第36話 今こそその成果を見せるとき!
ついに現れたスライム。イメージしていたのは、かわいらしい感じの見た目のモンスターだったんだけど……
……一般自動車並みの大きさのスライムが三体……って……
「いやその大きさで草むらガサゴソは無理でしょ!」
さっきまで草むらに隠れるようにしてガサゴソやっていたのはなに!? ていうかこの大きさなら私含めて気づくよねぇ!?
「大きさも自在ということか」
「そういう問題かな!?」
くぅ、完全に虚を突かれた。あまりに大きなスライムが三体……
「ぷにゅぅううう」
「そうやって鳴くんだ!?」
明らかにスライムから発せられた声。
……声、だよねこれ。どこに口ついてんの!? ていうか声帯どこについてんの!?
だめだ、ツッコミどころが多すぎて落ち着かない。いやいや、そもそもスライムの生態に驚いている場合じゃない。
「でっかくても、やることは変わらない。やるよ、二人とも!」
「はい!」
「えぇ」
そうだ、大きくたってやることは変わらない。私たちはそれぞれ、構える。
スライムは核を破壊してしまえばおしまいだ。どれだけでかくなっても、それは変わらないはず。
だから、あんなにでかくても核を破壊することができれば……
「……どうやって核に攻撃届かせよう」
身体が大きくなって、核も同様に大きくなってくれるのならともかく……核は、多分小さなままだろう。
スライムの弱点……人にとっての心臓みたいなものだ。わざわざ弱点をでかくはしないだろう。
となると、あの大きな身体の中にある小さな核を見つけ、それを破壊するほどの衝撃を与えなければいけないのか。
これはなかなか難儀しそうな……
「せぇええええい!」
……隣にいたリーシャーが飛び上がり、回転を加えながらスライムの一体へと強烈な蹴りをおみまいする。
ドッ……と衝撃が走り、スライムの身体はぶるんぶるんと揺れる。そう、揺れる……つまりリーシャーの蹴りは弾力のある身体に受け止められたのだ。
「っ……さすがに一筋縄では行かないようですね」
そのまま地面にうまく着地し、軽く息を漏らすリーシャー。
いや、今すごい飛んでたけど。しかも回転しながら蹴っちゃってたよこの子。
「硬いよりも、厄介かもしれませんね」
「硬いよりも柔らかいのが厄介……硬いものは包丁でも切れるけど、柔らかすぎる豆腐なんかは包丁じゃ切りにくいみたいな感じか」
「?」
ともかく、これは思った以上に手こずるかもしれないな。
今のところスライムたちが、私たちに攻撃するつもりがなさそうなのが救いだけど……それもいつまでも続きはしないだろう。
そう考えていると、隣から魔力の昂ぶりを感じた。
「セルさん!」
「なら、私が届かせます!」
セルティーア嬢の身体からは魔力が溢れ出し、その気配をこの身に感じる。
セルティーア嬢は、魔法を得意としている。そしてその属性は、火だ。
スライム討伐において、これ以上ないほどに適任の人材。リーシャーの身体能力とセルティーア嬢の魔法があれば、怖いものはない。
「行きます! ファイヤーボール!」
両手を掲げ、魔力により生成された火の玉が放たれる。それはバスケットボールくらいの大きさ、そしてスピードもある。
でかいから油断しているのか、そもそもそういう生き物なのか。迫ってくる火の玉を避ける素振りも……というか気づいてない?
ともかく、迫ってくる火の玉を避けるでもなく、一体のスライムに命中した。
「ぶぎゅぅううう!」
ボシュッ……と大きな音が響き、さらにスライムの身体が燃えていく。
水の体なのに、火に燃えている。不思議だと思いながらも、スライムが火に弱いというのは本当だと確信する。
このまま、全身を燃やし尽くしてしまえと願うが……
「あ、あれ!?」
なんと、他のスライムが燃えているスライムに近寄り、その身体を使って火を消していくではないか。
なんとなく、群れていてもそれは偶然で協力関係などない……という印象をモンスターに抱いていた。
けれど、明確に他のモンスターを助けている。やっぱり仲間、だからなのか?
「ぬぅううう」
しかも、三体目のスライムが私たちに狙いを定めた。さすがに、おとなしくずっと攻撃を受け続けているわけではないか。
「二人にばかり任せていられない。私だって……!」
私も、たくさん練習してきたんだ。今こそその成果を見せるとき!
私は手に持つ短剣を、スライムに向かってぶん投げる。ただ投げたわけではない、狙いがある。
スライムの核は、身体の中心にある可能性が高い。だから私はそこ目掛けて、短剣を投げ核をぶっ刺してしまおうというわけだ。
そう、これぞ投石ならぬ投剣……
「むにゅり」
「……」
投げた短剣は……スライムの身体に当たり、そして吸収された。
「…………え」
スライムは跳ね、私たちに迫る。まるで今のやり取りがなかったみたいに。
いくら大きくても、その体積は水……飛び跳ねる度にその身体はぶにゅん、と揺れる。
そして、私たちを押しつぶそうと飛び上がり……
「させません!」
その下からリーシャーが蹴り上げ、逆に打ち上げた。
水でもあの巨大を打ち上げるなんて、どんな身体をしているんだ。
そして打ち上がったスライムに対して、セルティーア嬢は再びファイヤーボールを放つ。それも一つではない。
複数のファイヤーボールが空中のスライムに直撃する。空中ならば逃げ場はないし、他のスライムの助けもない。
「ぴぎゅいぃいいいいい!」
炎に包まれるスライムは、まるで断末魔のようなものを上げながら身体を燃やしながら消滅していく。
残った核が落ちてくるのを、私は見逃さない。
これで、一体撃破だ! やった!
「この調子で残りも……」
……と、パーティーの士気が上がりかけたときだった。どしん、どしんとなにかが聞こえてきた。
なにか、なんて曖昧なものじゃない。これは足音だ。しかも、地鳴りがするほどの。
聞こえる音も、大きなものだ。誰が……?
「あ、あれは……!?」
リーシャーが、驚愕の表情を浮かべていた。
まるで空が暗くなったかのように視界が薄暗くなる。
けど、これは太陽が雲に隠れたわけじゃない。私たちの頭上の遥か上に、巨大な影が現れたからだ。
その影の正体はというと……
「ぷぎっ」
「ぎゅぷっ」
「す、スライムたちが……」
現れたその足につぶされ、二体のスライムは消滅する。核まで踏みつぶされていたら報酬が……いや、大丈夫なはずだ。根拠はないけど。
それよりも、気にするべきは……目の前の影。
いや、影を生み出した本人……
「……アンデッド・ティラノ……!」
その、巨大な生き物を見て……リーシャーは、冷や汗を流すのだった。
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