きみの瞳と虹色の暁
柴野日向(ふあ)
1章 翠
1
あいつは信用できない。信用できるはずがない。
翔の前方で背を向けて歩く彼の姿は、一般の健常者と何ら変わりない。それが翔には不気味でならなかった。以前から奇妙には思っていたが、外出する姿は初めて目撃した。
放課後の学校帰りに、翔はたまたま翠の姿を見かけた。彼はいつもと等しく目を布で覆ったまま、翔の見知らぬ男に声を掛けていた。あっという間に興味をそそられ、青信号の点滅する横断歩道を駆け抜けて、翔はこっそりと二人の後をつけている。
あいつ、何をしているんだ。翠の頼りない細い背中は、会社帰りと思しきスーツ姿の中年男と並んで歩道を進んでいる。昼下がりの住宅街に通行人は少なく、翔は充分に距離を空け、時には自動販売機や電信柱の陰に隠れて尾行した。
心臓が若干の緊張に鼓動を速くするのを感じる。得体の知れないあいつの行動、盲目とは思えない身のこなし、七宮家に引き取られた理由。納得できない疑問が翔の頭の中で渦を巻き、肩に食い込む通学鞄の重さも忘れさせた。
六月初めの空気は早くもじっとりと重く、空には真っ白な雲が敷き詰められている。
ふいに、翠が角を曲がった。住宅街に現れた背の低いアパートと雑居ビルの隙間だった。男が訝しげに何か声を掛けている。そして苛立った様子で路地裏に足を踏み入れた。
予想外の展開に翔も足を止めたが、すぐさま彼らを追って小走りに駆け出した。目隠しをした不気味な少年が、男を路地裏に連れ込む理由が分からない。そしてその少年は、自分と同じ屋根の下で暮らしている。このまま見逃してはあまりに後味が悪い。
もはや尾行がバレようが構わない。足音を殺し、角からそっと覗き込んだ。
理解が及ばず、翔は言葉も失く立ち尽くした。
大人二人がようやく並べるほどの薄暗い道に、スーツ姿の男がうつ伏せに倒れている。ぴくりとも動かないその身体から視線を上げると、少年の背中が暗い路地の向こうへ駆けていくのが見えた。
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