第10話 食料問題



「そもそもここは……」


 どこなのだろう。

 ちょっとダメ元で鑑定してみるか。

 目の前の木々に意識を向けてみる。


__________________

【ゼルトニアの木】

 周囲に豊かな生態系を育み、自然の循環に貢献する生命の木。

 木の実は鳥や小動物の食料となり、木の葉は土壌の肥沃度を高める。

__________________


 へえ、立派な木なんだなぁ。


 って、違う違う。

 私が知りたいのはこの森のことだ。

 もっと全体を俯瞰して見てみるか。


__________________

【煉獄の森】

 煉獄の魔物がひしめく大森林。

 生態系が豊かであり、希少な資源の宝庫。

 勇敢な者だけがその秘密を手にすることができる。

__________________


 鑑定できた!

 けど、鑑定するべきじゃなかった!

 怖い、怖すぎる!


 煉獄の魔物って語感が非常に不穏。

 たぶんスタンピードのあの魔物たちのことだよな。

 途中で立派な木を一本へし折ってたしな……。

 樹皮に爪痕を残す程度のブラッディベアが急に可愛く思えてきた。

 いや、充分脅威だけどね!

 今さらだけど、とんでもない森に飛ばされたもんだ。


 急にカクロコンへ帰る自信がなくなった。


 親父、お袋、すまん。

 孫の顔……見せられそうもない。


 ぐうううう~……。


「なにごとじゃ!? 竜か!?」

「いえ、私のお腹の音です……すみません」


 恥ずかしい。

 こんなときにも腹が減る。


「尋常じゃない音じゃな……」


 確かにびっくりするほどの音だったが、竜と間違えるのはひどくないか。


「まずは食料を探すかの。ここは妾の恵みでいっぱいじゃ!」

「見たこともない動物や植物がたくさんいますね。これはちょっと、気軽には手は出せないなぁ。馴染みのある植物があると安心するのですが」


 未知のものには手を出すな。

 これは遭難時の鉄則である。


 だからこそ、冒険者ギルドの最初の講習で叩き込まれるのだ。

 未知のものがないように、命芽の森の知識を。


 だが命芽の森の知識なんて、ここではちっとも役に立たない。


「このへんの草とか、食べられるんですかね……」


 しゃがみこんだ私は、緑々とした野草に手を伸ばした。


「お主は何を申しておる。その目にかかっておるものはなんじゃ」

「……!!」


 そのとき、電気が走った。


「そうか! 食べられるか鑑定すればいいのか!」


 誰でも思いつく、とても簡単なことだった。

 やはりどこかしら気が動転していたのかもしれない。

 さっそく目の前の野草を鑑定してみる。

 もちろん頭の中で、「これは食べられるか? 毒や効能はあるか?」と念じながら。


__________________

青鷲葉あおわしば

 レア度:3 品質:S 鮮度:S 食用:可

 鷲の羽根のような形をした緑の葉を持つ山菜。

 独特の苦味と柔らかな食感が特徴。

 一時的に視力が上がり、遠くの物体が見やすくなる。

__________________


「……食べられる!!」


 しかも効能の説明まで。

 便利すぎるぞ、この眼鏡!


「お! 青鷲葉あおわしばがいっぱい生えてる!」


 このあたりは、羽のような形の植物が群生していた。

 森の中って、探せばこんなに食材があふれてるのか。


「すごいです、ロリさん。ここは山菜の宝庫ですね」


 この眼鏡があって本当によかった。

 未知のものでも安心して食べることができる。


「さすがは妾の大地じゃ!」


 目の前の幼女はなんとも誇らしげだ。


 ぐうううう~……。


「なにごとじゃ!? 竜か!?」

「だから、私のお腹の音ですよ」


 周囲を警戒しなくても大丈夫ですよ。

 音の発生源はここです。


「うーん、生か。ちょっと食べてみるか」


 ちょっと気が引けるが、青鷲葉あおわしばを食べることにした。

 くんくんとにおいを嗅ぐと当然青臭い。

 そのまま草を口に含んで、むしゃむしゃと咀嚼する。


「くっ……苦い。舌も痺れる。アク抜きが必要なやつか」


 見た目通り、不味かった。

 思わず顔が渋くなる。

 これを腹いっぱい食べるのはきついな。


「見るからに苦そうじゃもんな」


 アクの強さはゼンマイやタラの芽に似ていた。


「でも、茹でてから天ぷらにすると、きっと美味しいですよ」

「のわっ! それは妾も食べてみたいのじゃっ!」


 シマリスのときと違って、幼女のときは表情が豊かだ。

 胸がきゅっとなるほど可愛らしい。

 こういう素直な反応を見ると、もっと喜んだ顔が見たいと思ってしまう。


「料理か……」


 ロリさんのために、フライパンを作るのもありだな。

 幸か不幸か、鍛造炉を作る理由がますます増えていく。


 むしゃむしゃ。


 草を咀嚼するたびに顔が渋くなる。

 不味いからといって食べる量を減らすと倒れてしまう。

 お腹いっぱい食べるには料理は必須かもしれないな……。

 おし、前向きに検討で。


 どうせならこの地獄の森を楽しんで過ごしたいもんな。


 でも今は道具が何もないので、当分は味を我慢して食い繋ごう。

 それに一番大事なのは、食事よりも武器作りだ。


 私はゆっくりと息を吐き、この生命豊かな森を見回した。

 植生は多様だし、動物の姿も多い。


「食料問題は何とかなりそうだな」


 鑑定眼鏡のおかげで毒は避けられる。

 そのうえアイテム袋のおかげで保存を考えなくていい。

 神のアイテムにだいぶ助けられている。


「となると次は……水か」


 問題はまだまだ山積みだが、すこしずつ希望が見えてきた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る