第6話
<第3話>
■英端市街
有吾(……これが、言葉の力。なんてすごい)
宙を駆けて逃げながら、腕の中のエデを見る勇吾。
有吾(そんな力があるように見えないのに。こんなに軽くて小さい、ただの女の子なのに……)
思わず有吾はエデを抱き締める腕に力を込める。
眼下に広がる街の様子は一変し、大騒ぎとなっていた。
空をいっぱいに埋め尽くす逆さの城、エデン・マグナロゴスの威容に息を呑む。
有吾(奏多の、おとぎ話。あながちハズレでもなかったんだな)
有吾(……あいつはちゃんと、家に帰れたのか。無事なのか――)
■英端市街・裏路地
奏多「はぁ、はぁ……っ! なんでっ、こんなことに……!」
空から降り立った騎士の姿に、周囲は大混乱に陥っている。
彼らに斬りつけられた人は光になり、空へ、墜ちてくるエデン・マグナロゴスに吸い込まれていっている。
騎士7「エデンに祝福あれ。新たなる民を、その御胸に」
騎士8「我らの使命は
騎士9「鏡は今、毀れた。世界は再生のときである」
奏多(何言ってるんだ、あの人たち! とにかく、逃げないと……!)
必死に騎士から逃げようとする奏多。だが、足がもつれて倒れてしまう。
ぶちまけられる壊れた望遠鏡の残骸。その物音で、騎士たちが奏多に気づく。
騎士7「エデンに祝福あれ。貴公に祝福あれ。貴公らは選ばれし者である」
奏多「は……はあ? なに言ってるんだよ! あんな、人殺しみたいな真似して!」
騎士8「我々の行為は救済である」
奏多「やめ、近づくな、近づかないで、来るな、来ないで!」
立とうとするが、足が震えて立てない。
奏多「――痛ッ!」
後ずさりした途端、鋭い痛みを覚える奏多。
割れた望遠鏡の破片で、指を切っていた。
よく見れば逃げ道を塞ぐように破片が散らばっている。
奏多「は、はは……」
奏多(これじゃ、逃げられない)
騎士9「世界は再生の時である。そなたという世界もまた再生の時を迎えるのだ」
奏多「あ……」
振り上げられる剣。
奏多(助けて、ゆう……)
有吾『やめろよ、そういうの』
フラッシュバックする有吾の言葉と顔。
奏多(誰も、助けてくれない)
奏多(そうか。僕なんて、もう)
奏多「……要らないんだ」
奏多に向かって、振り下ろされる剣。
ネヴァー「待て」
騎士たちの合間を割ってやってくるのはエデに騎士をけしかけていた黒衣の男。
ネヴァー「その深い絶望の色。貴様も、大事な者に見捨てられたのか」
奏多「……誰?」
ネヴァー「ネヴァー。私は、絶望に寄り添う者。苦しみに寄り添う者。そして、世界を塗り替える者である」
ネヴァー「この世界が貴様を捨てるのならば、私が貴様を拾おう。その深き絶望は――」
奏多「あ……!」
差し出されるネヴァーの手。それに合わせ、奏多の傷口から血が溢れ出し、奏多を包む。
ネヴァー「新たな世界に響く産声となるだろう」
奏多「あ、あ、ああ……!」
ネヴァー「貴様の命、私が有効に利用してやる。その見返りに……貴様は、貴様の本当の望みを得るのだ。思いのままに力を振るい、貴様を捨てた世界を――」
ネヴァー「壊せ」
奏多(こわ、す……?)
奏多(こわす……ぼくをきらう、ぜんぶを)
奏多(ぼくは、ほんとうは、なにをしたかったの?)
奏多(ぼくは――)
新たに生まれたエデンの騎士に、ネヴァーは静かに笑う。
■英端市街
有吾「ここまでくれば、ひとまずは大丈夫か」
エデを抱いたまま、『飛んで』きた有吾。
有吾(って言っても、気は抜けない……あの城に近づいたせいか、さっきより騎士の数も増えてる)
エデ(有吾、もう下ろしてくれて大丈夫。ありがとう)
有吾「あ、悪い」
と、何気なく言って口を押える有吾。
有吾(今の俺が口にした言葉、全部現実になるんだよな?)
エデ(そこまで過敏にならなくても大丈夫。意思のこもった言葉でなく、普通の日常会話程度なら問題ないわ)
有吾「あまり……ね。ならいいけど。だったら、エデも」
エデ(……わたしは、そうもいかないから。ただ返事をしただけでも、滲んだ意思が影響を及ぼすこともある)
有吾「それだけ、言葉の力が強いってことか」
頷くエデ。
有吾「だとしたら、大変だな。普通にしゃべれないだろ。せっかく綺麗な声してるのに」
エデ(……そんなこと、初めて言われた)
微笑むエデ。
その微笑にくすぐったいものを覚えて有吾は視線を逸らす。
エデ(小さい頃からだったから、慣れた。むしろ、周囲が大変だったと思う。まだロクに意思表示のできない赤ん坊の頃から力が発動して、泣くたびに大騒ぎだったって聞かされたこともあるし)
有吾「なるほど。すごいな……って、褒めていいのか、これ」
エデ(……気を遣ってくれてありがとう)
エデ(でもね、わたしは、わたしに分不相応な力を持っていることを誰よりも分かっている。その事実にも慣れているから、大丈夫)
有吾「……」
エデ(でも、時々思うの。もし、この力がなければ、わたしは……)
会話を遮るように近づいてくる物々しい足音。
新生騎士1「見つけたぞ、
新生騎士2「お前を捕縛する。ネヴァー様の元に連れていく」
有吾(ネヴァー? そいつが、こいつらの首謀者……)
有吾「って、考えてる場合じゃないな。『逃げるぞ』、エデ!飛ぶ――」
エデ(危ない有吾!)
有吾「っ!」
空へ飛ぼうとした瞬間、その方角から飛んでくる騎士たち。
有吾は慌てて避ける。
続々と集まってくる騎士たち。数が先程より明らかに増殖している。
有吾「な……エデ! あの城には、こんなに騎士がたくさんいるのか!」
エデ(違う――彼らは、エデン生まれの住人じゃない。反転し、鏡面世界に浸食されたこちら側の世界の人たち!)
有吾「なんだって?」
エデ(おそらく、エデンの騎士たちの剣には呪がかけられている。世界をひとつにするために、こちらの世界の住人を取り込むために)
有吾「ってことは、まるごと俺たち以外が、世界が敵になるってわけか! はは、本当に夢みたいな話だな……これじゃ映画か漫画だ」
有吾「早く手を打たないとまずいだろ、エデ!」
エデ(ええ。取り返しが、つかなくなっていく。この街だけでなく、浸食がもっと広がって次元ごと飲まれてしまったら――)
有吾「考えたくもない! とにかく、ここを突破するぞ」
有吾「俺は帰宅部だし、運動なんて授業以外、ロクにしたこともないけど――」
息を吐き、有吾はエデを見る。
有吾「エデ、絶対に俺の傍を離れるなよ」
エデ、有吾の言葉の強さに心が震える。
それには気づかず、騎士に向き直る有吾。
有吾「やるしかないなら、やってやる。 ……エデの敵を打ち払う力を俺にくれ!」
その言葉を合図に、有吾の手に剣が生まれる。それを敵対行為とみなしたのか、襲いかかってくる騎士。エデを背中にかばいながら、有吾は彼らを薙ぎ払う。
有吾(やったか……!)
新生騎士3「かかれ! かかれ!」
有吾(って、そう簡単にいくわけないか!)
倒したと思った騎士はすかさず体勢を立て直し、有吾に襲いかかってくる。
それをなんとかいなしながら、包囲網を突破する有吾。
有吾「道を開いてくれ!」
有吾の言葉と共に宙にかかる階段。
それを駆けあがっていく有吾とエデ。追いかけてくる騎士団。
反対方向からも橋が架かり、有吾たちに肉薄する。
有吾「そう簡単に見逃してくれるわけがない、か!」
剣戟を繰り返し、今度は地面へ飛ぶ有吾。そこにも騎士団が待ち構える。
有吾「『退け』ぇぇぇぇぇぇぇっ!」
騎士10「我らは退かず、かの敵を迎え撃つ!」
騎士11「迎え撃つ!」
騎士12「
有吾(王? さっきこいつらが言ってた、ネヴァーってヤツのことか?)
エデ(……っ)
有吾「そいつが、どんなヤツか知らねえけど……たったひとりに何もかも押し付けるように処刑して、見殺しにするようなヤツが……皆を救えると思うのか!」
???「それを、君が言うんだ」
聞こえてきた声に、有吾の表情が凍る。ゆっくりと振り返ると――
奏多「僕を、見捨てた君が」
そこには虚ろな眼差しに黒い鎧をまとった奏多がいた。
有吾「奏多?」
<第3話終了>
君の言葉が世界を救う あかつき希 @yoi_no_hosi888
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