第4話

<第1話>


■子悪党のオフィス


M(モノローグ):――この世には、絶対に抗えない本能ルールがある。


悪党「く、そ、貴様ら……こんな真似をして、どうなってもしらんぞ!」

エドガー「何が、どうなるというのです?」

エドガー「敗北を喫し、這いつくばって床を舐めることしかできない貴方達バカの報復なんて、笑い話にもなりません」


M:これは――


ネロを椅子にしているエドガーと、ボロボロのオフィス&殴られた悪党たちの全景が映る


エドガー「負け犬の遠吠えは、みっともないですよ」

ネロ「エドガー!降りろーーーーーー!!」


M:その本能ルールに抗う物語


■ハウ・シティ警察――特務調整機関「collar」オフィス


机に肘をつき、睨むアイリーン。


アイリーン「やりすぎだ」


アイリーンの前にはネロとエドガー。エドガーは無傷だが、ネロはぼろぼろ気味。


アイリーン「調査のために多少手荒な真似はしてもいいと伝えてあるが、こうも毎回毎回だと限度が過ぎる」


アイリーンのデスクには山積みになった報告書。


ネロ「オレは普通に捜査しようとシテマシタ」

ネロ「そしたら、コイツがいきなり扉ぶち破りだして」

エドガー「成金趣味を見るとつい虫唾が走るんです」

アイリーン「ともかく」


調査用リストにラインを入れて突き返すアイリーン。


アイリーン「『Sサブ』の廃人化事件は現在も未解決だ。昨日も新たな被害者が発見されている」

アイリーン「どこかに、関わっている『Dドム』がいるはずだ。このまま見過ごすことはできない。引き続き、上級レベルの『D』を中心に捜査に当たってくれ」


リストを受け取るネロ。


ネロM:……この世にはもう1つの『性』がある。


ネロM:D『dominant』(主人)とS『submissive』(従者)


ネロM:SはDに尽くし、仕えることに生きる喜びを感じ、DはそんなSを得て慈しむことを生きがいとする


ネロM:生まれ持つ者もいれば、ある日突然発現することもある2つ目の性と

その関係性から生まれる、人ならざる能力<威圧グレア>と<境界スペース>に

このハウ・シティのみならず、世界は何度も混乱に陥ってきた。


ネロM:そんな持たざる者と持つ者の調和を図るために生まれたのが――警察省特務調整機関・『collar』カラー


ネロM:世の秩序ルールを保ち、本能ルールを悪用して跋扈する悪党を戒める『首輪』の役割を果たす者――


■ハウ・シティ警察・玄関


ネロ「……Sの廃人化、か。妙な事件が続いてるもんだな」

エドガー「Dのよっぽどの扱いに耐え兼ねたか、Sを廃人化させる類の威圧グレアの持ち主か」

エドガー「Dが複数のSを持っているだけで精神を病むSもいるけど……」

ネロ「だとしたら、あまりにも数が多すぎるだろ。ここ二、三か月で何人出てると思ってる」

ネロ「そもそもSを使い捨てて、D側になんの得があんだよ」

ネロ「Sがいなけりゃ、Dは力を保てない」


ネロをじ、と見るエドガー。


ネロ「なんにしろ、気色悪ぃ話だな」

ネロ「とりあえずこのリストに載ってる上級レベルのD、全員殴りに行くか」

エドガー「うわ、野蛮」

ネロ「お前にだけは言われたくねえよ!」


オフィスの出口に差し掛かった二人。そこには署員に必死に話しかけているセシルがいる。


セシル「どうかお願いします! 話を聞いてください! 姉を探してるんです!」


けんもほろろに扱われるセシル。

落ちこむ様子を見せるが、すぐに気を取り直し、顔を上げて――ネロとエドガーに気づく。


エドガー「回れ右」

ネロ「やめろ」


エドガーを小突くネロ。

エドガーは知らんぺ、と言った顔で横を向く。

セシルが駆け寄ってくる。


セシル「警察の方ですか! あの、私、セシル=ボルドーと言います。姉を探してるんですが」


エドガー、ネロの手からリストを奪ってそろそろとフェードアウト。

手作りのチラシを手渡され、どうすっかなあという顔をするネロ。


ネロ「あー……その、悪い。人探しなら、まず書類……」

セシル「もう捜索願の申請は出しています。受理もされましたが、音沙汰がなくて。警察は全然動いてくれないんです! 姉がいなくなって、もう三か月経つのに」


ネロ、握らされたチラシに目線を落とす。

紙面には人を探している旨の記載や姉の特徴、連絡先などが記載されている。


セシル「……姉の、ミリーです」

セシル「幼い頃に両親が自動車事故で死んで、それからずっと母親の代わりに私を育ててくれました」

セシル「自分のことはなんでも二の次にしてしまうくらい……すごく優しい人で」

エドガー「貴女、見たところ大学生のようですけど、成人はしてらっしゃいますよね」


エドガーの言葉に、びくっとするセシル。

エドガーはリストから目を離さない。冷たい横顔。


エドガー「であれば、養育の責務は果たしたと言えるでしょう。自分の人生を生きるために貴女から離れたくなった、という可能性もあるんじゃないですか」

エドガー「家族がいつまでも、自分を愛してくれるとは限らない」

エドガー「家族幻想おうちがいちばんなんて考えは早いうちに捨てた方が身のためですよ」

ネロ「おい……!」


肩を落とすセシル。


セシル「……わかってます。姉の夢、やりたいこと。私が、いくつも諦めさせたって」

エドガー「賢明なことで」


エドガーに、『おい』と咎める顔をするネロ。


セシル「だから、自分のために私から離れていったのなら……私も追いかけたりはしません。ですが」

セシル「姉は……後天性のS、でした」


Sの単語に、表情を変えるネロとエドガー。


セシル「お付き合いしていたらしいDの人と会うために家を出たきり、連絡が取れなくなって」

セシル「おかしいじゃないですか! 前日まで、明日のデートが楽しみだって話してたのに、次の日から急に姿を消して、連絡も取れなくなるなんて!」

セシル「だから……きっと、何かあったんだって警察に連絡をして。それから……」

セシル「その、彼氏さんのことは、軽く話を聞いていたので……勤めてる会社にも連絡をしたました。でも、知らないの一点張りなんです。そのあと、何回連絡しても会ってもらえないどころか……」

ネロ「連絡すら、取れなくなった?」

セシル「……はい。取次すらしてもらえなくなりました」

セシル「もう……どうしていいか、わからなくて。頼れるのは警察しかないのに……」


涙を浮かべながらうつむくセシルに、『もうこれは足を突っ込んでしまったな』顔をするネロ。エドガーは相変わらずリストを見ている。


エドガー「僕は手伝わないよ」

ネロ「何も言ってねーだろ」

ネロ「あー……一応、聞くけど。その、Dの名前とかわかるか?」

セシル「……アンタレス」


エドガーの目が、リストの上で見開かれる。


セシル「ガジェット・アンタレス……」


エドガー「さあ、ネロ君。お仕事の時間だよ。馬車馬しゃちくの如く、キリキリ歩きたまえ」

ネロ「どわ!?」


エドガー、ネロの首根っこを掴み、引っ張る。

首が締まりかかり、ぐえ、とうめき声を上げるネロ。よろけながらもついていく。


ネロ「急になんで――」


ネロの顔面にリストをぶつけるエドガー。ネロはリストを見て、顔色を変える。


ネロ「おい、これ……!」


ネロの言葉には答えず、エドガーはセシルに視線を向ける。


エドガー「お嬢さん。少し、ご同行願えますか?」


にっこり美しく微笑むエドガーに、げっそりするネロ。

セシルは事情がわからず、泣きそうながらもきょとんとした顔でふたりを見る。

リストに載る、<ガジェット・アンタレス>の名前。


<第1話終了>

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