#5 SCP-2975-JP はどんな存在なのか
昼行灯
第1話
#SCP-2975-JP
SCP財団はSCP、いわゆる異常現象を起こす存在を確保・保護・収容している。
それが財団の存在する意義であり、理念だ。
だが数多のSCPの中にはどうしても収容ができない存在もいる。例えば宇宙にいたり、別の次元にいたり、法則のない神出鬼没だったり。
相手が相手なのだから、やはり全てを収容しようとするのは難しいものである。
だが、その中には収容しないでほしいと思えるSCPもいる。無論、財団的には容認できない。あくまで一般社会に生きている人の気持ちとして、だ。
SCP-2975-JPもおそらく、そのうちの一体だろう。
SCP-2975-JPは神出鬼没で財団は収容できないと認めている。そのためにオブジェクトクラスはKeter。
Keterは収容は無理! と財団が白旗を上げたSCPに付与される。野放しのSCPとなると危ない感じがするがSCP-2975-JPは違う。
その理由として、SCP-2975-JPは日本国内のサイト81管区でしか起きない異常現象だからだ。一管区という狭い範囲でしか発生せず、影響が全国的に広がらない。
人類という大カテゴリーの保護を理念としている財団にとっては些末な範囲になる。
そのためか二次被害がない限り、記憶処理やカバーストーリーも行わないことになっている。要するに、ありのままに受け入れろということだ。
とはいえ、81管区内に在住している一般人に影響がないわけではない。財団は人類を守るために存在している。危険性が低いと言っても、やたらめったら異常現象の餌食にしたいわけではない。
対応策として、サイト81管区で働く財団職員は2時間以上の夜間業務を禁止している。特に午後10時~翌4時半に一人で作業していると現象が起きやすいため、帰れと言われる。なんてホワイトな職場だろう。
ん? 一般人類への影響はどうするかって?
勿論抜かりはない。「それは夢だ」で突き通す。
SCP-2975-JPの影響を受けると、20~60分程で眠ってしまう。異常性に睡眠作用があるらしく、例外なく眠りに落ちる。これで夢として処理が可能だ。
さらに眠ってしまっても二度と目覚めることはなかった……ということになることはなく、外部干渉がなくても6~12時間後に自然と目が覚める。めっちゃ健康に貢献する異常性だ。
それに起床した人物はSCP-2975-JPに関する記憶は失っている。しかし起きた出来事は夢という形で残る。影響を受けた人物の下には食事が出現することもあるが、眠っている間に自然消滅する。完璧に夢で押し通せる異常現象だ。
ちなみに夜食を食べたところで体に影響はない。夢の中での食事だから体重の増減もない。食べ放題である。
存在から異常現象まで全て「夢オチ」で片付けられるSCPだが、唯一SCP-2975-JPが書いたと思われるメモだけは残る。
異常な存在が一体どんな内容をメモに書いたのかというと、一言で言えば「応援」である。
例えば、夜中まで残業しているデザイナーがいたとしよう。
締め切り前でクライアントは我儘で寝る間を惜しんで修正しなければならない。そんな折にSCP-2975-JPの影響を受けると、数十分で眠気に襲われる。その欲求には抗えない。
だが財団が調査したところ、デザイナーは眠る前にSCP-2975-JPが作ったと思われる夜食を食べ、子守唄を歌ってもらって睡眠についていた。
お母さんかな? という疑問がわくがそうではない。
さらに近くのメモには「爆G6熊!mA核」というような文字化けしたような一文と、応援を表すかわいい顔文字が書かれていたのだ。
受験勉強中の浪人生がいたとしよう。
目標にしている大学に受かるために寝る間を惜しんで勉強する。経験したことがある人もいるのではないだろうか。
そんな受験生もSCP-2975-JPの影響を受けると眠気に抗えない。数十分で夢の中だ。 しかしそんな受験生もSCP-2975-JPが用意したと思われる夜食を用意し、さらに毛布のような安眠グッズも用意されて眠っていた。
そしてやはり謎の文字化けした一文と応援しているような顔文字を書いたメモを残っていたのである。
時代が時代なら妖精さんと呼ばれたことだろう。
イヤフォンで音楽を聞きながらネットサーフィンに夢中だった人がいたしよう。
夜中のリラックスタイムのネットサーフィンは楽しいものだ。気がつけば一時間二時間あっという間に過ぎている。そんな時は耳かきASMRである。心地よい安眠に誘って眠らせるのがSCP-2925-JP。
まさに時代の最先端を行く妖精さん、いやSCPである。
これまでに確認された事例で悪い影響を与えた結果は一つもない。それどころか睡眠不足になりがちな現代人にとっては、一家に一体いてもいいSCPだ。
ここまでの事例では有益そのもに感じる。しかし異常な存在であることは変わらない。
何故、人を眠らせてまで優しい家族のような行動を起こすのだろうか。
裏があるのではないかと考えてしまうのが人間の心理だ。
そこで財団はある実験を行った。
メモを残し、文字が書けるのだから知性がある。それならと、残されたメモの裏にメッセージを書き、意思疎通を試みた。
「貴女はいったい誰ですか? なぜ私に食べ物を与えてくれるのですか?」と。
この実験は上手くいき、SCP-2975-JPから返事がきた。
SCP-2975-JPは夢の一部を食事にする異常な存在だということが判明した。
これだけ聞くと、優しい家族が実はカニバリズムでした的な恐怖があるが、実際に食べられた人物の心身に影響は残らない。おそらく夢の一部を覚えていない。その程度の影響力だ。
この時の調査でSCP-2975-JPがナンバリングされる以前より複数の異常現象を起こしていた記録が見つかった。だが当時は問題にならなかった。つまり、財団は調査するほどではないと判断したのだ。もしも人を睡眠状態に移行させるような変化がなければ、依然と調査に乗り出さなかっただろう。
そしてSCP-2975-JPが人を眠らせるようになった理由は他ならない、現代人にあった。
夢を食べるSCP-2975-JPにとって、睡眠を削りがちな現代人はいつまでも食事を用意してくれないシンデレラの継母のようなものである。
寝るのを待っていても、なかなか寝てくれない。なんならそのまま朝を迎えてしまうこともある。
そこでSCP-2975-JPは自身の異常性で現代人を眠らせることにした。
つまり、自ら食事を用意するように生活習慣を変えたのだ。
だがここで、もう一つ問題が浮上した。
疲れ切った現代人はただ眠らせただけでは夢を見ない。実質気絶に等しい状態になってしまう。夢を見てくれないから、SCP-2975-JPが食事にありつけない。
こうなるとSCP-2975-JPも現代病の被害者である。
しかしSCP-2975-JPには知性があった。料理の腕もあった。洞察力もあった。
人間の食事を用意し、毛布のような柔らかい寝具を用意し、ASMRを用意し、現代人が快適に眠られるように工夫をした。
料理で言えば仕込みから始めることで、ようやくSCP-2975-JPは食事にありつけたのだ。
質の良い睡眠は、質の良い夢に繋がる。
睡眠を削る現代人の習慣は、SCPすらひもじくさせる悪癖と言えるだろう。寝ろ。
#5 SCP-2975-JP はどんな存在なのか 昼行灯 @hiruandon_01
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