許されざる悪  side王子


シェスタニア・ジェフェルソン伯爵令嬢は、あろうことか父上がいらっしゃるというその時に逃亡をした。


皆が言っていたように、彼女が邪悪で下劣な犯罪者であるというその証拠であろう。


1年生の頃から正義の使徒にして、次期国王の最有力候補であるこの僕の周りには、彼女に酷いことをされたという人々や、それを打倒しようとする人々、そんな僕と志を共にするに相応しき善き者たちが集まっていた。


執事や側近に、もっと彼ら彼女らのことを調べろと言われたこともあったが、あやつらは分かっていない。王子たるこの僕が、僕を頼ってきている者たちを信じずに何を信頼と呼ぶのか。


慕ってきてくれた者達くらい、無条件で信頼するのが王の器という者であろう。


それに、彼ら彼女らの目を見ればわかる。

悪人にあんな綺麗な目はできない。


そう真摯な言葉で伝えたら、経歴や噂を調べろと言ってきた側近も分かってくれた。


この件もそうだが、僕が真摯に伝えれば皆僕に黙ってついて来るようになる。

きっと僕への信頼の表れだ。


僕が少し話せば、考えを改め、信頼してくれる。

つまり僕の言葉には人を善き方へと変える力があるのだ。


だが、シェスタニア・ジェフェルソン伯爵令嬢には届くことはなく、あれほどの証拠があったというのに罪を最後まで認めず、一瞬の隙に逃亡を許してしまった。


これこそが彼女が許されざる邪悪だという、その証拠であらずになんだというのだろうか。


話によれば、ゲートを用いない転移魔法で逃亡したという・・・伯爵家にしては異常な量の魔力に、それほどの魔法の才がありながら、なぜあんな悪の道に落ちてしまったのか・・・まったくもって嘆かわしい。


僕はこのまま彼女を逃がすつもりはない。


これは、逃亡を許してしまった僕の責任でもあるのだから。


きっと、彼女に罪を認めさせ、死をもって償わせることこそが、この僕に課せられた使命の、その1つであるだろうから。


そうと決まれば、行くべきところは1つ、父上のところだ。


父上も、あの邪悪を許すことは無いだろう。


国家転覆罪―――つまり、王たる父上を殺そうとした罪人だ。

許されるわけがない。


僕は、正義の炎を燃え上がらせ、父上の下へ急ぎ足で向かう。


王国の騎士団を上げ、捜索をするのだ。


そのためには、他ならない父上の許可が必須である。


パーティー会場の扉の前にいる父上に話しかける。



「父上!」


「なんだ」


「僕に、この僕にあの罪悪人、シェスタニア・ジェフェルソン伯爵令嬢を捜索、捕らえる命をください!」


「却下だ」


「なぜでs―――」


「証拠とやらを見せろ」


「そn―――」


「見せろ」



―――っ!なんて、圧だ。危うく意識が飛ぶところであった。


僕としたことが、王国法において王命は絶対だ。

正義のためとはいえ、軽々しく法を破るのはよくないな。


先ほど読み上げた罪状の巻物を父上に見せる。



「こちらです」


「・・・」


「どうd―――」


「黙れ」



また、圧が・・・!


父上がここまで厳しくするのは兄弟でも僕のみ、つまり、これは試練。


父上が僕に最も期待を寄せている証・・・!


耐えることで、きっと父上は僕を王太子と認めるのであろう。


父上が巻物を投げる。


もう読み終わったとは、なんて早さ!



「これを調べたのはどいつだ」


「私を頼ってきた者共です」


「・・・」


「ご安心ください。宰相や、複数の貴族家から確認をされ、認められたものです」


「・・・はぁ、ならば厳しいか」


「n―――」


「ところで、お前はこれの精査はしたのか」


「するわけがないでしょう。僕は私を頼ってくれた者を信頼しております」


「はぁ」


「d―――」


「黙れ。もう、去ね」



凄い圧だ・・・父上の期待の証、耐えて見せる。


王命は絶対、だが、正義はなさなければならない・・・!


去る前に、許可をもらは無ければ・・・!



「父上、許可を・・・!」


「却下だ」


「なぜ、ですか・・・!」


「黙れ」


「ky―――」


「黙れ」



く、あ、意識、が・・・



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side国王



床に、愚息が倒れる。


正直に言って顔も見たくない。


こ奴の母に免じて生かしておいているが、もう勘当してもいいのではないだろうか?


それならば、殺しはしていないのであ奴も文句はないのでは―――いや、駄目だな。


王族である以上、多数の者から恨みを買っている。


こいつも、強いは強いが未だそこそこ―――爵位で測るならば侯爵家当主程度。

経験も含めるならば更に格落ちするだろう。

その程度の強さでは殺される可能性もあるうえ、殺さずに放り出しただけでは野心のある貴族共の神輿にされかねん。


つくづく、扱いに困るうえに、面倒な奴だ。


殺したい・・・


だが、正妻であるこやつの母が王の器ではないということには同意を示すが、我が子可愛さからか殺すということに徹底して反対するために殺すことはかなわない。

無視して刊行してもいいが、怒ったあ奴は面倒くさい。


はぁ・・・嫌になる。


王族ともあろうものが、あんな見え透いた美人局じみたものに引っかかり、あろうことか冤罪を未来ある若者に吹っ掛けるとは・・・


あの令嬢―――シェスタニア・ジェフェルソンのことを余は気に入っていた。


犯罪組織を潰したりなどという行為を行う行動力。

そして、それらにおいて一切の証拠を残さない手際の良さ。


状況証拠すらないというのに、大きく暗部を動かすわけにもいかいため結局最後まで確定はさせられなかったが、まぁ今回の件も含め、十中八九そうなのであろう。


なにより、王城から逃げる時にでた賭け―――余が使用人などを殺さないことを信じて突っ切る大胆さと、その性格。


正直に言って、実力が王族と同等まで高まったなら王位を譲ってやってもいいくらいに余の好みにあった奴であった。


そのため、庇えるのなら庇ってやろうと思ったが・・・あれは無理だ。


この国において王は絶対。


ただ、貴族に信用がないというわけではない。


王子と、国の行く先に関われる宰相、そして複数の貴族当主がその罪を認めたとするのならば、王命で無罪としようとも嬢は他者から罪悪人として扱われるのは間違いない。


そもそもとして、周りが無罪だと思ったところで、あの愚息とその取り巻き共が迷惑をかけるだろうしな。


どうしようもない。


せめてできるのは、騎士団を動かさんようにする程度。


それでも複数の貴族家が動くだろうが・・・まぁ、逃げ切って見せることであろう。


それにしても、血統魔法や特殊な魔力によるごり押しでなく、魔法としてゲート無しの転移魔法を完成させるとは・・・


余ですら面倒だから魔力だよりにしていたというのに・・・面白い。


いっそもう、余が匿って特別な研究職でも与えるか?


まぁ、何もかもあやつが逃亡を続けられるのかどうかを見てからだな。


そうだな。城に戻ったらマギウスの奴と賭けでもするか。


あの転移魔法について宮廷魔術師筆頭の意見も聞いておきたいところであるしな。


ただ、単純に「逃げ切れるか否か」ではどちらも「逃げ切り」に賭けてしまい、成立しなさそうではあるな・・・


どのような賭けにするか・・・捻ったものを出したいな・・・



王の頭からは既に愚息ゴミのことなど消え失せ、意識は賭けへと向いていった。



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side王太子



目を覚ますと、そこは寝台の上であった。


く、結局、許可はもらえず、か。


だが、動かぬわけにはいかぬ。


僕が動かなくとも、いくらかの家は動いてくれる。

彼らと協力すればいい。


まず、彼らに呼びかけ、この僕の下に1つの騎士団としてまとめる。


そして、告発における協力者に助力を願い、少数ずつでも兵を集める。


さすれば、王国騎士団には遠く及ばずとも、それなりの騎士団ができるはずだ。


とすれば、まず頼るべきは宰相、そしてシェスタニア・ジェフェルソン伯爵令嬢の被害にあった者たちのまとめ役であった、フェイドゥセア・マースルピター侯爵令嬢に話を持ち掛けるとしよう。


そうと決まれば行動だ。

一刻でも早く、あの罪悪人を捕らえねば。


まずは宰相だろう。


軽く魔法まで使って、宰相の下へと駆ける。


おそらくだが、いつも通り執務室にいるに違いない。


ドアを開け、中に入りやはりいた宰相に話しかける。



「宰相、話がある」


「おお、これは殿下、何の御用でございましょうか?」


「父上に許可はいただけなかったが、それでも僕はあの罪悪人を捕らえなければならない。そのためには、僕の威光の下に、あの罪悪人を追い求めし同志たち、その配下たる者どもを―――」


「ふむ、つまり、シェスタニア嬢を捕らえんとする者達を殿下の下に1つにまとめようと、そう殿下はお考えなのですね」


「ああ。しかし、いくら第一王子にして、皆の尊敬の光を一身に浴び、正義のその炎を内に宿せし僕であろうと、未だ学生の身。そこで、かの残虐たるシェスタニア・ジェフェルソン伯爵令嬢の罪を暴きし同志の1人たる宰相に、この僕の代わりとなり、我が偉大なる正義の騎士団の―――」


「つまり、殿下はわたくしめにシェスタニア嬢を捕らえるための騎士団の大本の作成と運営を頼みたいというわけですか。そういうことであるならば、お任せください」


「ああ、その通りだ。宰相よ、そな―――」


「殿下には他にも行くべきところがあるのでは?わたくしなどにはとてもではありませんが、殿下の貴重なお時間を頂くわけにはいきません」


「ああ、そうであった。すまぬな、感謝するぞ、宰相。ではな!」


「ええ」



やはり、宰相は頼りになる。


僕の考えを読み、迅速に対応するその手腕は実に素晴らしい。


先ほども、長話になりかけてしまったところでフェイドゥセア・マースルピター侯爵令嬢の下へ行くことを思い出させてくれた。


宰相もきっと僕の正義に共感してくれたのだろう。

期待にはこたえなければ。


フェイドゥセア・マースルピター侯爵令嬢、彼女とは何かあった時迅速に対応できるようゲートを指定する魔具を互いに持っておいている。


それを用いて、場所を指定し転移魔法『繋天門コネクト・ゲート』を発動させる。


その先には、見かねていたかのように寝台に座って待っていたフェイドゥセア・マースルピター侯爵令嬢がいた。



「フェイドゥセア・マースルピター侯爵令嬢、実は君に頼みたいことがあるのだ」


「ええ。謹んでお受けいたしますわ、殿下」



早速話を始めようとしたら、内容についてまだ話していないというのにフェイドゥセア・マースルピター侯爵令嬢は了承をした。


内容がどんなことであれ受け入れる姿勢・・・これこそが信頼の証と言えるだろう。

だというのに、それを理解できない者が多くて嘆かわしい。


フェイドゥセア・マースルピター侯爵令嬢のことだ、きっと内容は察しているだろうが話すべきであろう。



「うむ、フェイドゥセア・マースルピター侯爵令嬢、分かってはいるだろうが頼みとは『シェスタニア・ジェフェルソン伯爵令嬢を捕らえるための戦力を集うこと』だ。無論、皆に無理をしろとは言わないが―――」


「なるほど、理解しましたわ、殿下。彼女は癪ですが有能です、時間を与えては面倒なこととなるでしょう。ですので、殿下は彼女を捕らえる作戦をお立てください」


「ふむ、確かにな・・・わかった。ならば、皆への呼びかけなどは頼んだぞ、フェイドゥセア・マースルピター侯爵令嬢」


「はい。お任せください」



フェイドゥセア・マースルピター侯爵令嬢、彼女もまた数多の貴族をまとめる人望と宰相とのパイプを作る手腕を持った優秀な人材だ。


彼女も全力をもって今回の件に対応するようだ。

もう、逃れられると思うなよ?シェスタニア・ジェフェルソン伯爵令嬢。


さて、フェイドゥセア・マースルピター侯爵令嬢の言う通り、作戦を立てることとしようか。



―――王子は、どこまでも高い自己評価の下に作戦を立てていく。



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あとがき


王子はクズとかでなくアホでバカな無能です。

ただし、単純な計算能力とかの方面での頭の良さとか、戦闘能力は王族なだけあって作中でもトップクラスに高いです。

具体的には素で音速以上の速度を出せる上にその際のソニックブームを謎技術で消せたりします。


人間って240fps程度までしか認識できないはずなんですけど・・・なんで魔法無しの素で音速行動が出来るんでしょうね?王様に関しては雷速まで可能ですし・・・


ちなみに、王子の話における少しは5~10分くらいです。

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真面目・・・にはしていなっかったけれども!だからってこれは酷くありませんか!?なんか知らない余罪までついてきてるんですけど!? 思惟拿 @mudaai

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