第16話 私スゲーってところを見せつけるとしますか



「おじゃましまー」


 西部劇とかでよく見る、左右横開きの扉。それを開いて、私たちは冒険者ギルドへと足を踏み入れる。

 外からも中の声は聞こえていたけど、扉一枚くぐっただけで全然違う。


 ワイワイガヤガヤと、人が人が人が話している。

 冒険者だろう装いをした人たちが、受付や壁の掲示板に集まっている。


「ひゃー、結構人がいますね」


 と、セルティーア嬢は驚いたようにあたりを見回す。

 冒険者に憧れていても、こういったギルドに来るのは初めてなのだろう。


 私も、文章の中で知っているだけの光景だ。前世読んだラノベの世界、それを頭の中で想像するのが楽しみだったのだ。

 一応テレビはあったけど、個室というわけじゃなかったしアニメなんかは見られなかった。


 だから私にとっても、目で見るのは初めてなのだ。

 それに、それだけじゃない。明らかに人間ではない人たちもいる……獣人や亜人というやつだ。町中で見かけることはあるけど、ここはわりと多い気がする。


「っと、感心してる場合じゃないか」


 夢にまで見た光景に見惚れている場合じゃない。私たちがここに来たのは、冒険者登録をするためなのだ。

 モミジ、セル、リーシャーとして……三人で、パーティーを作るのだ。


 パーティー名は、セルティーア嬢考案の『コメット』。確か、受付でそういう登録をするんだよね。だいたいそういったやり取りは受付と相場が決まっているんだ。

 じゃ、早速行こ……


「なんだぁ? ガキがまぎれてんじゃねぇか。それも女じゃねえか」


 う……と足を踏み出そうとしたところで、頭上から聞こえた声に足が止まる。気のせいか、周囲が暗くなったような気がする。

 見上げると……そこには、大柄の男が立っていた。暗くなったのは、この男の影がかかったからか。


 私は別に、小柄というわけじゃない。それでも、私が見上げる形になっている。この男は二メートル以上の身長ってところか。

 その上、体格もいいためより威圧的に見える。肩幅ひっろ!


 男は、私たちを見下ろしてニマニマと笑みを浮かべていた。


「おいおい、ここは冒険者ギルドだぜ? 女子供の来るところじゃねぇよ。しかもなんだその格好は……お遊戯会でもしに来たのか?」


 ガタイのいい男は、私たちをまるでバカにしたように吐き捨てた。

 この男も当然冒険者なのだろう。スキンヘッドが眩しい男は、凄まじい迫力だ。閉じられた右目の傷も、迫力に拍車をかけている。


 格好もなにも……私たちは、正体バレを防ぐために町娘の格好をしている。

 逆に言えば、正体バレを気にするあまり冒険者らしい格好はできなかったってことでもある。


 でも、そういう意味じゃこの男の服装だって私たちとそう違わない。特別冒険者って感じはしない、普通の服だ。

 服装に因縁つけてきたようにしか見えないな。


「見ろ! 俺様のこの筋肉を!」


 そしてこちらがなにも言ってないのに、「これこそが俺の武器だ」と言わんばかりに、男は自ら着ていた服をビリビリに引き裂いた。

 服がもったいない。


 露わになったのは、鍛え上げられた筋肉。それはまるで、鋼の鎧……こういうのマッチョって言うんだろうか。ちょっと触ってみたいかも。

 それはそれとして、なぜ脱ぐ。いや破く。なぜ筋肉を動かす。うざいな。


 ……ていうか、これ……


(冒険者として初めてギルドに来た主人公に因縁つけてきて、ここで返り討ちにすることで主人公のかませ的な役割を担っている系冒険者キター!?)


 ラノベで読んだことある! 冒険者になった主人公に謎の因縁つけて、「ガキは帰んな」とか言いながら悪者気取ってる奴!

 それを返り討ちにすることで、主人公が「おいおいあいつ何者だ?」的な感じで周りから見られるんだ!


 しかも倒した奴が名のある冒険者の場合、それを倒した主人公のすごさも跳ね上がるってやつ!


「おい、あいつウゼーノだろ。また新人冒険者に絡んでるよ」


「懲りねえな。でも、あの子たち冒険者なのか?」


「めちゃくちゃかわいくねえか。特にあの子スタイルすげ……」


 キター! 周りに知られてるくらいに有名な冒険者なんだこいつ!

 ……有名の意味合いが違う気もするけど。


 周りでヒソヒソ話してる人たちの言葉を聞くに、こいつ新人にちょっかいかけてる常習犯ってことでしょ。

 なんていうか……


「でかい男のくせに小さい奴だな」


「なんだと!?」


 あ、やべっ、声に出てた。

 咄嗟に口を塞ぐけど、もう遅い。


「場違いな上に目上の人間に対する礼儀がなってねえようだな。なら俺が、しつけてやらねえと……三人仲良く、な」


 ぐへへ、とでも言いそうな態度で、私たちの身体をじっと見つめるスキンヘッド。その視線がとてもいやらしい。

 しかも、その目がセルティーア嬢の胸に移動した時、スキンヘッドがニンマリと笑ったのを見逃さなかった。キモっ。


 そしてスキンヘッドは、失礼な言葉を発した私に手を伸ばす。大きな手だ……片手で私の頭握りつぶされちゃうんじゃないか?


「へへへへ……」


 …とはいえ、これはチャンスタイム到来!

 私たちを侮っているのは、なにもこのスキンヘッドだけじゃない。


 ここは一つ、スキンヘッド冒険者ウゼーノを返り討ちにして、私スゲーってところを見せつけるとしますか。

 見よ! 冒険者として歩む私の、覚醒した力!


「まずは生意気な小娘お前から……っ、あだ、だだだだだぁ!?」


「……なにをしている、貴様」


 私に伸ばされていた手が、止まった。私が止めた……わけでは、残念ながらない。

 横から伸びた手が、ウゼーノの手首を掴んだのだ。手の大きさと手首の太さは全然違うのに、ウゼーノの腕は全然動かない。


 下品な笑顔を浮かべていたウゼーノは、その表情を歪ませていく。いや、最初から歪んでいる表情って言ったらそうなんだけどさ。

 その原因を作ったリーシャーは、殺意のこもった目でウゼーノを見た。


「シャ……モミジさんに、このような汚い手で触れようとするなど…………ろすぞ……」


「ひぃ!?」


 リーシャーがウゼーノの手首を掴み、それどころか握りしめて動きを止めたのだ。

 やだ、ウチのメイド強すぎ!?



 ――――――



 冒険者ウゼーノ……ひどい名前だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る