第21話 奇妙な卵 7
突如部屋に出現した謎の卵。僕の前でだけ様子の可笑しい佐々木。ここ最近は、僕の周辺で可笑しな事態が連続して起きている。
そういった出来事は、これから更に可笑しなことが起こる前兆なのではなかろうか。一体、この先どんな事態が待ち受けているというのだろう。僕はそんなことを思いつつ、日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。その日もまた、僕は学校が終わると家へと帰宅した。
「ただいま。帰ってきたよ」
僕はそう挨拶すると、自室の中へ入る。とはいえ、部屋の中に人がいる訳ではない。僕が挨拶したのは、押し入れに置いたままの卵である。こうして挨拶するのも、今では日課となっていた。
「捨てられてないだろうな」
僕はそんなことを呟きながら、押し入れへ向かう。そして中を確認すると、そこには確かにあの卵があった。
「おっ、あった。まだ捨てられてないみたいだな」
僕はそう言うと、ほっと安堵する。ここ最近は、卵が無事か気になって仕方ないのだ。 どういう訳か、最近は特に愛着を覚えている。何故だか、とても大切なもののように思えるのだ。
僕は物を押し退け、その卵を取り出した。そして、ぬいぐるみのように抱き締めてみる。卵の表面は大理石のように滑らかな感触で、尚且つ冷たい。
こうして抱き締めてみると、不思議と心が安らぐものだ。それこそ、誰か大切な人に抱き締められているかのような。
それから程なくして、僕は勉強机の方へ向かった。そして、卵を抱き締めたまま勉強を開始する。もう直夕食が始まるだろうが、英語の単語くらいなら覚えられるだろう。
そう思い単語帳を取り出そうとした時、不意に鞄から着信音が鳴った。
「一体、誰だろう。こんな時間に珍しいな」
とはいえ、大体の予想は付いていた。何せ、友達といえば佐々木くらいしかいないのだから。佐々木じゃなければ、家族の誰かがかけてきたのだろう。
携帯電話を耳に当てると、佐々木の声が耳に入った。
「もしもし、佐々木だけど」
僕は特に驚きもせず、その声を聞いていた。
「佐々木か。何の用だよ」
「ちょっと聞いて欲しい話があるの」
普段のような、明るい声色ではなかった。何かに緊張しているかのような、硬い声だったのだ。それを聞き、何か只ならぬことがあったことを察する。
僕もまた少し緊張しながら、言葉を返す。
「何か大変なことが起こったのか?」
「いや、そういう訳じゃないの。でも、約束して欲しいことがあって」
「約束?」
「明日の部活終わりに、喫茶店に来て欲しいんだ。前に行ったことがある所よ。それで、聞いて欲しい話があるの。それは、今はまだ話せないんだけど」
そういえば、春休みが終わったばかりの頃に喫茶店に訪れたことがある。そこで、佐々木と共に他愛もない話をしたのだった。
しかし、明日はもっと重たい話をすることになりそうだ。まだ詳細な話は聞いていないが、声を聞くだけでそう察した。
僕はそんなことを考えた後、返事を返す。
「分かった。明日行ってみるよ」
「ありがとう」
佐々木は返事を聞くと、それだけ言い残し電話を切った。そして、再び部屋は静寂に包まれるのだった。
「佐々木の奴、どうしたんだろうな? 最近、何か可笑しい気がするよ」
ふと、卵にそんなことを話しかけてみる。しかし、返事が返ってくることはないのだった。
それから夕食を食べた後も、僕は黙々と勉強し続けていた。そして、気づけば就寝時間となっていた。強い疲れを覚え、椅子に背を付け足をぐっと伸ばす。
「ああ、疲れたよ。早くテスト期間過ぎればいいのにな」
これから一週間後に、中間テストを迎えているのだ。 録に勉強していなかったが故に、今になって猛勉強する羽目になっているのである。
「全く、何でテストなんかあるんだろうな。テストがあることで、誰が得するんだ。お前もそう思うよな?」
突拍子もなく、卵にそんな問いを投げ掛けてみる。当然のことながら、卵は何も返答を寄越さない。
思えば、僕も可笑しくなってしまったものだ。どうして、物言わぬ卵に愛着を持っているのか。それも、友人かそれ以上に大切な何かであるかのように。
ただ、それよりも気になることがある。それは、無論佐々木のことである。
ここ最近、佐々木は僕との距離感を縮めようとしているように見える。それに、僕といる時はどこか緊張しているようにも見えた。明日になれば、その理由が分かるのだろうか。
気になることは色々とあるが、何にせよもう寝なくてはいけない。僕は卵を押し入れに入れた後、布団の中に身体を入れた。そして瞳を瞑ると、程なくして夢の世界へと向かうのだった。
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