邪神くんは追い求める
月姫ステラ
第1話 天才美少女カレンちゃん
むかしむかし、それはもう昔だ。地球に『邪種』と呼ばれる者が降り注いだ。それらは地表に到達すると、突如として変化を始めた。奴らは肉体を持たず、半透明な存在として地球を彷徨っていた。
それから少し時が経ち、奴らは生き物に寄生し始めたのだ。そこから生き物を乗っ取って、己の秘めたる能力を行使し始めた。
とある日、恐竜と呼ばれた存在に受肉した奴らは肉体を得た。言語による会話手段を持たない奴らだったが、受肉し始めたことにより、波による会話を始めた。それからは上下関係のようなものが形成される。弱肉強食であったこの世の摂理において、殺し合いは日常茶飯事であった。
そんな中、『邪』の中で明確な意志を持った存在が現れ始めたのだ。それが『邪神』だ。『邪神』と呼ばれた奴らは策謀を巡らし、各々の目的の元、散開し始めた。
それから、時が進み、時は2000年以上前、祓魔師と呼ばれる存在が現れ始めた。『邪』がこの地球に浸透した事で、生命に能力が宿り始めた。その能力を使い、『邪』を祓う者達が祓魔師であった。各地で猛威を振るう『邪』を滅するために活動していた彼らは、何度も壊滅の危機に瀕しながらも、勇敢に立ち向かい、現在まで生き延びてきた。今は『ハンター』と名称を変え、親しまれ始めてきた。『ハンター』を志す者も増え、それらを育てる養成校も増えていた。
そんな『ハンター』達の中に、配信で生計を立てる者達もいた。
氷宮花蓮(ひみやかれん)
彼女は若干15歳にして、一級ハンターとして名を馳せており、配信者としても人気を博していた。
ハンター事務所である『ポラリス』に所属している人気配信者であり、配信にはいつも多くの視聴者が見に来ていた。
そんな彼女は、今日も配信を始めた。
「みーんなー!!こんにちは〜!!カレンの配信へようこそ!」
“こんにちは〜!”
“こんにちは〜!”
“こんにちは〜!”
既にリスナーは5000人を超えており、その人気さが分かる。
「今日はとある洞窟に来ております!暗いところなので怖いな〜。」
‘‘今日はどんな邪だろなー’’
‘‘カレンちゃんならいけるでしょ!!’’
‘‘怖いところだけど大丈夫!’’
「みんなの応援ありがとう!この洞窟から気配が濃いらしくてね〜。ユズリハちゃんが調べてくれたんだけど、私の出番らしくてさ〜。」
‘‘さすが一級ハンター!助かります!’’
‘‘日本に30人しか居ない一級がこんなに可愛いだなんて…。’’
‘‘通報しました’’
‘‘通報しました’’
‘‘おい!まだ何も言ってないんだが!’’
‘‘年齢がねぇ〜’’
「早速洞窟に入ろうと思いまーす!」
カレンは洞窟へと入っていく。
中は非常に暗く、歩き辛い。軽い光を放ち、周りを明るく照らす。程々に広く天井までの高さが5mはあるようだ。中は天井から雫が滴り落ち、ポチャンという音がよく響いた。
既に邪の気配が濃いのか、いつでも動けるように杖を取り出す。それでも、一級という肩書きもあるからか、緊張の様子は見られない。
時々、下級や中級の邪が現れるが器用に杖を操り、祓っていく。既に配信を始めて1時間が経過している。
‘‘本当に強いよなぁ…。杖の一振で下級が消えるんだもんな…’’
‘‘いつ見ても安心できる’’
‘‘最近思ったけど邪が多くない?’’
「確かに多いよねぇ。最近だけで上級が三体を現れたみたいだし、全部荒牧さんが祓っちゃったみたいだけどさ〜。尊敬しちゃうなぁ〜。私もあんな感じに戦えたらいいのに〜。」
‘‘今でも十分化け物クラスw’’
‘‘一級ってやばいわ’’
‘‘5年前の邪神ウェヌス討伐から異様に増え出したよね…。心配だわ。’’
「その時は私もまだハンターじゃなかったから知らないけどハンターにも沢山犠牲者が出たって聞いて、やばいよね…。」
と、そんな話をしていた時、奥から強めの気配がした。
「きた。」
奥からドシン…ドシン…と鳴り響く。
影が見え、姿が顕になっていく。
「え、あれって…。」
カレンの表情が強ばっていく。
‘‘え…。あれって…。’’
‘‘上…級?’’
「違う…あれは最上級…。」
そこに現れたのは3mの巨体の石人でありその右手には棍棒がにぎりしめられていた。
‘‘まずいって!これは逃げよう!’’
‘‘応援一択!緊急要請出さなきゃ!’’
‘‘俺一級だから向かうわ!場所どこ!’’
リスナーの中に同じ一級が居たようで応援に向かおうとしていた。
場所を言わなきゃ…。
場所を言おうとしたその瞬間、目の前の石人が消えた…。
「え…?」
カレンは突然足元がぐらついた。
足元を見ると、左足の膝から下が無くなっていた。
遠くを見ると、吹き飛ばされた左足が遠くに落ちている。
石人は後ろに立っており、その顔はとてもニヤついている。
意識がはっきりしとしたその瞬間、体に猛烈な激痛が走る。
足から血が止まらず、口からも血が出る。
視聴者も、一瞬の出来事に絶句する。
配信に映ったカレンの左足を見たのか、絶叫のコメントが流れる。
(ダメだ…私死んじゃう…。誰か…助けて…)
「おや、困り事と見た。」
薄れる意識の中、前を見る。
黒いマントを羽織り、鬼の仮面をつけた人が立っていた。仮面の目の部分からは紫色の目がこちらを覗いていた。
‘‘誰…?’’
‘‘誰でもいいからカレンちゃんを助けて!’’
「ふむ、石人に足をちぎられたのか。最上級といえど所詮は言葉を介する事のできぬ雑魚に過ぎん。そこのお嬢さん。助けて欲しいのなら瞬きを2回しろ。」
助かりたい一心で、瞬きを2回した。痛みにこらえながら、何とか止血の魔法を使う。足からは血が止まったが。依然として意識を保つのが精一杯である。
「では滅しよう。ηΟΝбгЭРПОАС」
謎の言語ののちに石人は上半身が爆散する。
「あぁ、ついでに…。ЁЙРЭЯ」
すると、先程までちぎれていたカレンの左足がカレンの所に吸い込まれるように近づいていき、最初からちぎれていないかと感じるほどにまで綺麗に元に戻った。しかし、吐いた血は元には戻らないのか。その場に座り込むカレン。呼吸を整え、その仮面の男に言った。
「ありがとうございます…。危ない所でした…。まさか最上級に出会うとは…。」
「この程度、お礼を言われるまでもない。」
「あなたのような最上級を一瞬で祓う存在は知らない。その紫色の瞳を持つハンターは見た事がない。あなたはいったい…。」
少しの沈黙の後、男は答えた。
「今のあなたには情報過多だ。私の事は後に取っておくとしよう。あー、そうだ。一つだけ警告しておこう。」
男は私に指を差し、警告する。
「最近、モイストと呼ばれる新参者の邪神が現れたらしい。石人を作り出す能力があるようだ。心して気をつけるように。」
その言葉を残して、マントをバサッと広げると、男の顔が隠れる。マントが下に落ちていくと、男の姿は跡形もなく消えていた。
「さすがに私も疲れた…情報量多すぎ…。」
‘‘ゆっくり休んで!’’
‘‘まずは休養!’’
‘‘この配信を色んなところに拡散したから!’’
「ではお疲れ様でした。」
配信を終了したカレンは入口に向かう。到着すると事務所の所長である間宮さんとユズリハちゃん、それに救急車が来ていた。
「後で話を聞くからまずは休養してね。」
「はい…。」
「先輩…大丈夫ですか…?」
「さすがに疲れたよ…。」
カレンは救急車に運ばれたのだった。
その夜、一級ハンターが救急搬送されるニュースが速報として流れた。
それと謎の男に関するニュースもだ。憶測が飛び交う。邪神モイストと呼ばれる存在。そしてそれを知る男。
世間ではモイスト本人なのでは?という声や、闇組織の実力者だという声まで。
現れた邪が最上級なだけにハンターの実力不足という指摘をする記者も居なかった。
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洞窟の奥深くに一人の男がいた。
「マントを捨ててしまったな。せっかくいい代物だったが…。まぁいい。モイストといったか。つまらないものを作ったものだ。たかだか石人では軽い殲滅にしか役に立たんだろうに。それにしてもあの少女、素晴らしい魔法の扱いだ。横に飛んでいた金属の塊は配信道具…と見るべきか?あの少女ならば私の理想を…。期待しておくとしよう。」
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