第36話 バッキオへの謝罪を考える!

周囲の冒険者を無視して、俺とリアは掲示板の前に立って依頼を探す。

すると近くから男の野太い声が聞こえる。


「悩んでるなら、俺が決めてやるよ」


いきなり声をかけられて顔を横に向けると、バッキオが表情を歪めて笑いっていた。


「レグルスの街では世話になったな」


「またトオルをイジメたら、玉を蹴り飛ばすわよ」


険しい表情をして、リアが身構える。

するとバッキオが暗い表情をして、ポツリポツリと呟く。


「王都で心機一転してやり直そうとしていたのに、どうしてお前達も王都に来るんだ。俺のことがそんなに憎いのか」


「いやいや、もうバッキオのことは気にしてないし、そんな気持ちは全くないぞ」


「それなら、どうして俺にばかり不幸が続くんだ。もう俺のことを許してくれ」


バッキオが泣きそうな表情で訴えてくる。

以前のバッキオより気弱になっているような気がする。

レグルスの街の冒険者達が噂してた、玉が潰れたという話は本当だったのかな。

それが本当なら、俺にも少し責任があるかも。


ちょっと不憫になった俺とリアは、テーブルに座りバッキオの話を聞くことにした。


バッキオが言うには、俺達に負けた日から奇妙なことが続き、それを不気味がった仲間達がパーティを抜けていったという。


どんなことが起こったのか聞いてみると、バッキオは青い顔色になる。


「レグルスの街にいた時、仲間と一緒に宿で寝ていると、部屋の備品が落ちたり、窓や扉が勝手に開くんだ。そして寝ていると、いきなり体が金縛りに遭うんだ。それに仲間の中には、視線を感じた者もいるし、誰かが体の上に乗ってきたという者もいた。俺も脚を何かに掴まれたことがある。それで仲間達が俺と一緒にいるからだと言い出して、パーティが解散になったんだ。全てお前達のせいだ」


そこまで話してバッキオがジロリと俺とリアを睨む。


「絶対に何かしたんだろう! もう俺を開放してくれ!」


「私もトオルも何もしていないわよ! 変なことを言うのはやめてよ!」


言いがかりとつけられて、リアは憤慨して頬を膨らませる。


バッキオが体験した現象は、どう考えてもポルターガイスト現象と霊障だよな。


しかし、俺とリアは霊感があるだけで呪術なども使えない。

妙な話だなと小首を傾げ、オランの方へ視線を向けると、彼女が下手な口笛の真似をする。


「オラン、何か知ってるなら、素直に白状しろ」


「アタシではないです。アタシは何もしていないです。エルラム様が時々、怯えさせに行くと言って、出かけていたです」


彼女の応えを聞いて、俺は遠い目になる。


エルラムはイタズラ好きの幽霊だ。

レグルスの街に居た時、嬉々としてバッキオ達を弄って遊んでいたんだな。


気まずい表情をして俯いている俺達二人を見て、バッキオが席を立ち上がって、目を吊り上げて俺達を指差す。


「やっぱりお前達が原因だろ! 責任を取れ!」


「そうよ、トオル。責任と取った方がいいわ」


「リアも『ホラーハウス』のパーティメンバーだよね」


「エルラムの主ってトオルでしょ。私は関係ないわよ」


今日のオランはゴーレムの体で人化しているから、彼女の声が周囲に聞こえてしまう。


こんなことなら霊体のまま連れてくるんだった。


リアの態度に理不尽を感じるが、エルラムと盟友契約をしているのは俺だ。


バッキオに迷惑をかけたことは事実なので、謝る必要がある。

すぐに考えがまとまらないので、バッキオに頼み込んで明日まで待ってもらうことになった。


それから示板の依頼を探す気力もなく、俺達は冒険者ギルドを後にした。

邸に戻った俺は、セルジオに頼みエルラムを探してもらう。

すると空き部屋にいたらしく、応接室に連れて来てくれた。


ソファに座ったまま、俺はジロリとエルラムを見据える。


「聞きたいことがあるんだが、レグルスの街に居た時、バッキオ達にイタズラしただろ」


「ムフフ、バレてしまったようだのう。少し遊んでやったら、怯えた表情をしてのう。あの時は楽しませてもららったわい」


まったく反省した様子もないエルラムに俺はガックリと肩を落す。

幽霊のエルラムに霊体験の続く怖さを説明しても伝わらないよな。


それから俺、リア、エルラム、オランの四人は、迷惑をかけたバッキオにどのように謝罪をするかを考えた。

冒険者への報酬といえば現金だろうと提案すると、リアに速攻で拒否された。


「どうして私のお金を支払わないといけないのよ! 貯金が減るなんて絶対にイヤ!」


「俺達は二人で『ホラーハウス』じゃないか。それにエルラムも仲間なわけだし」


「それとこれとは別! 公私混同しないでよね!」


どうしてもリアは金を出してくれそうにない。

俺の報酬もリアが握ってるんだけどな。


別の方法はないかと考えていると、オランが元気に片手をあげる。


「バッキオは仲間に逃げられたと言っていたです。パーティメンバーを揃えてあげれば、バッキオも依頼達成が簡単になるですし、それだけ稼げるです」


オランの言うとおり、バッキオは王都に一人できたようだし、冒険者ギルドでも一人でいた。

パーティを組んでくれる仲間がいれば、それだけ効率よく魔獣討伐ができるよね。


するとソファに座っているエルラムがにこやかに微笑む。


「それは良い手じゃのう。それなら少し宛がある。ワシに任せよ」


「私も頑張って、バッキオの仲間になってくれそうな者を探しますです」


「それならオランと競争じゃな」


オランとエルラムは楽しそうに邸を飛び出していった。

部屋の中に二人のゴーレムの体がゴロゴロと転がる。


人化もできるし、幽体だけにもなれるって、ちょっと便利かもな。

それより二人とも王都には、それほど知り合いもいないのに大丈夫だろうか?


それから二時間ほど経った頃、二人が揃って帰ってきた。

その後ろに四人の冒険者が並んでいる。


エルラムが自慢気に胸を張って、両手を広げる。


『この者達は冒険者としてはベテランじゃ。バッキオの手助けとなってくれよう』


『皆、元はCランク冒険者なのです。魔獣討伐の経験も豊富ですし、実力も確かなのです』


オランの言葉を聞いて、俺は首を傾げる。


今、元冒険者と言ってたよな……元って?


するとエルラムがウンウンと頷く。


『ワシがゴーレムの体を与えた者達の中に冒険者がおってのう。声をかけてみたら、快く引き受けてくれた。これで問題は解決じゃのう』


「いやいや、幽霊が仲間とバッキオに知られたらマズいだろ」


『ゴーレムの体を得た幽霊は、触れても人と変わらん。もし後から幽霊と知れても、その時には仲間としての縁も深くなっていよう。バッキオも無闇に怖がることはないじゃろう』


俺と幽霊達も上手くやっているし、バッキオも大丈夫なのか?


何だか騙されているような気もするが、エルラムの案に乗るしかないよな。

俺は心の中で、バッキオに向かって手を合わせた。

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