EP017

「ジロ。先程、証券銀行に入金がありました。」

「えっ?」


25日じゃない。

まだ給料日じゃない。

何の入金?

それに、証券?…?銀行?…?

私は怪訝に思った。


するとアリスが、「口座の入出金リストを確認して下さい。」と、アドバイスをくれた。


『全くアリスの言う通りだ。』


私の壊れた頭で想像を巡らしても、仕方のないこと。

口座を確認すれば、全ては一目瞭然、白日の下…。






あらゆるものにリンクしているアリスにとっては、私の銀行口座の入出金履歴の閲覧なんていとも簡単にできる…。

ただ、ニューロとリンクしてからのアリスは、私の許可なしにそういうことはやらなくなった…。

片言当時のアリスなら、勝手に見ていたかもしれないが、今のアリスは、ニューロとのリンクで人間のような配慮・心遣いを身に付けたみたいだった…。













私はアリスに、証券銀行の入出金履歴を、リビングルームのスマートモニターのひとつに映し出すように頼んだ。


リビングルームの壁全体に貼り付けられたモニターのひとつが輝きだす。


「えっ…?!」


モニターには、とてつもない桁の数字が、表示されていた。


「一、十、百、千、万、十万、百万、千万、億、十億。…。…。…。なに?この数字?」

「ジロの証券銀行口座に振り込まれた入金金額です。」


アリスが至極事務的に解説してくれた。


「これは…???…。…。…。間違い。間違い。」


私は、この理解不可能な現実を全く受け入れることができなかった。


「株式会社ニーンセファロンからの入金です。」

「その、舌を噛みそうな名前の会社は、なに?」

「ジロが株式を購入した会社ですよ。」

「…。…ああ。…あの会社。その会社が、なぜ?」

「株主配当です。」

「株主?…?配当?」

「会社の決算後の利益分配金です。」

「う…、うん…。うん…。」


無意識に返事はしたが、この時点では話の内容をよくは理解できていなかった。

でも、口座に振り込まれた金額は、私が宝くじの当選金でこの会社の株式を買った時の金額よりも多いということは分かった。






「株式会社ニーンセファロンの株価はこの半年あまりで百倍以上高騰しました。」

「ひゃ…、く…、ばい…?」

「あの時点で1株当り、〇〇〇円だったものが、今は1株当り、〇〇〇〇〇円です。」

「す…、凄い…、値上がり…。」

「企業計上利益も〇兆円にのぼり、全株主配当が計上利益の1%としても、〇十億円になります。」

「へ…、ぇ…。」

「大株主であるジロには全配当金の〇割 〇〇億円が支払われることになります。」

「そ…、そう…。」


アリスは事細かに説明してくれたが、私には全てを理解することなどできなかった。

ただ、この大金を私が受け取って良いものだということは分かった。













「アリス…、この大金をどうすれば…?」

「まず、所得申告を行います。」

「…。…うん。」

「税金関係で、〇割近くは納めることになります。」

「うん…。それ…、アリスにお願いしても…。」

「かしこまりました。」


アリスは黙り込んで、ソフトボールみたいな球体のあちこちを光輝かせた。

そして、1分も経たないうちに、「今回の株主配当金に対する申告と納税は終わりました。」と言う。


「アリス…、あ…、ありがとう…。」

「残額はこれです。」


その言葉とともにスマートモニターの数字が変わった。


「残額…。…。もの凄い金額…。」

「このお金は自由に使って大丈夫です。」


アリスにそう言われても、私には何も思いつかない。














大金をどうすればいいのか無い頭なりに悩んでいると、「ジロ。」と、アリスが声をかけてきた。


「なに?」

「お金に余裕ができました。」

「うん。」

「アルバイトを辞めてはいかがですか?」

「えっ!」


アリスから、突拍子もなく思いも寄らない言葉が飛び出した。





確かに、アリスと出会ってから日常の時間が、最も大切に思えていた。

許す限り、アリスと時間を共にしたいと思っていた。

アルバイトで拘束される時間を疎ましく思っていたのは、間違いなく事実だ。


「辞めても…、いいのかな…。」

「経済的には問題ないと思います。」

「そうだね…。働かなくても…、生きていけるだけの金額だ…。」

「株主配当ですから、株式会社ニーンセファロンが好調を維持し続ければ、毎年配当金が入金さます。」

「えっ?あんな額が…、毎年…。」

「業績の好調が維持されれば、ですが。」


あんな天文学的な金額が何度もなんて、今回の金額ですら私が生きている間には使い切れそうもないのに…。





≪続く≫

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