素数で異世界を救えることの証明〜魔法適性がなくとも知識だけで攻略する異世界物語〜

にさご

本章 証明

第1話 最も崇高なる能力

「あぁ、また行き詰った」


 私は無名の数学者、素野 数隆その かずたか。整数論、主に素数について長年研究しているが、ここ2,3年全くと言っていいほど成果が出ていない。数学は好きだが、ここまでくると苦痛さえ感じる。しかし、私にはどうしてもこの研究をやめられない理由がある。だから、呪われたように腰が椅子からピッタリとくっ付いては離れない。


「空が明るい。鳥の声も聞こえてくる」


 神がかったアイディアというものはなかなかに神出鬼没で、私は思い浮かんだものを逃すまいと、一度ペンが進み始めれば満足するまで研究を続ける。すでに、私の中のメラトニンは枯渇しており、生活リズムはこの悪魔的インスピレーションによって支配されている。昼に全く研究が進まなくても、夜に突然閃いてしまえば行き詰るまで手が止まることはない。


「......もう5時なのか。はぁ、今更眠くなってきた」


 研究から解放された途端に、今まで蓄積された疲労がどっと押し寄せる。外ではチュンチュンと雀が元気に鳴いており、窓からは眩しい太陽の光が「おはよう」とでも言うように差し込んでくるが、私の意識は次第に薄れていく。


「あぁ、そういえば午後に講義があったな。それまでに起きなけ、れ、ば......」





 ◇◇





 起きてください!



 あぁ、ついに寝坊してしまったか。



 ほら、目を覚まして!



 にしても誰が起こしに来てくれたんだ。私はもう10年以上......。



 あなたには世界を救ってもらいたいんです!



「は?」

「ようやくお目覚めですか。相当お疲れのようですね。まぁ、無理もないでしょう。あのような日々を繰り返していては」


 目を開くと、そこには謎の薄暗い空間が広がっていた。眼前にはこの空間とは対照的な神々しい光を放つ女性が立っている。彼女は白い布のような服と、金色の装飾品をいくつか身に着けている。


「ここは、あなたは、いったい.......。それになぜ私のことを」

「ここは神界。そして、私はあなたを召喚した女神です」


 神界?女神?これは夢なのか?


「夢などではありません」

「心も読めるのですか」

「はい。女神ですから。私にわからないことはありません」


 女神、か。ゲームや小説にあるあるな異世界ものの展開だな。


「えぇ、私はあなたにとある世界を魔王から救ってもらうために、ここへ召喚しました」

「魔王の討伐、ですか」

「安心してください。最も崇高なる能力をあなたに与えます。その能力で世界を魔の手から救ってください」

「最も崇高なる能力?」

「はい。それと、向こうの世界でもうまくやっていけるように、便利な補助スキルも添えておきますね。では、いってらっしゃい」

「えっ、ちょっ!?」


 女神がそういうとあたりが白い光に包まれる。





 ◇◇◇





 視界が元に戻ると、自分はどうやら市場のような場所にいた。いろいろ自分の体を探ってみるが、手持ちは銀貨5枚に短剣が1本。ちゃっかり服装もだらしない部屋着から、この世界に合わせたそれっぽいものへと変わっていた。全く女神のやつ、あまりにも展開が早いぞ。


 ぐるりと辺りを見回すと、いかにも中世という感じの雰囲気であった。道路には馬車が走っており、建物や服装も技術が遅れている。ましてや、スマホを持って歩いている人などどこにも見当たらない。


「本当に異世界に来ちゃったんだな。後戻りもできそうにないし、どうしたもんかな」


 周りの会話を聞いた感じ、言語は問題なく理解できるな。ここはスティープという田舎の方の町らしい。


 ......で、何をすればいいんだ?


《宿の確保をお勧めします》


「なんだっ!?」


 唐突に近くから私に話しかける声がする。


《私はマスターのアシスタントです。私はマスターの魔王討伐のサポートとして、女神さまにより授けられた能力の一つ、<助手アシスタント>です》


 どうやら、頭の中に直接語り告げられているようだ。この声は私が頭の中で思った疑問に対して答えてくれた。これが女神の言っていた最も崇高なる能力なのか?


《いいえ。最も崇高なる能力とは、<素数プライム・ナンバー>です》


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る