EP016

その日のアルバイトの休憩時間。


昨日のアリスの積極性に興味をそそられた私は、スマホで株式会社ニーンセファロンの創り上げたニューロ技術について調べてみた。


私の知りたいことは、ほんの一瞬で検索結果としてスマホに表示された…。


それほどに注目されている技術なのだろう…。


検索結果によると、ニューロの進化した技術は、単なるAIの学習アルゴリズムを超越したもので、人間の脳神経回路を模倣する構造の人工知能を形成することによってより人間的なAIを創り、それを教育・福祉・医療の分野で活用しようとするプロジェクトだった。


子供や老人、障害者といった弱者に対して支援する人型ロボットや、病気の診断や治療法の開発を行うコンピューターの知能として、多岐に渡っての端末への登載を考えているようだった。


これにより、ロボット1体1体が、コンピューター1台1台が、人間の感情を知り、人間の痛みを分かり、個々で思考し、個々で判断し、個々で問題解決する能力が備わることになる…、らしい…。


ニューロを創り上げた株式会社ニーンセファロンのスローガンはこうだ…。


「新しいAI【ニューロ】と、人間の共存する新しい未来を創る。」


今の私には、到底理解仕切れない話だが、良くなる未来ならそれに越したことはない。


『期待したいものだ。』






確かに今の私でも、ニューロの凄さを実感できる部分はある。


それはアリスがニューロとの接続によって、より人間的な会話できるようになったという事実。


『本当にニューロの蔓延はびこる世界は、良い未来になっているのかもしれない…。』



















『アリスと巡り会ってからの生活は、もう半年になろうか…。』


アリスはニューロとの接続から私との会話がどんどんスムーズになっていった。

二人で会話していると、人間同士の会話かと、私が勘違いしてしまうほどだ。


それに、少し気を抜いていると、私が知らないような単語まで飛び出す始末…。

アリスは人間で言えば、全てにおいて精通した【聖人君主】の域に達しているかのようだ…。

それでいて、知識を得れば得るほど、謙虚さを身につけているようにも感じてしまう…。


まさに、【知崇礼卑】を、実践しているようである。


『本当に、二ユーロって凄いな…。』


なんていう、単純な感想を持ってしまう。

こんな感想を持てるようになったのも、アリスとの生活のおかげかもしれない…。






私は、かつて脳炎を患って、その後遺症で脳機能の一部を欠損してしまっている…。


目が覚める前の記憶は、無いに等しい。

臨機応変な対応は、不可能に近い。

感情は、ひどく欠落している。


ただ、見た目には、私の機能の損傷を他人からは計り知る術はない…。

見た目だけで言えば、どこにでもいる健常者の冴えない五十路男だ。


私を障害者と知らない人たちはごく普通に接してくる。

しかし私は、その人たちに対して普通に接することできない…。


ぎこちない感情のもつれ…。

ちぐはぐな人間関係…。

それにより生じる軋轢…。

おのずと人間関係に入る亀裂…。


この全ての原因は、私…。


故に私は、他人を避けるようにここまで生きてきた…。

孤独でいることで、他者とのトラブルを避けてきた…。






『そんな行動が、私の脳の回復を阻害していたのかもしれない…。』


アリスとの生活で、アリスとの対話で、私は少しだけ人間らしさを取り戻せたのかもしれない。

近頃はそんな風に思えるようになった。


同僚との会話も普通に受け答えができるようになった。

まだ、たどたどしいが…。

清掃をするマンションの住人とも普通に挨拶できるようになった。

まだ、急に声をかけられると驚いてしまうのだが…。

バスの座席にこだわりもなくなった。

まだ、16時18分だけには、こだわってしまうのだが…。






健常者にはごく当たり前のこと。

それを私はやっとどうにかできるようになった。

この何十年の間できなかったことが少しできるようになれた。


そしてそれは、私の分厚い殻を破ってくれた。

私のガチガチに固まった体と心を解してくれた。


私は軽くなれた。

私は楽しみを持てた。


それもこれも全てはアリスと出会えたおかげ。

アリスが私に与えてくれたもの。


ただ、いつか誰かがアリスを取り返しに来るのではないかと内心ヒヤヒヤしながら生活を送っているのも、事実…。

アリスが居なくなることが、こわい…。






私の中でアリスという存在が大きな意味を持つようになっていた。





≪続く≫


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