第35話 邸に集まった幽霊達に体を与えることに!
エルラムの飛翔の魔法によって、馬車が大空を飛んでいく。
こんなことが人々に知られたら大騒ぎになるぞ。
俺の杞憂を気にする様子もなくエルラムとオランは楽しそうだ。
そんあこんなで俺達を乗せた馬車は、アルバート様の王都邸の頭上へと到着した。
すると邸を警備していた兵士達が慌てて、玄関の中へと逃げ込んでいく。
空に馬車が浮かんでいたら、誰でも驚くよな。
しばらくすると警備兵達が現れ、その後ろにアルバート様がアリスちゃんを連れて歩いてきた。
そして地上に着地し、馬車から下りた俺に声をかける。
「トオルではないか。これは一体どうしたのだ?」
「ペイジ達を連れて来たんですよ」
御者台から振り返って後ろの車体を親指で差す。
するとアルバート様は馬車に駆け寄り、扉を開けて車内を覗き込む。
「こいつ等がカルマイン伯爵の配下か。なぜ動かないんだ?」
「エルラムの魔法で眠ってるんですよ。起きていたら逃げようと騒ぎますからね」
「そういうことか。では連中の身柄は私が預かろう」
アルバート様は手をかかげ、警備兵達に命じて、車内に寝ているペイジ達を邸の中へ運んでいく。
たぶん邸の地下にある牢に拘束するのだろう。
それからアルバート様が、これまでの経緯を聞きたいと言うので、邸の応接室で話し合うことになった。
部屋に入り、ソファに座ってマグリニス子爵領であった騒動を説明する。
そして『次元収納の指輪』から、子爵から預かった書類を取り出してアルバート様に手渡した。
「カルマイン伯爵に関わる書類らしいです。アルバート様に渡してくれと言っていました」
「そうか……後ほど読ませてもらおう」
書類の一枚を手に取り、アルバート様が大きく頷く。
それからしばらく二人で談笑し、アルバート様から多額の報酬を貰い幽霊邸へ帰ることにした。
これでリアに怒られることはないだろう。
俺、エルラム、オランの三人がノンビリと路地を歩いていくと、邸を囲むように老若男女の霊が集まっている。
どうしてこんなに幽霊が終結してるんだよ?
何か緊急事態が起こったと勘違いした俺は、幽霊達の間をすり抜けて、玄関の扉を開けて邸の中へと入る。
すると邸の廊下も幽霊達でいっぱいだった。
慌てて応接室へ駆け込むと、リア、セルジオ、幽霊メイド達が困った表情をして集まっている。
そして俺達の顔を見て、リアが嬉しそうに声をあげた。
「やっと戻ってきてくれた。これで問題は解決ね」
「幽霊達が集まっているけど、これは何の騒ぎなんだ?」
俺の問いに、幽霊メイドのポリンが騒動の経緯を話してくれた。
いつものように邸に憑依している幽霊達は朝から家事を忙しくこなしていたそうだ。
すると邸を覗く幽霊達が数人いたという。
その後に、幽霊メイド達がいつものように街の市へ買い物に行くと、通りに浮遊していた幽霊から声をかけられたのだ。
「アンタ達、幽霊なのに、どうして生きている人のように肉体があるんだ?」
「邸のご主人様に体を作ってもらったんです。この姿でなら買い物にも出かけられますので」
幽霊メイド達は幽霊達から質問される度に、丁寧に応えていたそうだ。
すると徐々に邸の周りに幽霊達が集まりだし、今の状態になってしまったという。
幽霊の中には承認欲求、自己主張の強い霊も多い。
それに幽霊って寂しがり屋だからな。
そういう幽霊達は肉体を持って生前のように人に混じって暮らしたいと望むよな。
たぶん幽霊メイド達の主人であれば、肉体を作ってくれると思ったんだろうな。
話を聞いて納得していると、リアが頬を膨らませる。
「感心してないで、何とかしなさいよ」
「え? どうして俺が?」
「だって、この邸の主人はトオルでしょ。男爵様なんだから」
俺とリアが揉めていると、エルラムが口を挟む。
『集まってきている霊を全て浄化してもよいが、本人達が望んでもいないことをするのは忍びないのう』
『それはダメなのです。ゴーレムの体を作ってあげたら皆も感謝するです』
エルラムの意見にオランが首を横に振る。
そして話し合った末に、『ホラーハウス』と契約した幽霊達だけに、ゴーレムの肉体を与えることになった。
リアがこれ以上、幽霊で面倒ごとはイヤと言い出したので、盟友契約するのは俺なんだけどね。
その幽霊達に示した約束は四つあり、
一つ目はゴーレムの肉体を持っても家族には会いにいかない。
二つ目はきちんと人らしい生活をする。
三つ目は『ホラーハウス』から応援依頼があった時にはそれに応じる。
四つ目は月に一度は定期連絡を行い、毎年、金貨一枚を収めるというものだ。
いきなり死んだ者が姿を現したら、家族の人達が恐怖するだろうし対処に困るからね。
肉体を持っていても、浮浪者のような暮らしをされたら、俺達に苦情がくる。
せっかくゴーレムの肉体を与えるのだから、対価を支払ってもらいたい。
それでゴーレムの体に戻ったオランと馬番のロイに頼んで、冒険者ギルドでトレントの素材と魔石を買ってきてもらった。
エルラムは俺に憑依し、体の魔力を使って次々とトレントの材木を人型へと変化させていく。
リアが魔石をはめ込んでゴーレムの体が完成すると、幽霊達は嬉しそうに次々と憑依していった。
俺の魔力が尽きると、リアと交代して、エルラムは幽霊達にゴーレムの体を与えていく。
その作業が三日続き、邸の周りにいた幽霊達は、人と変わらぬ姿となって、元いた場所へと帰っていった。
全ての作業が終わると、エルラムも疲れたようで、少しの静養する」と言って、どこかへ消えていった。
ソファでグッタリとしながら俺はセルジオに声をかける。
「何人の幽霊に体を与えたかわかる?」
「三百六十九人です」
それだけに人数の幽霊達が、人の姿となって王都に散らばったのか。
このことが街の人達に知られたら、パニックになるかもな。
もし騒動になったら、レグルスの街へ逃げよう。
俺は固く心に誓った。
それから二日間の休養と取り、久しぶりに元気を取り戻した俺は、リア、オランの二人と一緒に、冒険者ギルドへと向かった。
王都に移り住んでから、まだ一度も依頼を受けていない。
だから今回は魔獣の討伐に行くつもりだ。
だって冒険者ランクはCだけど、俺が戦ったことのある魔獣はゴブリンだけだからね。
冒険者ギルドの建物の扉を開けて広間に入ると、俺達を見て冒険者達が視線を逸らす。
それに違和感を覚えながら、受付カウンターの方へ歩いて行くと、周囲からヒソヒソ話が聞こえてくる。
「奴等がレグルスの街を恐怖に陥れた『ホラーハウス』の二人らしいぜ」
「ネクロマンサーの男は、死霊の軍団を使役しているそうだぞ。それで王宮を脅して貴族になったって聞いたぜ」
周りの冒険者達の噂を聞いて、俺は遠い目になる。
どうやら『ホラーハウス』の俺達が王都に移り住んだことが冒険者達にバレたらしい。
どこの誰が、こんなデマを流してるんだよ……。
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