第10話 裏切り

「さて、ラスボスの手前まで来たな」

「という事で、見るか?幼馴染のNTR」

「うっ」


避けようと思ったのに、逃がさんとばかりに水樹に催促された。

シナリオを飛ばしてるからアレだが、それでも健気に主人公に好意を見せる幼馴染の献身さをこれ以上裏切りたくないんだけど。


「いやー真エンドから幼馴染のNTRを見るのは吐き気催すぞ」

「あーもう。分かったよ」


水樹がそういうのでセーブして、CG集を見る。

タイトルは裏切り①


―夜中だと言うのに、ふいに目が覚めた。そしたら隣の部屋から小さい音が断続的に聞こえてくる。隣の部屋は私が好きなあの人の部屋だ。でも何の音だろう?そう思って、確認しに廊下を出て向かった。

あの人、こんな夜中に何をしているのだろうかと気になってしまったから。

『……扉がちょっと開いてる?』

おかしい。部屋の扉の鍵がかけず、扉が開いてる状態だなんて。閉め切っていないから部屋の中の様子は見えないが、今は夜中だ。

いくら勇者と言えど、不用心すぎるし他の宿泊客に迷惑がかかる。それに、部屋から聞こえる音が大きく感じる。

なぜだろう、見たらダメだと警鐘を鳴らしている。でも、この音の正体を知りたい。そう思って、覗き込むように扉を少し開けて部屋の様子を見た。

『――っ!?』

好奇心は猫をも殺すとはこの事か。見るんじゃなかった。そして、音の正体を知った。知ってしまった。

私の好きなあの人が、パーティの一人と交わってる現場を目撃してしまった。

(嘘……嘘よ……嘘よこんなの!!)

咄嗟に声を出さない様に口を押えた。だが、そんな私の事を知る由もない現場の二人は嬌声を部屋に響かせている。

あの人の動物の様に一心不乱に動く姿を見た。でも、それは私にじゃなく、パーティメンバーの一人。

確かに私はまだ恋人の立場では無かったけど、無かったけど!!

(……夜風に当たろう)

部屋に戻った所で寝られる気がしない。気を落ち着かせる為にも、あの音を聞きたくない為にも、外に出よう。そう思って羽織を着て外に出た。

『なんでこうなるのかな……』

広場で一人、ポツンと備え付けられた椅子に座り、考え込む。考え込んでしまう。

私は確かに他のメンバーと比べたら劣ってる。強くも無いし、撃たれ弱い。でも、それでもあの人は私を見捨てずパーティのメンバーから外さずにいてくれた。

でも、そういう対象に見られなかったのか、私以外の女の人と交わっていた。

『はぁ……』

『あれ、先客がいたか』

『誰です!?』

思わず声を荒げた。その先には一人の男性。見た感じは中性的だが好青年のような人だった。

『ごめんね、僕も一人になりたくてここに来たんだ』

『あ、はい。私もちょっと外にでたい事が起きまして……』

この男の人も私の様に何かあったのか、一人になりたい様子だった。何があったんだろうと思うけど、流石に踏み込むわけにはいかない。

『僕はともかく、君は戻った方がよくない?夜中で女の子一人は危険だよ?送ろうか?』

『お気遣いなく。今は、本当に、戻り……っ!』

脳裏によぎった、交じり合う二人。まだしてるのかなと思うと、とてもじゃないが戻りたいとは思えない。そう思っていたら目元を布で拭かれた。

『どうしたの?話だけでも聞くよ?』

『いえ、本当に……』

『じゃあ僕がここに一人で来た理由を語るから、君も教えて欲しいな』

『……言わないかもしれませんよ?』

『それでも良いよ。僕が聞いて欲しいだけだから』

そう言ってもう一つの椅子に座り、語りだした。その内容が思わず私と被っていた。

私と同じように音が聞こえ、見に行ったら彼女が自分とは違う男と交じり合ってるのを目撃してしまったらしい。襲われた様子でもなく、自分から求めに行くような姿に、浮気していたと発覚したそうだ。

詰め寄る気にもならなくなり、一人になりたい。でも部屋に戻ると音が聞こえる。そう思って私と同じように広場に来たようだ。

『どう?情けない男の話は』

『……私と似てますね』

『あ、嫌な事思い出させちゃった。ごめんね』

『いえ、なら、私の話も聞いてください』

気が楽になるかもと思ったら、抱えた感情を吐露した。見ず知らずの男性に。

けど紳士的な彼は私の話を聞いてくれた。優しい彼をなぜ彼女は裏切ったのだろうか。私には分からない。

『ふふ、似た者同士だね』

『ですね』

『でも、もしかしたら君の思い人は、酒に酔った勢いかもしれないよ?』

『え?』

『英雄色を好む。お互い出来上がって酔った勢いそのままって可能性も無くは無いし。それに』

『それに?』

『僕と違って君は女性だ。一線を超えられてもまだ堪えられる方だ。営みでマズいのは女性の方だからね。裏切りかもしれないけど、今日は一夜の過ちの馬鹿をやらかしたと見逃してあげたら?』

『……はい』

彼にそう慰められるとは。ただ、ただそう思ったら気が楽になった。私の思い人は勇者だ。だから、彼の言う様に英雄色を好むでしてしまったかもしれない。なら、今日の所は見逃してあげよう。

『送ろうか?』

『お願いします』

紳士的な彼にそのまま私が泊まっていた宿まで送ってもらった―


「あ、ここで手を出さないんだなこの男」

「基本善人が多いって設定だからな」


だとしても、俺が獣人ルートを通った裏でこれが起きてるのかと思うと、罪悪感が半端じゃない。たまたま現れた男が紳士だったから良かったが、暴漢だったらなぜやってしまったんだって頭を抱えていたかもしれない。

というより、同時進行してるのを踏まえると、純愛シーンが流れてる時に、幼馴染にその現場を見られてた事になるのか。


「ま、ここから地獄になるんですけどね」

「もう止めてくれ……」


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