第11話 □ 仮想世界(データワールド)のパン屋玄芳工房
□ 仮想世界(データワールド)のパン屋玄芳工房
その様子を店の壁によりかかり、横見をして監視する少女。
神夜は、言葉を失い、店を後にしようと、扉を出ようとした時だった。
「温かいクロワッサン! できたてですよ! どうぞ試食もありますので、食べてみてください!」
玄芳父が喋った。
「暁斗のお父さん! 俺です! 神夜ですよ! お久しぶりです!」
玄芳父の目線は神夜に向けられたものではなかった。
扉から入ってきたお客に言葉を投げかけたようだった。
勿論そのお客さんも魂が抜けているような表情で、頬に笑みを浮かべながら、クロワッサンと食パンをトレーに乗せてレジに移動してきた。
「うちの子が毎朝クロワッサンしか食べなくなっちゃってね! やっぱり、ここのパンが1番美味しいわ!」
世間話をしながら、神夜をスルーするお客さんに、それに対応する玄芳の父親。
「いつも、お買い上げいただきありがとうございます! 今回新商品を作ってみましたので、お試しに1つ差し上げます! 後で感想を聞かせてもらえたら嬉しいです!」
「本当ですか! ありがとうございます! また来ますね!」
―――なんでだよ……―――。
神夜は玄芳の父親をにらみつける。
「なんで無視するんだよ!」
そう言うと、玄芳父の胸倉を掴むと、力を込めて壁に叩き付ける。
「またのご来店お待ちしておりますね! ありがとうございました!」
「そうじゃなくて……。暁斗はどうしたんですか⁉」
「ありがとうございました!」
「だから……。暁斗と連絡がとれないんですよ‼ 一体どうしたんですか‼」
「またのご来店……」
「こんなときに、何ふざけてるんですか‼ 外の様子も変なんですよ‼」
「・・・」
神夜の言葉にだけは、返答がない。
「なんなんだよこれ……。何がどうなってんだよ……」
神夜は、あまりにも、返答しない玄芳夫婦に不気味さと、感情が感じられない表現力に恐怖すら感じた。
そう、目の前にいる玄芳夫婦はどう考えても暁斗の両親であり、人間のはずだ。
―――人間・・・―――。
―――人間だよなぁ……―――。
―――人間じゃなかったら一体何だんだよ……―――。
神夜はあまりの怖さに顔真っ青になる。
ここにいる何者かは神夜が知っている人間ではないのだろう。
わかっているが、真実を突きつけられたような衝撃が神夜の脳を貫く。
玄芳父は胸倉を掴まれ壁に叩きつけられているにも関わらず、満面の笑みを浮かべてお客さんの対応をしていた。
なにかに気づいた少女は、屋根の上に登り姿を隠した。
《ビ―――! ビ―――! ビ―――!》
《危険な行動を確認。この時点で、現在の危険値が高い個体データをウイルスと認定しました
直ちに行動を停止するか、周囲の警察官達で排除する必要があります。繰り返します……》
「なんだ⁉」
すると、先程まで柔らかい笑顔を浮かべていた玄芳父の魅が赤く光り、神夜の存在を認識したように神夜をにらみつける。
《ウイルスを感知しました。周辺の個体データは速やかにウイルス個体の排除をお願いします》
すると、白バイクが飛び込んできた。
店内の棚や商品であるパンを撒き散らし、突っ込んできた白バイクの男。
白バイといえば、治安を守る警察官だが、パン屋のガラスを突き破ってくる警察官は、もはやヤクザの荒行にしか見えない。
逃げようとする神夜だが……。動けない。
それもそのはずだ、先程胸倉をつかんでいた玄芳父をバイクの衝撃で話してしまっていた時に、逆に胸倉を掴まれていた。
必死で解く神夜。
意外にも握力が弱いのか簡単に解けた。
そのまま解いた勢いを利用して玄芳父を跳ね飛ばした神夜。
命が助かると一瞬ホッとして、逃げようと走ろうとした時だった。
またもや、動けない。
足が動かないのだ。
恐る恐る足を見てみると、玄芳母が玄芳父と同じく目を真っ赤に光らせて神夜の足にしがみついていたのだった。
《ウイルスを感知しました。周辺の個体データは速やかにウイルス個体の排除をお願いします》
白バイクの突進で店内がめちゃくちゃになった影響で怪我をしているのであろう。
片目はガラスが突き刺さっており、片足は、パンの棚に挟まれて身動きが取れない状態で神夜の足を掴んでいた。
つまり、動けないのだ。
神夜は焦っていたこともあり、ものすごい勢いで蹴っ飛ばそうとしたが、なかなかはなれない。
力はそんなになかったが、焦っていたことなどの状況が相俟って、周りの飛び散ったガラスやパンの影響で、とっさの判断力が低下していたのだ。
バイクのエンジン音が吹き荒れる中。
屋根の天井外から、少女がパン屋の中に入ってきた。
少女は、天井の横に伸びる建物内の木の柱を活用して、鉄棒のようにぶら下がり、そのまま、遠心力を利用して、神夜の足元の玄芳母の顔面を蹴り飛ばし、白バイクと神夜の前に着地する。
「外にも警察官が迫ってきてるわ」
「まじかよ……」
「一体一体は大した事無い力だけど……少し量が多いわね」
「少し力を使いすぎるのは良くないけど……アク行くわよ!」
「承知した主よ」
「あれがないから、慎重に戦うわよ! アク!」
そう言うと少女は、鞘から刀を引き抜く。
バイクに乗っている警察官の体ごとバイクを斜め切りに切り裂いた。
《敷くテムに異常な……破壊部位を検知しました……直ちに……ビビビー》
「ドカーン!」
バイクの爆発音とともに少女と神夜は、パン屋の外に吹き飛ばされた。
「いって……」
神夜が吹き飛ばされていた影響で、服がボロボロになっていたが、さほど、怪我はしていなかった。
外を見渡すと先ほどの通報で、複数の警察官が集まってきていた。
外にいた警察官は警棒を持った警察官。
「イジョウナニンゲンケンシュツ……ウイルストダンテイ……ハイジョ……ハイジョ……」
神夜はその光景を目の当たりにすると思わず声が漏れた。
「…は?」
次の瞬間一人の警察官が襲いかかりに来た。
その警察官は神夜のすぐ近くまで走ってきて、神夜の頭にめがけて警棒を振り下す。
「私のこと忘れてない?」
気づいた時には、少女の回し蹴りが、警察官の顔を粉砕。
《GAME OVER》
膝蹴りして着地しようとしたとき、既に二人の警察官が上空で警棒を振り、かざし少女に襲い掛かる。
少女は着地した後深くしゃがみ、数秒動かない。
警棒でたたかれたと思ったが、そうではない。
実は少女の刀の鞘と刀に警察官が突き刺さっていたのだ。
それぞれの着地地点に垂直に置くことにより、落下の勢いを利用して体に突き刺指すと言った荒業を見せた。
警察官は鞘と刀のそれぞれに1人ずつ突き刺さっており、動きが取れない状態になっていたのだ。
そのおかげもあって、警棒の先が少女に触れることはなく、力尽きた2人の警察官は、警棒を落とした。
その身動きが取れない警察官の刺さった鞘と、刀を同時に振り上げ周囲の警察官に鞘ごとぶん投げる。
放り投げた警察官を盾にして、発砲してくる銃弾のカバーにした。
最後に銃弾を発砲している場所にたどり着き、鞘を引き抜き回転切り。
警察官の半数が青白い粒子となって消滅していく。
その少女の1つ1つの動作が洗練されて、動きに無駄がない。
神夜に再び警察官が警棒を振り下ろした。
「今度は何なんだ! 俺が何をしたんだ!」
少女が持っている鞘を放り投げ、警察官の持っていた警棒を叩き落とした。
狙い通り、警棒が吹っ飛んだすきに、少女は警察官のふところにスライドして入る。
しゃがみから上方向に回転蹴りを繰り出した。
警察官を、空中に飛ばすと、着地する前にサッカーボールのようにけり飛ばした。
もちろんゴールは無傷の警察官の塊周辺。
蹴り飛ばした警察官に身を隠しながら、素を低くして銃弾の縦として身代わりに使う。
違う角度から、飛んできた銃弾に気づき、その銃弾を1発かわす。
交わした後に、2発目の銃弾が飛んでくる。
その2発目の銃弾をスライディング&体を捻り回転してかわす。
その方向に少女の刀があった。
その刀を引き抜いた瞬間、目の前に3発目の銃弾が飛んでくるが、体を柔軟に使い、回避する。さらに、4発目の銃弾からは、刀で弾き返し、そのまま銃弾で敵を倒す。
少女の背後には、2つの黒い影が現れる。
赤い4つの光が、背後から飛びかかってきた。
玄芳父と玄芳母が飛びかかって着ていたのだ。
少女は冷い言葉を発して刀を一振りする。
「まだいたの……」
玄芳父と玄芳母の頭が中に舞って青白い粒子を切り口から放出し、徐々に消えていった。
少女の背後で消えていく光は、先程の争いの悲惨さとは対比し、綺麗な、粒子がキラキラと光り、少女の背後を照らしていた。
その間に、外にいた複数の警察官たちをバッタバッタと軽々倒していく少女。
「つ……強い……」
呆然とその戦いを眺めていることしかできなかった。
だが、警察官は少女が倒すスピードよりも、増えるスピードの方が遥かに上で敵が減らず、増えていく一方。
これはもう手がつけられなくなってしまう状態と言えるだろう。
警察官を倒すと、警戒態勢が引き上がり、更に、警察官を呼ぶスタイルのようだ。
少女が警察官に囲まれて見えなくなるくらいに警察官が集まってきた。
「君! 逃げなさい!」
「でも君が⁉」
「君がいると、私の攻撃が出せないのよ! 貴方ごときることになるから、この場にいなければ全範囲攻撃で一層出来るわ!」
「わかった!」
神夜はその場を離れるため、走っていった。
運動神経は意外とよかった神夜は、無心になって走る。
走る。
走る。
ひたすら走る。
その時だった、ふと神夜は、思ったのだ。
「なぜ……俺は……逃げてるんだ……」
何も悪いことなんかしていないのだ。
ふと目の前を不意に見ると、クラスメイトである、新城作(しんじょうさく)が神夜の目の前に、立ちふさがる。
目が赤い。
「新城なのか⁉ でも……」
そう、目が赤いのだ……。
この世界には、見覚えがある人たちがいるが、その人であってその人ではない。
つまり、別人……いや……ただのデータだ。
どこかのデータに保存されているということになるが、目の前の新城作は、昨日見たままの姿をしていた。
そう、眼鏡が割れているのだ、これは、偶然なのかもしれない。だが、眼鏡のガラスのひび割れ具合が、現実世界の「新城作」と重なるのだ。
◇◇◇
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