欲しいのです』


『そんな!? もしもその祝福が僕が居なくなった後に必要になったらどうするの? ダメだよ、そんな大事なものは受け取れないよ』


 そこで勇者であったコウスケとこの国の国王であるザルベルドからツトムは言われる。


『おいおい、ツトムよ。姫様がこれだけ言ってくれてるんだ。最後の別れに姫様の気の済むように受け取っておけよ』


『ツトムよ。どうか余の娘の気持ちを受け取って貰えまいか? 邪神の脅威は去り、姫の祝福の力はもはや必要ない。それならばせめて召喚に巻き込んでしまったそなたに何かを返したいと余も思っておる。それが姫の祝福ならばきっとそなたの役に立つだろう。だから頼む』


 二人からもそう言われてまだ十六歳のツトムは悩みながらも受け取る事にした。


『分かったよレリーナ姫。どうすれば良いの?』


『ワタクシの側に来て頂けますか? そして正面に立って目を瞑っていただきたいのです』


 言われた通りに姫の真正面に立ち目を瞑るツトム。ツトムと姫の身長はほぼ同じである。


 そして、ツトムの唇に柔らかい物が押し当てられ、勇者たちからは


『ヒューッ!』『姫様、大胆!』『ツトムくんの初キスは異世界で!』『ツトムがおとこになってしまった!』


 などと囃し立てる声が聞こえたが、ツトムはというと、唇をこじ開けられ姫の舌が入ってきてそこから何かが体内にも入ってくるのを感じていた。


 長い時間かと思われたが、実際は十秒ほどだったらしい。後からコウスケにそう教えられた。


『これで全てを渡し終えましたわ。ツトム、元の世界に戻っても偶にで良いのでワタクシの事を思い出して下さいませ……』


『うん、レリーナ姫。絶対に忘れないよ』


『それでは皆様、どうかこれからの人生も良き日々を!!』


 こうしてツトムを含めた五人は地球へと戻されたのだった。戻った場所はそれぞれの自室である。邪神を討伐した事により、邪神の貯めていた魔力を最大限に利用してそれぞれの自室の座標を特定して戻れる事となったのだ。


 気づけばツトムは懐かしい自分の部屋に立っていた。慌てて靴を脱ぐツトム。その時に勇者の一人であったコウスケの恋人でもあるアヤカからテレパスが飛んできた。


『あ〜あ〜、マイクチェック、マイクチェック! こちらアヤカ、みんな聞こえますか?』


『こちらツトム、感度良好!』

『こちらコウスケ、っていうかお前の部屋の真ん前だよ!』

『はーい、リカだよー、ちゃんと聞こえてるよアヤカちゃん』

『こちらテッシン。聞こえてるぞ』


『みんな今のところ何の問題もない?』


 アヤカからの質問にテッシン以外は問題なしと答えたが……


『あ〜、こちらテッシン。実は問題が…… 戻ってみたら見知らぬ家族が住んでいてな…… どうやらそれがしの家族は引っ越してしまったようだ…… で、不審者として警察に連絡がいったところでな…… 誰か助けてーっ!!』


『ワッハハハ、災難だな、テッシン!』


 コウスケは大笑いである。


『よーし、それじゃプランC実行だね! それぞれの肉親に帰省した挨拶を済ませたらテッシンの逮捕された警察に出向くよー』


『『『おーっ!!』』』


 という訳で部屋から出たツトムは両親の居るだろう居間にいくと、そこには幼馴染の優香ゆうかが両親と共にご飯を食べている姿が。


 努力つとむはその姿を見てホッとしながらも大きな声で叫んだ!


「ただいまーっ! 父さん、母さん、優香!!」


 まるで遊びに行ってましたの感じで言ったのだが、言った努力を見て三人が固まり……


「あれ? ひょっとして僕が居ない間に家に帰ったら【ただいま】って言うんじゃなくなったのかな?」


 その固まったままの三人に努力がそう言うと優香が椅子から立ち上がり、努力に抱き着いた!


「お帰りっ、お帰りなさいっ!! 努力つとむ!!」 


 十歳の頃とは違い、色々と成長している優香に抱き締められ、巨砲きょほうッキしそうになる努力つとむだが、努力どりょくして何とか止めた。


『それにしても優香はキレイに可愛い美少女になったなぁ…… 背は僕よりも少しだけ低いけど胸はムフフだし、腰もムフフだし、お尻もムフフだし!?』


 多感な思春期を異世界で過ごした努力つとむの思考は物凄く残念なものであった……

 それよりも残念だったのは……


「本当に努力つとむなの? 魔物じゃ無いわよね?」


 それが母親の第一声で、


「母さん、多分だが努力つとむだろう。家の周りはワシの神聖結界で囲っているからな。魔物は入れん筈だ。それよりも六年も居なくなっていたのは何でだ? ちゃんと理由を説明しなさい」


 これが父親からの言葉であった。


『ああ、変わってないな、この両親は…… それにしても異世界で聞いたのと同じ言語ワードが両親から出てきたけど…… 後で優香に聞こう』


 内心でそう思いながらも努力は冷静に両親に説明はしたいけど今から行く場所があるから、そこから戻ったら説明すると言ってそのまま優香の手を引いて家を出る努力。


 そんな努力に優香も黙って従っている。


 家を出た後に結界があるのが努力つとむにも分かった。けれど……


「ショボっ!? なに、この弱々しい結界は!?」


 思わずそう言ってしまう努力つとむ


「でもこれオジサンが目一杯の力を込めて作った結界だよ努力つとむ?」


 優香の言葉に努力つとむは思わず


「これなら僕が作った方が強力だよ優香。それに一緒に異世界に行ってた彩夏あやかさんの結界なんて邪神の眷属すら消滅するぐらい強力な結界だったよ。この結界なんてゴブリンが辛うじて防げるぐらいじゃないかな? オークなら一溜まりもなく壊されてるよ」


 優香にそう説明をしていた。だが、説明の中のある言語ワードが優香の琴線きんせんに触れてしまったようだ。


努力つとむ…… あやかさんって誰?」


 優香から氷結竜と対峙たいじした時に感じたのに勝るとも劣らない冷気がただよってきた。


「優香、彩夏あやかさんは一緒に異世界に召喚された人で、勇者だった洸介こうすけさんの恋人だよ。後の二人は梨華りかさんと徹真てっしんさんで、この二人も恋人同士だよ。僕はこの四人の召喚に巻き込まれたんだ」


 優香と共に歩き出しながらこれまでの事を説明する努力つとむ


「それでね、僕たちは自分たちが召喚される前の部屋に戻されたんだけど…… どうやらテッシンさんだけが既にご家族が引っ越しされてて、不審者として警察に捕まってしまったんだって。だからその誤解を解きに向かってるんだ」


 そこまで話した時にちょうど駅に着いたので切符を買って電車に乗り込む。二駅目が目的の駅だったので降りると改札口には洸介と彩夏、それに梨華が待ってくれていた。


「おう、ツトム! そのがツトムが言ってた優香ちゃんか? なるほど、姫さんの求婚を断る筈だな!」


 ここでは言って欲しく無かったと思いながらも努力つとむは話題を逸らす。


「皆さん、徹真さんが心細くて泣いてるでしょうから早く行きましょう!」


 そう言って歩き出す努力つとむに優香が耳元でボソッと言った。


「後で求婚のお話をさっき何故しなかったかのか説明してね……」


「う、うん……」


 そんな感じながらも徹真を救うために警察署に向かいながらも努力つとむは隣で歩く優香を見ながらやっと帰ってきたんだと実感していたのだった。

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