第18話 奇妙な卵 4
「初めて来たわ。ここが仁太君の部屋なのね」
佐々木は、僕の部屋に入るなりそう言った。そして、何故か部屋をじろじろと眺めだす。あの卵を除けば、特に変わったものも無いというのに。
こうして佐々木を部屋に招き入れたのには、理由がある。佐々木に卵を見せれば、何か卵に関するヒントを得られると思ったのだ。
佐々木は暫し部屋を眺めた後、興味津々といった様子でこう尋ねる。
「それで、卵ってどれなの?」
「ああ、今見せるよ」
僕は押し入れから卵を取り出し、両手でそれを持った。そして、佐々木に見せてみる。すると、佐々木は興味深そうに卵を見つめる。
暫しの沈黙の後、佐々木はこう呟いた。
「綺麗な卵ね」
誰が置いたかも分からない、謎の卵。普通なら気味悪く思いそうなものだが、佐々木はそうではないらしい。どちらかというと、好印象を抱いているようだ。
「これ、結構重いんだよ」
僕はそう言うと、佐々木に卵を持たせる。
「ほんとだ、重たいね」
「それに、結構大きいだろ。一体、何の卵なんだろう?」
佐々木は少し考えるような素振りを見せた。けれども、直ぐにこう返答するのだった。
「分からない」
「やっぱり」
「この卵、本当に置かれてたの? 誰かが拾ったんじゃないの?」
「いや、妹も置いてなかったらしい。親が置く訳もないしな」
佐々木は腕を組み、唸り出す。そして、独り言のように呟いた。
「不思議な話ね」
それから間を置いた後、佐々木はこう尋ねた。
「その卵、どうするの?」
「置いておくよ」
「捨てちゃいなよ」
佐々木もまた、優と同じことを言う。普通の人は、そう反応するのが当然だろうか。でも、僕の意見は変わらない。
「いや、捨てる気はないな」
「何で?」
そう尋ねられ、答えに窮する。どうして捨てられないのか、自分でも良く分からないからだ。故に「さあ」と、曖昧な返答を返すことしかできなかった。
そんな会話を交わした後、僕達は再び卵を見つめ出した。それから程なくして、佐々木はこんな疑問を口にする。
「この卵が孵化したら、何が生まれるんだろうね?」
僕はまたしても答えに窮する。この卵は、まるで物語から飛び出たような不可思議さを帯びている。故に、生まれるものすら想像がつかないのだ。
一体、何が生まれるというのか。想像すると、知的好奇心すら擽られる。また、それと同時に不明瞭な恐怖をも覚える。
暫し考えた末、僕にはこう答える他なかった。
「ま、何が生まれても責任取って面倒みるさ。卵が部屋に置かれてたのも、何かの縁だろう」
佐々木は「ふーん」とだけ言うと、不意にこんな提案をした。
「それより、次の休日どっか行かない?」
「急にどうしたんだよ?」
佐々木は何故か不機嫌そうな表情をした。どうして、そんな表情をするのだろう。それに、最近は矢鱈と僕との距離を詰めてくる印象がある。
ただ何にせよ、断るにはそれ相応の勇気が必要だ。故に、空気を読みこう答える。
「分かった。それなら、どっか行こう」
すると、佐々木は露骨に嬉しそうな表情を浮かべる。まるで、曇天がからっと晴れ出したかのように。
佐々木は晴れやかな声でこう尋ねる。
「それで、どこに行こうか?」
「遊園地とか」
「いいね。じゃ、次の土曜は遊園地ね」
佐々木は子供みたく、うきうきしながらそう言うのだった。その一方で、僕は少し憂鬱な気分になっていた。今週の休日は、家でゆっくりしたかったのだ。
ただ、こうなってしまえば仕方ない。僕は笑顔を作り、できるだけ明るい声でこう言った。
「次の土曜、楽しみにしておくよ」
すると、佐々木もまた満面の笑みを浮かべる。そして、これまた子供のような純朴な声でこう言うのだった。
「うん。遊園地、楽しもうね」
そんなことがあった後、今日もまた夜は訪れた。そして、食事や風呂を済ませた後、直ぐ様寝ることにした。
布団に入った僕は、ふと佐々木と交わした会話を反芻する。そして、再びあの疑問を自分に投げ掛けた。
一体何故、あの卵は僕の部屋に置かれたのか。そして、中から何が生まれるというのか。
もしや、宇宙人やエイリアンが生まれたりするのだろうか。それとも、更に不思議なものが生まれたりするのだろうか。そんなことを考えていると、不安と好奇心が綯交ぜになってくる。
けれど、そんな気持ちよりも睡魔が勝ったようだ。僕の意識は徐々に不明瞭になり、夢の世界へ向かっていくのだった。
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