第38話 日本妖怪、猫又との出遭い!

ニャー、ニャーと騒がしい声の方向へ顔を向けると、鏡の額縁にある猫の顔が目を吊り上げていた。


どうして額縁が話しているのか不思議に思い、祭壇の上の足を乗せようとすると、エルラムが大声を放つ。


「台座の上に登ってはいかん。その祭壇は罠じゃ」


「え? どういうことなんだ?」


「ワシは賢者じゃぞ。魔法陣の解析など、お手ものものじゃ。祭壇の上に描かれている魔法陣は、転移の魔法陣じゃが、行先が示す文字が書かれておらん。不用意に足を乗せれば、無作為に転移させられるぞい」


そういえば最近になって、『晦ましの森』に入った新米冒険者が行方不明になっていると、フェインが言っていた。


というとは、冒険者達は祭壇の罠に引っかかって、ランダムに転移させられたということか。

そう考えると、すぐ王都に戻ってくるのは無理そうだな。


魔法陣をジッと見つめていると、鏡の額になっている猫の顔が歪む。


「よくも吾輩の罠を見破ったのニャー! このまま生きて森からは帰さないニャー!」


猫はニャーと叫ぶと、額から飛び出してきた。

そして徐々に体が大きくなり、尻尾が幾つにも分かれていく。


これは幽霊というよりも、これって猫又と言われている妖怪だろ?


俺は恐怖を抑えて、猫又に声をかける。


「あのさ……昔、日本に住んでいたことないか?」


「どうしてお前が日本のことを知ってるニャー?」


間違いない、この猫または日本のことを知っている。

もう妖怪であろうが構わない。

ああ、日本が懐かしい。


久しぶりに同郷の者と出会ったことに興奮して、俺は両手を広げる。


「俺も日本から、このシャンベル世界に来たんだ! 日本への帰り方がわかるなら教えてくれ!」


「お前は本当に日本人か? それなら日本人が好きな食べ物を言うニャー!」


「お米、味噌汁、おしんこ、納豆、ハンバーグ、オムライス、肉じゃが、天ぷら、海老天丼、かつ丼、海鮮丼、牛丼! まだまだあるぞ、ああーーー刺身が食べたくなってきたー!」


「それは正に日本食ニャー! 吾輩も迷子になったニャー! 日本人に会いたかったニャー!」


俺が日本人だと理解した猫又は、大きな体を地面に伏せ、大粒の涙を零す。


日本にいた時はただの飼い猫で、タマと呼ばれ家族の者達に愛されて暮らしていたという。

毎日を平和に過ごしていたのだが、少し散歩をしようと遠出をした時、近所の森の中で迷ってしまったどうだ。

それで彷徨っている内に、このシャンベル世界に転移していたらしい。


猫又が転移した時代は、この異世界の古代文明の末期頃。

ある魔法研究家の男に拾われて、タマはその家の飼い猫になったという。


それから幸せな日々が続いていたのだが、やがて主人の寿命も尽き、タマを残して他界してしまった。


それを悲しんだタマは、食べることも飲むこともできず。痩せ細って男を追うように命を失った。

しかし気づくと、タマは猫又の妖怪になっていて、なぜか鏡の魔道具に憑依していたという。


話を聞き終わった俺は、タマに同情にして涙を流す。


「お前も苦労してきたんだな。日本にも帰れず、独りでよく頑張ったな」


「お主の体臭から、懐かしい味噌汁の匂いを嗅いで、日本のことを思い出したニャ」


俺とタマが抱き合って泣いていると、リアがパンパンと手を叩く。


「感動の再会はそこまでよ。森の奥で話し込んでいても仕方ないわ。冒険者達が行方不明になった原因もわかったことだし、さっさと祭壇の魔法陣を壊して、王都へ戻るわよ」


「魔法陣を壊すのは待つのじゃ。転移魔法というのは複雑な魔法でのう。元賢者であるワシでも魔法を発動させるのに、相当な時間が必要なのじゃ。この祭壇を研究すれば、簡単に転移魔法を使えるようになるかもしれん」


「壊すなと言われても、このまま放置していたら危険でしょ。また冒険者がいなくなったら、私達の責任にされるわよ。それは絶対にイヤだからね」


エルラムとリアが祭壇を巡って言い争いを始めた。

するとタマがキョトンとした表情をする。


「何を言っているニャ。祭壇も魔法陣もただの罠で、それだけでは魔法は発動しないニャ。物体を転移させているのは、吾輩が憑りついている鏡のほうニャ」


それなら祭壇を粉々に破壊して、鏡を持ち帰ればいいだけだな。

そうすれば鏡に憑りつているタマも、一緒に王都に来ることができる。


俺は両手を広げて、ニッコリと笑う。


「シャロン、俺達の邸に来ないか。日本に居た者同士、協力して暮らして行こうよ」


「よいのニャ? 吾輩は妖怪、お主は恐ろしくないのニャ?」


「幽霊も妖怪も同じようなものだろ。今更、一体ぐらい多くなっても気にしないよ」


「それなら喜んでお世話になるニャン! よろしくお願いニャン!」


シャロンは喜んで「ニャー」と鳴くと、体が元の大きさになって、鏡の額の猫顔へと吸い込まれるように戻っていった。


そして姿見ほどだった鏡が、徐々に縮んでペンダントぐらいの大きさになり、地面に落ちる。


『異次元収納の指輪』を使って、鏡を持ち帰ろうと思っていたけど、この大きさならポーチに入る。


腰のポーチに鏡を入れ、俺達は祭壇を破壊して、その場を離れた。

獣道を歩いて森の外へと向かう。

森の中では全く迷うことがなく、あぜ道まで出ることができた。


どうやら、あの祭壇は転移装置ではなく、迷いの結界を張る効果があったようだ。

もうこれで、森の奥まで誰も迷うことなく入ることができるだろう。


王都へと戻った俺達は、その足で冒険者ギルドへと向かった。


二階の執務室にいたフェイン に、冒険者達が行方不明になっていた原因を告げる。

しかし、タマのことは伏せて説明した。

祭壇が転移装置になっていたと嘘を伝えたおいた。

祭壇と魔法陣を壊しておいたと説明すると、 フェインは残念そうな表情をしてする。


やはり原因を突き止めて、有用だったら研究しようと思っていたな。


報酬を受け取った、俺、リア、エルラム、オランの四人は、幽霊屋敷へと戻った。

俺達は応接室に入り、ソファに座った俺は、腰のポーチから鏡のペンダントを取り出してテーブルの上に置く。


すると鏡の額縁からタマが飛び出してきた。

今回は飼い猫と同じ大きさになっている。


体の大きさを自在に操れるのか。

さすがは妖怪だな。


タマは応接室の中を珍しそうにキョロキョロと見回す。


「ここがお主達の邸なのニャ?」


「そうそう。俺とリアは人族だけど、他の者達は幽霊だから、この邸ならタマが猫又と知っても怖がられることもないよ。だから気楽に暮らしてくれ」


「感謝するニャ!」


俺とタマが懐かしく日本のことを話していると、扉が開いて幽霊メイド長のポリンが入ってきた。

そしてタマを見ると、嬉しそうに抱き寄せる。


「あらー、こんな可愛い猫をどこで拾ってきたんですか? 邸で飼うんですか?」


「そうだよ。名前はタマって言うんだ。仲よくしてやってくれ」


「わかりました。ではタマちゃん、ご飯を食べましょうね」


するとポリンに抱かれたタマが嬉しそうに彼女の頬を舐める。


これだけ可愛いなら、邸の者達と仲よく生活ができるだろう。

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異世界転移の霊能冒険者!~幽霊達を駆使して、憑依無双で王国の覇者へと成り上がる! 潮ノ海月 @uminokazuki

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