第5話

<第2話>


■アンタレス・コーポレーション外観


高層ビルの前に立つネロ、エドガー、セシル。


エドガー「『ガジェット・アンタレス』は最近、経済界でも名を知られるようになった実業家だよ」


――リストに記載された名前『ガジェット・アンタレス』のカット。


エドガー「最先端技術への投資から古き伝統の保護、さらには慈善事業にまで。手広く展開するアンタレス・コーポレーションの若き社長にして、時代の嬰児ホープとまで言われてる」

エドガー「彼の第二性がDとはさっきまで知らなかったけどね」

ネロ「ま、あんま公表するようなもんでもねーしな」


エドガーたち、ビル内に入り受付へ。セシルも後ろからついていく。

エドガー、にっこりと微笑んで受付嬢を魅了しつつ手帳を見せる。


エドガー「警察省特務調整機関の者です。ガジェット・アンタレス氏にお話をお聞きしたいことがあるのですが」

ガジェット(声のみ)「私ならここに」


振り返る3人。背後に男女一人ずつ秘書を伴ったガジェットの姿。

セシルは厳しい顔をして睨みつける。ガジェットは素知らぬ顔。


ガジェット「会合が終わってひと息つけたと思えば、警察省の方々がお見えとは……訪問のご予定は聞いておりませんでしたが」

ネロ「長居はしねーよ」

エドガー「あくまで参考にお話をお聞きするだけですので、聴取はすぐに終わります」

エドガー「貴方が素直に答えればすぐにね


ぶつかりあうガジェットとエドガー&ネロの視線。

移動しながら、ガジェットは冷たい目でセシルを一瞥する。


■社長室・オフィス


移動したネロたち。ソファに座り、脚を組むガジェットは優雅に微笑む。


ガジェット「知らないな」

セシル「そんなはずありません! 姉は、あなたと会うために家を出て――」

ガジェット「確かに約束はしていました。ですが、彼女が来なかったんです。何度連絡を送っても返事はなかったし、待ち合わせ場所で何時間待っても……」

エドガー「暇だったんですか?」

ガジェット「は?」

エドガー「ああ、いえ。今をときめく社長さんにしては、時間の使い方が贅沢だな、と」

ガジェット「デートの日は、オフにしていたんですよ。私は、私なりにミリーを大事にしていましたから」

ネロ「の割には、捜索願は妹の方から出されてる」

ネロ「付き合ってた女が急に消えたんなら、もっと慌ててもいいようなもんだけどな」

ガジェット「……仕事がありますから」

ガジェット「彼女のことは心配ですが、私は私の務めを果たさないといけないので」

ガジェット「ミリーも、ワーカホリックな私を好きだといっていました。だから、これは彼女のためでもあるんですよ」


ガジェットをじっと見るネロ。


ネロ「……『繋がってる』から、心配じゃねえのか?」


にこやかな笑みを崩さないガジェット。


ガジェット「意味がわかりませんね」

ネロ「アンタらは、DとSだ。『首輪』があれば、離れていようと相手の状態が手に取るように伝わってくる」

ガジェット「……残念ですが、交際はしていましたが首輪を送る『契約』は結んでいませんでした」

ガジェット「彼女は私の恋人ですが、伴侶ではありません」


痛々しい表情をするセシル。本当か、と睨みつけるネロ。

エドガーは話に飽きたように視線を巡らせて、ふと秘書の様子がおかしいことに気付く。

首元をさすり、どこか嬉しそうな顔をする秘書を見つめるエドガー。


ガジェット「私に聞きたいという話は、これで終わりですか?」

ガジェット「ならばお引き取りを。そろそろ次の会議の時間です」


物言いたげに口を開くセシルを、視線で制するガジェット。


ガジェット「私も、暇ではないのです」

ネロ「……『知らない』。それが、アンタの答えだな?」


返事はない。微笑むばかりのガジェット。男性秘書に視線を送る。


ガジェット「丁重にお見送りを。彼らは、この敷地内を出るまでは客人です」

ガジェット「まあ、もう二度と会うこともないとは思いますが」


■アンタレス・コーポレーション エレベータ内


エレベーター内で悔しげな顔をするセシル。

ふとエドガーが笑みを浮かべて、ついてきた男性秘書を見る。


エドガー「貴方も大変ですね。我々のような者の対処までわざわざ」

秘書「いえ」

秘書「社長のご指示は全てこなす。それが、私の務めですから」


秘書、どこかうっとりとした表情で首元に触れる。


秘書「何があろうとも」


エドガー、冷たい目。


■アンタレス・コーポレーション施設内


深々と頭を下げる秘書に見送られる3人。


■アンタレス・コーポレーション近辺


エドガー「なるほど。蠍じゃなくてパンダだ」

ネロ「あ?」

エドガー「シロとクロが両立する」

ネロ「アホか」

ネロ「それにしても、Dが恋人なのに『首輪』は送られてない、か。Sにとっちゃあ苦しいところだな」

ネロ「あれがあれば、大抵のSは安定して過ごせるのに」

エドガー「……首輪、か」

エドガー「DとSの結びつきを強固にするもの」

エドガー「絆のカタチ」


エドガーの脳裏によぎる子ども(ネロ)の姿。

ボコボコに殴られ、血まみれで歯もかけているのに首輪をつけて嬉しそうに笑う子ども(ネロ)の姿に表情が歪む。


エドガー「僕は嫌いだ」


ため息をつきながら、ネロはセシルの様子を伺う。

セシルは怒りとも悲しみともつかない表情でいる。


ネロ「あー……その、だな。この件はオレたちが預かる」

ネロ「だから、もう心配しなくていい」


くしゃりと表情を緩めるセシル。

今にも泣きそうな彼女に慌てるネロがなだめようとすると――


エドガー「……時間はまだありますね」


Dの記載されたリストを取り出すエドガー。

視線はセシルに向けられている。


エドガー「これから私たちは捜査に赴きます」

エドガー「詳しくはお話できませんし、ミリーさんの失踪の件と関わりは薄いと思われますがガジェット・アンタレス同様、上級の力を持つ『D』を捜査することに違いはありません」

エドガー「何か手がかりが見つかるしれない。ご一緒されませんか?」


エドガーの笑顔に、はっとするセシル。


エドガー「貴女のお力になりたいのです」


エドガーの言葉に破顔するセシル。


セシル「……はい!」


ネロ、エドガーの意図を理解し、げんなり顔になる。

耳を引っ張り、セシルには聞こえないように顔を寄せる。


ネロ「お前な」

エドガー「帰していいの?」

エドガー「あの蠍パンダがお約束通りのケダモノなら、この後、彼女に害が及ぶ」

エドガー「脅しか圧力が直接かかるはずだよ」


渋い顔をするネロ。


エドガー「あれくらいの立場にいる人間なら、普通は世間体を気にする。恋人がいなくなってもなお懸命に頑張る健気な彼氏像を演出して、同情を誘う。なのに、警察に届けを出さなかったということは――」

ネロ「警察とは関わりを持ちたくない、もしくは警察に関わられては困ることをしてる可能性が高い」

エドガー「ご明察。だからこれは、彼女を守るためでもある」

エドガー「ま、半分は手間を省くためおとりそうさだけど」

ネロ「ったく……きっちり守れよ!」

エドガー「誰にもの言ってるの?」

セシル「あの……」


ネロをどつき、距離を作るエドガー。


エドガー「いえ、なんでも。さあ、行きましょうか」

セシル「はい!」


笑顔でエドガーにくっついていくセシル。

やや呆れつつも、二人を守るようにして後ろから歩き出すネロ。


//時間経過

■ハウ・シティ市街・夕方


Dのリストにチェックを入れるエドガー。


ネロ「成果ナシ、か」

ネロ(Sの廃人化事件に明確に関わってるようなD、それに関する証拠はここまででは見つかってない)

ネロ(リストの残りにいるのか、それとも――)


ふと見ると、セシルが落ち込んでいる。


ネロ「……リストには、Dがまだ半分残ってる。諦めるには早いだろ」


ネロの言葉にはっとし、微笑むセシル。

緩んだ表情にネロもまた微笑み、ふと視線を動かすと――


エドガー「もう半分だ」


苛立つエドガー。


エドガー「どれだけ時間が経ってると思ってる。そろそろ動きがあっていい頃合いだ」

ネロ「向こうも忙しいんだろ。こういうのは、就業時間外の残業扱い――」


ゆらり、と近づく複数の人影。気づく、ネロとエドガー。


ネロ「に、なるんじゃねーか?」

セシル「えっ?」


驚くセシル。彼女をかばうようにしてエドガーとネロが立つと、黒服の一人が前に出る。


黒服「セシル=ボルドーだな?」

セシル「……っ」

黒服「これ以上、姉の行方を追及するのは――」


黒服の言葉を遮るようにカッ飛んでくるエドガー。

蹴りが横っ面に入り、吹き飛ぶ黒服。


エドガー「遅い!!」

エドガー「どれだけ人を待たせたら気が済む! 僕に無駄足を踏ませるな!」


黒服にしゃべる暇を与えず蹴りまくるエドガーに、ぽかんとするセシル。


ネロ「悪ぃ。アイツ、足癖最悪なんだ」

黒服「貴様……っ、邪魔するな――あぐ!」


吹き飛ばされる黒服。乱戦になるネロとエドガー。

思わず身を引くセシルの背後に近づく影……

振り被されるナイフを、寸でのところで防ぐネロ。


セシル「あなたは……!」


そこにいたのはガジェットの男性秘書。

ネロは秘書の腕をひねって制圧するが、秘書は暴れて抵抗する。


エドガー「やっとご出勤か」


黒服たちを片付けて、ネロたちの傍にやってくるエドガー。

秘書はなおも暴れてセシルに襲いかかろうとする。


秘書「離せ! 俺は、この女を、社長の、社長のために処理しなければ――」


ショックを受けるセシル。


エドガー「お約束通りの悪党で何よりです」

ネロ「独断か、命令か。どっちにしろ失敗だな」

ネロ「アンタは、アンタの大事なご主人様の弱みになっちまった」


秘書の首元を剥ぐネロ。そこには首輪が光る。


ネロ「もう諦めろ」


うなだれる秘書を見下ろし、セシルは悲しげで苦しげな表情をする。


セシル「……あの人が、こんなことをするなんて」

セシル「やっぱり、社長はお姉ちゃんの失踪に関わって……?」

ネロ「だろうな」

ネロ「コイツは、アンタが招き寄せた生きた手がかりだ。礼を言うぜ」

セシル「……もしかして。お二人が私を誘ってくれたのは、この人をおびき出すため……?」


あ、という顔をするネロ。バカ、と蹴るエドガー。

セシルは苦笑をすると首を横に振る。


セシル「気にしません。これくらい、姉さんを見つけるためならへっちゃらです!」


顔を見合わせるネロとエドガー。セシルの強さを知って笑う。


ネロ「さてと。これでお題目は手に入った」


歩き出すとネロとエドガー。


ネロ「ここからは、オレたちに任せとけ。きっちりと――」

エドガー「落とし前つけてそうさして差し上げます」


<第2話終了>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る