第31話 その、頑張ってくださいね



 ――――――



「はぁー、無事終了したねぇ」


「そうですねー!」


 二つの依頼を受けた私たちは、さっそくそれらの報酬を受け取りに行った。

 依頼は複数受けることも可能だ。期限があるため、それさえ気を付ければ。


 冒険者の依頼……期限があるためにもちろん期限内にクリアしないと報酬は出ないんだけど、それ以外にもマイナス評価はある。

 依頼を失敗し続ければ、冒険者としての評価は落ちてしまう。それがわかりやすいのが、ランクダウンだ。


 DランクからCランクへ……といった感じに、依頼成功を重ねていけば当然ランクは上がる。だけど失敗を重ねれば、CランクからDランクへ……とランクは下がってしまうのだ。


「Dランクの依頼は、基本的にはすぐ終わるからいいよね」


「……ほとんどリーシャーさんのおかげな気もしますけどね」


 苦笑いをするセルティーア嬢に、それは同意。


 Dランクの依頼は掃除や薬草集めといったものが主だ。これらを失敗することもそうはないし、Dランクより下がないので失敗を重ねてもランクが下がることはない。

 それでも、信用問題は下がるものだ。


 むしろ、Dランクの依頼という比較的簡単な依頼を失敗続きなんてどうなっているんだ……といった視線を向けられることだろう。


「さっすがは私の使用人だね、リーシャー!」


「お褒めにあずかり光栄です」


「あ、あー! ちゃんとありがたく思ってるから! そんなあっけらかんとしてないでー!」


 そう、情けない話だけど、依頼内容のほとんどをリーシャーに任せてしまっている。

 リーシャーはただでさえ家事万能なのに、冒険者ウゼーノに見せた身体能力。あれも含めて本当にすごいのだ。


 いや、違うんだよ。私だってやろうとしてるんだよ? でもリーシャーの仕事が早すぎるって言うかさ。私たちが遅いわけじゃないはずなんだよ。

 私のメイドの仕事が早すぎる……ってことだよな? ってことなんだよ。


「それより、お二人とも。このあとはいかがなさいますか?」


「そうですね。冒険者ギルドで報酬を貰って……お昼といったところでしょうか」


「確かに、お腹ペコペコだもんね」


 朝から依頼を二つもこなしたからか、お腹は減っている。このあとお昼ご飯というのはとてもいい案だ。

 というか、お昼ご飯に合わせるために比較的早く終わりそうな依頼を二つ受けていた……ってわけだしね。


 今回も冒険者ギルドで食べるか、それともどこか食事処にでも行くかなぁ。


「お疲れ様でした。今回もお早いお帰りですね」


 ギルドの受付に戻ると、例のごとくキャンちゃんさんが迎えてくれる。はぁー、この笑顔癒されるなぁ。


 依頼完了の報告をして、報酬を貰う。

 依頼完了のやり取りにしても、やっぱりランクに……というか依頼内容によって確認方法は変わってくる。


 薬草や魔石採取は、単純に採取してきたものを持って帰ればいい。モンスター退治などは、倒したモンスターの身体の一部を採取し、持って帰る。

 掃除などの依頼は、それを依頼してきた人のサインが必要だ。


「……はい、依頼完了確認しました。こちら、報酬になります」


 私たちは依頼完了の成果を見せて、報酬を貰う。やっぱり、自分で苦労して手に入れるお金ってのはいいものだよね!

 いやまあ、ほぼリーシャー頼みにはなってるんだけど。


 この後は、どこかでお昼ご飯にしよう。なんなら、屋敷に戻ってからご飯にしてもいいし……


「あの、シャ……モミジさん」


「! はい、なんでしょう?」


 うーんと今後の動きを考えていたところで、キャンちゃんさんから話しかけられた。シャモジさん?

 どうしたんだろう。なにか不備があったりしたのかな?


「モミジさんたちは、もっとランクを上げたいのですか?」


「? えぇ、そりゃまあ……」


 なにを聞かれるのかと思ったけど、もっとランクを上げたいのか、か。

 そりゃ当然だ。冒険者になったからにはランクを上げて、もっと冒険者らしいことをしたい。


 せっかくあの王子に婚約破棄までこぎつけたんだ。だから、私は自由にやりたいことをやってやるんだ。


「そうですか……その、頑張ってくださいね」


「? はい」


 手をフリフリと振りながら、キャンちゃんさんは見送ってくれる。なにが聞きたかったんだろう?

 一応お辞儀をしてから、私たちはとりあえずギルドを後にすることに。どこかで、ご飯を食べよう!



 ――――――



 キィ……と扉が動き、今しがた退出していった三人の少女の後ろ姿を見送りつつ、キャンは小さくため息を漏らした。


 冒険者モミジ、その正体はシャルハート・アルファー。正体を隠しているようだが、バレバレだ。

 それにもう一人は、シャルハートのお付きの使用人だったはずだ。名前までは浸透していないが、見覚えのある顔つきだ。


 名前を変え、変装をしてもその正体はキャン含め、この場にいる冒険者や受付嬢にはほとんどバレバレだった。

 もっとも、もう一人の冒険者セルの正体までは掴んではいないが。


「それにしても、ランクを上げる、ねぇ」


 手元の、依頼完了報告書を手に持ちキャンはつぶやいた。

 冒険者になる以上、ランクアップは誰もが望むところだろう。そのためより難しい依頼に挑戦し、クリアするのが冒険者だ。


 ただ、依頼を失敗すれば相応のリスクもある。失敗を重ねればランクダウンもあるため、依頼は慎重に選ばなくてはならない。

 Dランクに関してはその心配もないとはいえ、だからこそDランクは特に数をこなさなければランクを上げることはできない。


 昨日の今日で、すでに三つの依頼を達成している。本気でランクアップを狙っているのだ。


「シャルハート様のやることはいつも突飛だけど、まさか冒険者とはねぇ」


 昔から、シャルハートという令嬢は不思議な人だった。

 普通令嬢と言えば気品があり、堂々としていて、平民のことを見下げている。そういった印象が彼らにはあった。


 高そうな装飾に身を包み、そもそもこんな町中を歩くことさえもしない。冒険者ギルドに足を踏み入れるなどもってのほかだ。

 もっとも、冒険者ギルドに依頼という形で関わりを持つ貴族もいる。貴族は衛兵を雇っているところもあるが、それではどうしようもない場合などだ。


 だが……依頼人側として貴族が関わることはあっても、冒険者側として貴族が関わることはまずない。


「……」


 それを、シャルハートという令嬢は……そんな常識なんてぶっ壊している。

 貴族令嬢なのに町中を歩き回り、平民に優しくして、その回復魔法で怪我まで治してくれる。


 ただお高く止まり、税金だけを貪る偉そうな貴族とは違う。平民にも寄り添い、一緒に笑ってくれる。

 そんな彼女が、みんな大好きだ。


 そして、そんな彼女が……王子との婚約が破棄になったという話に、みんな驚いたものだ。

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