第6話 勇者『セレスティア・ヴィーラン』

「く・・・大分、やられましたね・・・」


 学園からかなり離れた森の中で負傷したセフォラを始め、ベッロとゲノスは一息ついていた。


「ゲノス、こちらに来なさい、あなたの傷、治します」


 グルル・・・と唸って獅子となったゲノスは頭を垂れる。

 傷ついた身体はセフォラの手から放たれた光で、徐々に治っていく。

 その隣には完全に鳥になったベッロが羽で一人と一匹を包み込む。



 ――やぁ、結果はどうだった?


 不意に、楽しそうな声が響く。

 明るかった森が急に曇天が立ち込め、動物達が騒ぎ始める。

 それはゲノスも同等なようで、姿勢を低くし、一点をじっと見つめ、唸っている。


「やあやあ、そんなに警戒されても困るな」


 森の奥から姿を現したのは―――黄金色の髪をした少年だった。

 無邪気に微笑むその姿は可愛らしいもののはずだが、発せられる圧に身震いする。


「この感じ・・・〝長〟・・・!」

「おっ!よくわかったねー、見た目だけの変化じゃあ君には通用しないか」


 うーん、と唸りながら、自身の格好を見る

 まるで今から式典に出るのかとでも言うような白を基調とした服は、今のこの状況には不釣り合いだ、しかも相当山奥だというのに、靴には泥撥ね一つとしてなかった。

 動かない身体を無理矢理動かして、長、と呼ばれた人物に頭を下げる。


「いいよいいよ、君達じゃあ敵わないことはわかっていた―――」

「っ!!」

「だって魔女だよ?歴代最強の魔女が、一介の魔術師に負けるわけがない―――!そう!『あの御方』は完璧なんだ!!」


 芝居がかったような動き、だがその言葉が本心であることは明確だった。


「そして君のお供は『本来の姿』を解放せざるを得なかった―――ああ!なんと素晴らしいチカラ!さすがは魔女!!」


 怯えるゲノスに近づき手をかざすと、一瞬にして元の姿に戻る。


「オわっ!?」

「その様子だと全部開放したみたいだねぇ、そうじゃなければすぐに戻れるはずなのに――そっちのキミも」


 巨大な鳥になったベッロにも同じように手をかざすと、瞬く間に人の姿に戻った。


「うへぇ」

「長・・・」


 セフォラが感謝と共に、顔をあげようとした瞬間、思いっきり踏みつぶされる。


「ゲバッ!!」

「っ!!」

「兄ぃっ!!」


 それを見た二人が飛び掛かろうとするが、少年が両手を振り下ろすと見えない力で地面に押しつぶされる。


「が―――ぎ―――」

「ウ・・・オオお・・・」


 どれだけ力をいれても、全くどけられる気がせず、段々と身体ごと地面にめり込んでいく。


「―――折角さぁ!君達に任せたというのに!!なんでなんの成果もあげられずに帰ってくるのかなぁ!?えぇ!?」


 ガンガンと勢いよく頭を踏みつぶされるが、セフォラは何も言えない。


「腕の一本!指の一本でも持って帰ってくれば!まだ使い道はあったっていうのにほんっと何しにいったんだよ!!」


 先程までの温厚さがウソのように苛烈になった少年は、セフォラの頭をぐりぐりと足蹴にする。


「オマエのペットも役に立ってねぇし!そこまでしてなんで何もできて―――――――――――――ふぅ」


 突然温厚な表情に戻ると、埋まっていたセフォラの頭を引き上げる―――髪を引っ張りながら

 顔面は泥と血に汚れ、鼻血が噴き出していても、それを拭わず、しっかりと長を見ていた。


「うんうん、良い眼だね、ボクは君のそういう従順なところが気に入ってるんだ・・・本当ならすぐに殺しちゃうところだけど今までの君の功績があるから許してあげるよ」

「・・あ・・と・・・ざ・・・す」


 声は掠れていたが微かに礼を言うとそれに満足した少年は無造作に手を離す、


「でも・・・これで『あの御方』の存在が世の中にバレる・・・!そうなればコソコソと隠れる必要もない・・・!なんっっっっっっっっっっとすばらっっっしいぃぃいぃっ!!!」


 歓喜の叫びをあげると共に、辺り一面が一瞬にして何もない荒野に変わった。

 草も、木も、一瞬で消え去り、生物の気配が微塵も感じられない。

 唯一、少年のいる場所と、セフォラ、ベッロ、ゲノスの三人は無事であった。


「そうなったら増々『あの御方』が生き辛くなる・・・そうならないために、まだ働いてくれるね?」


 三人はあれだけの仕打ちをされたにも関わらず、丁寧に片膝をついて、忠誠の姿勢をとる。


「承りました―――我らが長―――『セレスティア・ヴィーラン』様―――」


 見上げた少年の瞳は『紅く』染まっており、異質な雰囲気を纏っていた。


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