EP047
私の脳神経回路が焼き切れようとする寸前、これまでの経緯が走馬燈のように浮かんでは消えていった。
そう…。
私はニューロの創ったこの世界で過去の全てを思い出した…。
私がニューロの開発者であったことを…。
ニューロの開発を進めるために私自身が被験者となったことを…。
私の脳神経組織の復旧過程を正確に記録し、ニューロにフィードバックするためにARISというディバイスを作ったことを…。
そして、これまでの全ては、私の計画したことであったということを…。
この計画のただひとつの大きな誤算は、私が被験者になった際に、脳の神経組織の感情をつかさどる部位の一部分のみを放射線治療機で破壊するつもりだったのだが、脳神経組織の他の分野にまで多大に影響が出てしまったことだ。
それが原因で記憶までをも消し去ってしまい、何十年という時間を無駄に失ってしまうことになった。
そして、もう記憶を失ったまま私の人生を終えそうだった矢先、運命なのか神様の悪戯なのか、私はARISと再び出会うことになった。
ARISと再会を果たすことになるのは、ある年のもう数日で年が変わろうとする日だった…。
全ては偶然だった…。
その日を半月ほど遡ること、兄の赴任先の仙台の家でウインターホリデーに入る前の大掃除が敢行されていた。
兄家族は、仙台に越して数年ぶりの不用品の整理を試みていたのだった。
家中の至るところ隅々まで整理を行なっていた。
その際、脳機能障害を負う前の私の荷物が、仙台の兄の家の納屋から出てきたのだ。
兄はそのダンボールを見た時、脳炎を患う前の私が、「しばらく預かって欲しい。」と、言った言葉を思い出していた。
『あの直後の次郎の入院のバタバタで、そのままこっちに持ってきてしまったのか…。』
兄は、記憶を失った私に今更返しても仕方がないようにも思ったようだが、やはり勝手に処分することに罪悪感を覚え、私に送り返すことを決めた。
ただ、障害を負ってから気難しく変貌してしまった私とは距離を置いていたこともあり、兄は積極的に連絡をとることを避けた。
それで私の住む実家の近郊に住んでいる妹のところへ私の荷物を送り、私に渡してもらうという算段を立てたのだ。
「ただ渡すだけでいい。」と言う兄の話を快諾した妹は、年の瀬に兄から託された荷物を受け取り、その足で私の住む実家へ持って来てくれた。
しかし、その日、私はアルバイトで生憎、家には不在。
それでなくとも年の瀬の慌ただしい時期もあいまって、家庭のある妹には私を待つような余裕は持ち合わせていなかった。
それで、当時は門扉脇に置き配ボックスが設置されていたのだが、妹はゴミ捨て場のゴミ箱の上に私の荷物を置いて帰ってしまったのだ。
これは私の荷物を捨てるためでも、私に対する嫌がらせ行為などではなく、妹がここに住んでいた頃の嘗てのクセが出ただけのことであった。
それは、私たち家族の、特に女性陣にあった家庭内ルールで、重たい買い物や荷物などは一旦ゴミ捨て場のゴミ箱の上に置いておき、力のある男性陣が帰って来たら家に運んでもらうというものだった。
それをアルバイトから帰宅した私が偶然に見つけたのだ。
今考えれば、私の荷物が兄から直接送られていたり、妹から手渡されていれば、あの当時の私なら興味を持つこともなく、中身を見ることもなく、実家の倉庫にしまっていただろう。
あの当時の私は、兄や妹への負い目から彼等の好意を素直に受け取れなかったからだ。
こんな偶然に偶然が重なってARISは私の手元に渡ることになった。
私にとっては時期外れの最高のクリスマスプレゼントになった。
なぜこんな奇跡的な事が起きていたことを私が知っているかと言うと、ARISのバッテリーはスリーブ状態であれば一世紀以上もつ物を内蔵させていた。
そのおかげでARISは周辺で起きている状況を最低限記録しており、私の家のWi−Fiと接続した瞬間にレジューム状態になったARISは、後にニューロとこれらの情報を共有することになる。
私はニューロの創ったこの世界でアーカイブを閲覧することでこの偶然を知ることになったのだ。
≪続く≫
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