第7話 清浄教会
『魔女の復活』―――マグガンズによって大々的に報じられたこの内容は一瞬で世界を駆け巡った。
加えて紹介されていた敵のことなど些細なもので、『魔女』が現代にいるという内容の方が大きかった。
「魔女が復活ねぇ・・・滅んだんじゃなかったのかい」
「それがよぉ、あの『シュタルハーゼ学園』半壊の原因の一つなんだと!!」
「えぇ~・・・やっぱ魔女ってのは恐ろしいねぇ」
道中立ち寄ったレスブトアの街の酒場でそんな噂話を耳にする。
注文したホットミルクを口に含み、その甘さと暖かさに心が満たされる。
学園を出てから数日、とある目的地に向かうために、山間部にある街で色々と準備を整えていた。
「お兄さん、まだ旅を続けるのかい?」
「・・・ああ、目指すところがあるからな」
少し背丈の小さい老店主はコップを磨きながら、目の前の青年―――紅眼を封印し、純朴そうな見た目となったルイン―――に対し、会話を続ける。
「ここ最近、ずっと滞在していたけど、何かあったのかい?」
「ああ・・・この付近に、洞窟や遺跡があると聞いてな、色々と探してるんだ」
「ってことは調査員かなんかかい?そういえば『氷の洞窟』は行ったことがある?」
「『氷の洞窟』・・・確か、この街の観光的なモノじゃないか?」
「うん、今でこそ年中氷があっていつでも涼しいってことで有名になってるけどウワサによるとこの街が村だった頃からあるらしくてねぇ・・・嘘か本当か、古代の王族の墓だとか、魔王の武器が眠っているとか―――」
「・・・だからちらほらと冒険者をみるわけね・・・」
それほど多くはないが、明らかに住民ではない風貌をしたものや、武具を纏った者が見受けられた。
「マスターは?よく知ってるの?」
「ああ・・・私もねぇ、ずっとここに暮らしているが、観光地以外ということは何も・・・それに昨今『魔女』とやらが出てきただろう?それの影響か各地の墓所や洞窟が再度調査再開って言ってるし」
「悪いことではない、と」
「うーん・・・どうなんだろうねぇ」
答えをぼかした店主は心なしか嬉しそうな顔をする。
世界にとっては破滅の象徴が甦ったとしても、こうして観光客や冒険者が街を訪れ、金を使うというのは悪いことではないのだろう。
その狭間で揺れ動いているのだろうが、にやけているのを見ると営業が好調なのは見て取れた。
それに貢献するかのように、もう一杯同じものを頼む。
注がれたホットミルクは暖かな湯気を立て、微かに香る甘いニオイが鼻腔を刺激する。
「まぁ、魔導兵士隊の皆さんや教会の方々にとっちゃ災厄の象徴なんだろうけど、ワシら一般人にとっちゃ特に弊害はないからねぇ」
「違いない、ああいったのは本来別の―――」
会話の途中、扉が弾け飛ぶ勢いで開かれ、数人の男達が入ってくる。
鎧を身に纏い、腰や背中に武器を下げているところをみると冒険者だろう、店内の視線を後目にカウンターに近づく。
「おぉい!ジジィ!酒と食いモン!ありったけ寄越せ!!」
「へいへい、お代を頂戴しま―――」
店主がそそくさと準備をしようとしたところ、カウンターを思いっきり拳で叩く。
「俺を誰だと思ってやがる!?偉大なる冒険者様、グエント様だぞ!?そんな俺様から金を巻き上げようってのか!?」
グエントと名乗る男は店主の胸倉を掴んで持ち上げた。
取り巻きの男達も面白がるように笑っていたが、誰も仲裁に入ろうとしない。
「し、しかしですねぇ・・・お代を頂戴しないことには私にも生活がありまして―――」
「そんなもん、この俺様が訪れたというだけで客は来るだろうが!」
ちらり、と周りをみる
呆れた顔をする者、関わりあいを避ける者、取り巻き達はそいつらに睨みを聞かせて何も言わせないようにしている。
「おい、いい加減に―――」
―――おやめなさい!それ以上は我々が許しません!
「あぁ?」
ルインが止めに入ろうとした瞬間、甲高い女性の声と共にバン!と扉が勢いよく開かれ、恐らく声の主であろう修道服に身を包んだ女性が威勢よく止めに入る。
「それ以上の不敬は我々『清浄教会』が許しません!!」
「っ・・・・・!」
その名が聞こえた瞬間、ルインは逃げるように店外へ出ていく。
「清浄教会だぁ?なんだってイイ子ちゃん達がこんなとこにいやがんだよ!?」
店主から手を離し、女性に向けてその拳を振り上げる。
「おやめなさい、周りが見えていないようですね」
「あぁ?―――お、お前らっ!?」
「ぼ、ボス~・・・」
いつの間にか店内は同じように修道服に身を包んだ集団によって占拠されており、取り巻き達は手を後ろに回され拘束されていた。
「先程から会話を聞いていましたが、あなた方は金銭の支払いを拒みましたね?物々交換というわけでもなさそうです・・・どういうことでしょう?」
「お、俺達は!冒険者だ!後で払うつもりだったんだよ!!」
「ほう?それはいつ?どこで?何をもって支払いと?」
「こんの―――」
拳を振るうとウィンプルを掠め、はらり、と舞い落ちる。
「―――神の使徒に対する敵対行為と確認―――」
その下には目つきが鋭く、眼鏡を掛けた女性がおり、避けていたのか橙色の髪が遅れて女性の後を追う。
「あ?なにを―――」
「―――使徒を傷つけようとする者よ、我が神の御名において、罰を下す―――」
敵対行為を働いたグエントに向け、両手を前に突き出すと、掌から紅い布が飛び出し、それはあっという間にグエントを包み込むと、強力に締め付ける。
「ぐおおおおおおおっ!!?」
「ご安心を、この布は『決してあなたを傷つけません』あなたが罪を自覚し、罰を受けたと思うまでこの締め付けは続きます」
「い、いでぇ!わかった!わかったから!た、助けてくれぇ!!」
「いいえ、助けるのは私ではありません、あなたが罪を自覚すれば、締め付けは弱まります」
淡々と述べるが、グエントの悲鳴も耳に入らないようで、切羽詰まっているにも関わらず拘束を緩めようとしない。
「さぁ!あなたの罪を―――!」
更に締め付けを強めようとした瞬間、ガクン、と首が項垂れる。
「え?」
間抜けな声が上がるが、布の締め付けは終わらない
徐々に締め付けていき、先程よりも間隔が狭まり―――このままでは絞め殺してしまう!
「あ、ああああ!ど、どうしましょう!?どうしましょう!?このままでは―――!」
先程までの威勢のよさはどこにいったのか、急に慌てだしたシスターに駆け寄る影が一つ。
「隊長!今すぐ『許し』を!!」
「あ、は、はいっ!――――『あなたの罪を許します』―――」
両手を組み、静かに祈りを捧げると、布が一気に消え去る。
グエントは口から泡を吹いて気絶しているようで、締め付けられたままの格好だった。
「救護班!今すぐ此の者に『治癒術』を!」
救護班と呼ばれた二人が迅速に駆け寄り、グエントを癒す、
「―――我らが主よ、御身の御力をこの使徒に―――」
二人の両手から柔らかな光が溢れ、グエントを包み込む。
聖典術式―――『清浄教会』が独自に開発し、入信者に授ける魔術や魔法とは違った術式である
グエントの表情が段々と安らかなものに変わり、それを見たシスター―――ルシャールはほっ、と息を吐く。
「よ、よかったぁ・・・」
「『よかった』じゃありません、なんだって『罪を自覚しなければ消えない』なんて嘘をつくんですか!あなたの術式で生成したものがあなたで制御できないわけないでしょう!?」
「だ、だってそういえば早く罪を認めてくれるかなと・・・」
「いくら他者を傷つけないものだとはいえ限度というものがあります!大体ですね―――!」
ルシャールは床に正座させられ、説教されるたびにどんどん身体が縮こまっていく。
何か言い訳しようとしても、部下からの一喝に口を噤む
酒場は剣呑な雰囲気から一変し、朗らかな空気が流れていた。
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