EP036
緑たなびく広大な草原をエバの後をついて歩んで行く。
どこまでも続く草原を踏みしめるように一歩…。
また一歩と…。
僕はエバとの行脚をそんな風に思っていた。
しかし実際は、小型の四足歩行の動物であるエバの進むスピードは尋常ではなかった。
別に駆け足で進んでいる訳じゃない。
四足歩行の動物は上背が低くなる。
その低さを活かして、しなやかに身体を動かして、生い茂る草々の間を縫うように進んでいく。
上背の高い僕は歩いているだけで草々が絡みついてくる。
普通に歩くこともままならない。
そうなると、走らないことには、エバについていけない。
『…走る?』
どうやら今、僕は、二足歩行で走っているみたいだ。
僕は腕振りしている腕を見た。
肌色の皮膚に薄っすらと産毛が生えている。
軽く握りしめた手先を見る。
それは、よく知っている人間の手だった。
『僕は…、この世界でも、人間なんだ…。』
そんなことを思いながら走り続けていると、僕が全く息が上がっていないことを知った。
疲れも全く感じない。
『僕の年齢じゃあ…。…。』
年齢…?
僕はいったい幾つなんだ…。
そんなことを考えていると…、
「チリーン。」
エバの金の鈴が唐突に鳴った。
エバがマニュキュアでも塗っているみたいな前足の真っ赤な爪で首に下がった金の鈴を弾いたのだ。
それと同時に僕たちの前に錆び錆びのシャッターが現れた。
『大草原に錆びたシャッター…?』
エバは、錆びて赤茶色になったシャッターの前で立ち止まると、「持ち上げて開けて。」と、僕に命令してきた。
「こんなの開くのかい…?」
「文句言わないで開ければいいの。」
「分かったよ。」
僕はシャッターの下の方に施された指をかける穴に指をかけ、試しで少し持ち上げてみた。
すると、錆び錆びのシャッターは簡単に持ち上がったのだ。
軋むこともなく、引っかかることもなく。
シャッターが少し開いた瞬間、エバはその中に飛び込んだ。
僕もシャッターが開き切るのを待って、開いた途端、エバを真似て走り込んだ。
シャッターをくぐった瞬間、僕の頭に電流が流れたような感じがした…。
シャッターをくぐったそこは、黄土色した石畳の道。
乾いた土埃の舞う石畳の道。
頭の上にも足の下にも…、石畳…。
前も後ろも…、石畳…。
右にも左にも…、石畳…。
様々な方向へ伸びる石畳の道。
決して交わることのない真っ直ぐな石畳の道。
ここは、それだけの世界だった。
今、僕とエバは、その石畳の道の一本にぽつりと立っている。
石畳の道に囲まれた世界で、僕はどっちが天でどっち地なのか全然見当がつかなかった。
『天と地…?』
なぜ僕はそんな概念を持ったんだろう…。
でも僕は、石畳の道の上にしっかりと立っている。
裸足の足の裏が、石のごつごつとした感触を感じている。
石の冷たさを感じ取っている。
でも、重力は感じない…。
しかし、無重力でもない…。
『引力が働いてないのか…。』
僕の足の裏に石畳の感触があるのなら、質量は存在しているはず…。
などと、考えていると…。
「邪魔だ。邪魔だ。
迫りくるなにかが、素っ頓狂にボケっと立っている僕に罵声を浴びせかけてきた。
「退きやがれ!!!跳ね飛ばされたいのか!!!」
罵声は僕にどんどん近づいて来る。
しかし…、それは…、
それ程のスピードで迫ってきてるわけではなかった。
僕はそれを余裕綽々で
そしてそれは、人間の子供が歩くほどの速度で、僕の脇を過ぎていった。
その間エバは、石畳の上でずっと毛づくろいを行っていた。
そのゆっくり僕たちを過ぎていったモノは、有名な運送会社のマークのような走るポーズをした二次元の飛脚だった…。
肩に担いだ担い棒に飛脚箱を下げ、コマ送りのように石畳の道を走って(?)行く飛脚たち…。
「エバ、あれは何だい?」
「情報の運送屋よ。」
「えっ?あんなに遅いのに…。」
「初めはこんなものだったのよ。」
「…?」
そう言うと、エバはまた目的地があるのかないのか分らない歩みを始め出した。
僕も置いてけぼりを食わないようにエバの後をついていくしかなかった。
≪続く≫
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