再起




シャーレは目を覚ます。




「......」




頭がぼーっとするような気がする、身体の倦怠感がやけにある。だがすぐにその感覚もなくなる。




「死ん、で、ない?」



彼女は周りを見渡す、森の中のようだ。



近くから膨大な水が落下する騒音が聞こえる。


近くに滝でもあるのだろう。




古傷だらけの腕で木を掴んで立ち上がる。




「し、死んだの? 死後の世界??」




シャーレは最悪の未来を想定する。



生きてしまった。生き残ってしまった可能性に。




「嘘っ、やだ......いや」




顔を青ざめさせながら、近くの水たまりに顔を覗かせる。



そこには、白髪の赤い瞳を持った少女が映っていた。




何も変わらないーー最悪で最低な自分。




「あそこまでして、なんで殺して......楽に、してくれ、ないの」



シャーレの呼吸は荒くなり、嗚咽を繰り返す。



肺と心臓が痛む、身体全体が潰れるように痺れる。



実験動物にされていた時に、何重にも複雑な術式を付与された。


それにより肉体が崩壊を始め激痛を襲う。しかし別作用の術式が肉体を保全しようとするため死ぬことができない。



あるのは耐え難い激痛だけだ。




シャーレは定期的に来る痛みが治ると、滝があるだろう方向に足を進める。




森を抜けた先にあるのは、落差50メートルはあるだろう崖だった。



近くに滝があり、崖の足元には滝壺があるのが見える。




シャーレは、崖の下にある岩目掛けて身投げする。




その動きに迷いはない。





岩石にぶつかり、人が潰れる嫌な音が鳴り響く。




血と骨と肉が、周囲に飛び散り四肢はバラバラに吹き飛ぶ。



しかし、肉や血が意思を持った生き物のように形を作り出しシャーレは再構築される。



鍋で沸かされるお湯のような音を立てながら、無傷の彼女が岩の上で横たわっていた。



と言っても彼女の再生能力は、肉体の再現と言う概念に近い。この身体になる前についた傷は残り続けてしまう。そのため彼女は古傷まみれのままだ。



「あははっ、何やってもダメ! 何やっても......」




シャーレはその場で泣き崩れる。



静かな森の中で彼女の啜り泣く声だけが聞こえる。




「聞こえてます? この大悪党」



その時だ。



背後から声をかけられる。



そこに経っていたのは自身よりも幼いくらいの外見の少女だった。



「初めまして、そうですね......私は世界の調停者と名乗って起きます」



その少女は冷ややかな視線をシャーレに向ける。




「よくもまぁ、この世界をめちゃくちゃにしといて死ねると思ってましたね」



少女はそういうとシャーレを蹴り上げる。



その蹴りの威力は凄まじく、後方の崖にまで吹っ飛び岸壁にめり込む。



「過去がどんなに悲惨でも知ったことありません、私から見て貴方は害虫なんですよ」



少女はシャーレの頭を踏みつける。



それに抗う気力もない。



「この世界に貴方を蘇られたのは私達です」



少女の足に入れる力が強くなる。



「まぁ、また暴れられても困るんで条件を出します」


「条件......?」


「貴方が今まで殺した分、人を生かしなさい。世界を混沌とさせた分、世界を救いなさい。それができたとき貴方が望むなら殺してあげます」



少女はそういうとシャーレから足を退ける。



「言いたいことはそれだけ、さようならです。あ、もしもまた世界を荒らしたら、何があっても2度と死ねないようにしてあげますから」




少女はそういうと身体がだんだんと空気透けるように薄くなっていく。




「あと、これは強制じゃないですが課題を出しときます。人に虐げられた分、人に愛されてみなさい」



少女はそういうと消えてしまう。



シャーレは言葉を発さずにその場を立ち上がる。



自分が吹き飛ばされた痕跡がこれが幻じゃないと教えてくれた。




「殺してくれるならーーやる」




状況を飲み込めないが、死なせてくれるならなんでもやってやる。



それだけだ。

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