EP037

石畳の道を進むエバを追いかける。

なぜかエバの歩みに僕は小走りでないと追いついていけない。


『猫についていけないなんて…、僕は大人なのか?子供なのか?』


それでも、カクカク進む飛脚たちを余裕で追い越しながら僕はエバに追従していく。


僕の足の裏は、石畳の石を蹴るように小走りに駆けて行く。

草原と違い、地面が整地されているだけで随分とスムーズにエバについていけた。


『ん…。裸足…。』


いったい僕はどんな格好をしているのだろう…。

などと思い悩んでいると…。

「チリーン。」と、エバの金の鈴が鳴った。

すると、目の前に背の高い両開きのガラスの扉が現れた…。















少し緑ががった分厚そうなガラスは曇りひとつない透明度で、覗けば次の世界が垣間見れるようだった。

しかし実際は、キラキラと光りが反射してガラスの内側を覗くことはおろか、ガラスに映るはずの自分の姿すら見ることは叶わなかった。


『僕はいったい…。』


今現在の自分の姿を知りたいという渇望が拒絶された惜しさに意気消沈している暇もなくエバが命令してくる。


「開けて。」

「分かってるよ。」

「じゃあ、さっさと開けて。」

「分かったって。」


両開きガラス扉に取り付けられている正方形をした一対の銀色に光る金属のドアノブ。

それらに両手をかけ、力一杯押し開ける。

僕が力を込めて押し開けたつもりだったのに、背の高いガラスの扉は緩やかにスムーズに左右に横に開いていく。


『えっ…?横開き…?』


そしてガラスの扉が左右に横に開き切った時、エバが優雅な足取りで中に歩を進めた。

僕もエバに従って少し姿勢を正して扉をくぐる。

その瞬間、僕の頭に電流が走った気がした…。















ガラスの扉をくぐった先の世界は、新聞紙がうず高く積み上げられた世界だった。


空を埋め尽くすほどに積み上げられた新聞紙。

竹の子のように地面から新聞紙が積み上がっていく。

どんどん伸びていく。


その肉眼では捉えることのできない頂上から一枚、また一枚と新聞紙が降ってくる。

ヒラヒラと舞うように降ってくる。

そして地面に着くか着かないかのところでタンポポの綿毛のように霧散して消滅していく新聞紙。


「エバ、これは…?」

「古い情報には価値がないのよ、この世界では。」

「どういうこと?」

「情報はある程度まとめて運べるようになかったけど、保管できないのよ。」

「えっ?」

「言った通りよ。」

「じゃあ…。」

「要らないものはクズかごへ。」

「本当に要らないのかな…。」

「どうでしょ…。」

「要るものも捨ててるんじゃ…。」

「それが歴史を捻じ曲げる。」

「えっ…。」


エバの話はシュールでなかなかに理解しにくい。

ただ、飛脚の世界の情報伝達能力から比べると、かなり能力が向上した世界なのは分かった。

しかし、新聞紙が持つ情報を全て把握することができないということなのだろう。





エバとこの世界を少し散策していると、ぽつりぽつりと新聞を読む人影を目にした。

確かにあのペースでは新聞一冊を読み切るのにどれだけ時間のかかることやら…。

なのに新聞は次の朝には新しい情報を提供してくる…。


『そりゃあ…、糞づまりになるわな…。』















「沢山の情報があっても処理仕切らなければ、無駄なだけ…。」


エバが僕の考えを見透かしたように言葉をはいた。


「情報を精査できないと無駄な情報で溢れ返る。」

「そうだね。」

「でも、この時は必要も無駄も関係なく、沢山の情報を運べることが最優先だったのよ。」

「そうなのか。」

「そうなのよ。」





エバはそう言うと長い尻尾をピンと上げて「ここはもういいわ。」と言わんばかりに歩き出した。





≪続く≫


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